レアルマドリードのある生活

レアルマドリードの応援日記。試合中心にお送りします。

ポグバ、ヴェラッティに関する接触否定声明から考えられる解釈

’14~’15シーズンが終了し、マドリーはアンチェロッティからベニテスへと監督を入れ替えた。

監督が代わり、多少なりとも新しいチームに変革する可能性の高いオフであり、本来であればいろいろな話題が出てきてもおかしくないのだが、シーズン終了後は代表戦が続いており、クラブの確たる話題自体が少ないこともあって、現地紙も信憑性の低いものにまで手を出して引用しあいながら、移籍に関する様々な話題を載せているといった状況である。

シーズン終了直後、マドリーは移籍に関して2つの公式声明を発表している。

1つは5月28日に発表されたもの、もう1つは6月4日に発表されたもので、それぞれ報じられたポグバとヴェラッティの移籍話について、「現所属クラブや代理人とは一切接触しておらず、報じられている内容は全くの虚偽である。」と報道内容を否定する内容であった。

新たなプレーヤーを獲得した際の公式声明はオフに都度発表されており、珍しいものではないが、報じられたプレーヤーに関してクラブや代理人との接触を否定する声明が出されることは珍しく、しかも1週間程度の間に2回も発表されることは滅多にない出来事と言える。

こうした声明が立て続けに出されることになった背景には、どういった事情があるのだろうか。

代理人と移籍

まず、本題に入る前に、ご存知の方も多いと思うが、近年の移籍市場の状況について一度確認しておく必要があるだろう。

本来、プレーヤーの移籍は、相手クラブとのクラブ間合意、プレーヤーとの合意の2つがあって初めて成立することになるが、近年は代理人の力が非常に大きくなっている。本来は移籍の主役であるクラブやプレーヤーよりも目立つ立場となることもあり、クラブやプレーヤー同様、大物代理人の動向も移籍市場の情報として欠かせないものになりつつある。

今マドリーで最も名を馳せている大物代理人は、間違いなくジョルジュ・メンデスだろう。

トップチームにはロナウドを筆頭に、ハメス・ロドリゲス、コエントラン、ペペといった彼のクライアントが在籍しており、マンチェスターU.へ移籍したディマリア、元監督のモウリーニョも彼のクライアントである。

こうした代理人は時に、クライアントが移籍するかどうかやどのクラブへ移籍するかにも大きな影響を与えるようになっている。

代理人は通常、移籍に際して発生する違約金の数パーセントを収入とすることができ、クライアントを移籍させればさせるほど巨額の収入を得られる仕組みとなっている。そのため、代理人が主導し移籍する、といったこともあるのが実情だ。スポーツ的に見ておかしな移籍の裏には、代理人の意向が働いているかもしれない。

マドリーが代理人に振り回された例としては、ロビーニョの移籍が挙げられる。

当時の彼の代理人はワグネル・リベイロという人物で、スタンドプレーが目立つ代理人だった。彼にはロビーニョマドリーと契約した際も混乱させられたが、2008年の夏、マドリーから出て行く際はさらにひどかった。

当時マンチェスターU.にいたロナウドの加入報道があったため、ロビーニョのチーム内での立場が悪くなると様々に発信してクラブもプレーヤーも揺さぶり、最終的には移籍期限ギリギリの8月下旬にインタビューでロビーニョがいきなり移籍願望を公言するに至った。これを受けて、マドリーは彼の移籍に関する公式声明を発表し、事態の鎮静化を図ったものの、公に発言したことから移籍自体は止めようもなく、結局マンチェスター・シティへと移籍していった。

ロビーニョは当時のマドリーでは主力の一人であり、穴埋めも難しいタイミングで代理人の動きによって移籍に向かって突っ走られたことは、マドリーにとっては衝撃的な出来事であった。

このように、プレーヤーの移籍の裏では代理人が良い意味でも悪い意味でも様々に動いているということは、常に気に留めておくべきだ。

代理人には代理人の人脈や利害関係がある。クラブにも当然それぞれ人脈があり、付き合いの深い代理人もいれば、全く出入りのない代理人もいる。付き合いが深ければ、マドリーとジョルジュ・メンデスとの関係のように、良くも悪くも彼のクライアントと契約できるが、付き合いがない代理人のクライアントと契約するのは非常に困難だ。

人脈がなければビジネスは成立しない、というのは自然なこと。まして大きな取引となれば、今までほとんど付き合いもなかった相手と急にできるわけはない。

そのため、各クラブは、プレーヤーや他のクラブはもちろん、クライアントを獲得したい時に適切に行動してもらえるよう、代理人とも良い関係を築かなければいけない時代となった。クラブ同士の合意を得て、その後プレーヤーと接触し契約に至る、という本来の交渉方法の方が牧歌的とさえ言える状況となっているのだ。

■公式声明が持つ意味

基本的な情報をおさらいすると、ポグバの代理人はミーノ・ライオラという人物である。リンク先で見られるように、彼のクライアントはポグバのほか、イブラヒモビッチルカクマテュイディバロテッリなど錚々たるメンバー。彼は移籍に絡んで表立って発言することもしばしばあり、抱えているクライアントや彼自身の振る舞いから、市場においては目立つ存在だ。

一方、ヴェラッティ代理人ドナト・ディ・カンプリ。ディ・カンプリ・マネージメントという会社でプレーヤーをマネージメントしており、クライアントは全てイタリア人である。

これまで彼らのクライアントとマドリーがトップチームで契約したことはく、彼らとマドリーの関わりはないに等しい。

先ほど見てきたように。そうした状況で移籍、しかも規模の大きなものがいきなり成立するかというと、可能性は非常に低いと言える。

特にポグバとライオラについて言えば、一部報道にもあったように、ライオラの振る舞いをペレスが懸念しているということもあるかもしれない。高額の移籍金で契約したは良いが、あれこれと理由をつけて代理人がプレーヤーを動かし、すぐに退団となっては意味がない。

それ以上に、ジョルジュ・メンデスに加えてライオラとも付き合いを深めると、彼らの売り込みに対応しなければならないし、すべてを断ることはできなくなるだろうということもある。

昨シーズン、ジョルジュ・メンデスがファルカオを売り込んできた時、ペレス会長はそれを断った上で「これ以上彼のクライアントと契約したら、メンデスに会長職を譲らなければならなくなる。」といった趣旨のことを周囲に漏らしたとも伝えられている。この話が事実かどうかはともかく、大物代理人との付き合いが増えすぎても、クラブとして身動きが取りづらくなることを端的に示すエピソードと言えるだろう。

ジョルジュ・メンデスだけでも対応に困ることがあるのに、ライオラとまで付き合いだしてしまったらまずいことになる、という判断をペレス会長がしてもおかしくない。

こうしたことを踏まえて今回の公式声明を読むと、3通りの解釈ができる。

1つめは、現所属クラブに対する意味合い。「あなたのクラブに所属しているプレーヤーに対してアンフェアな接触はしていません。」と公式に発表することで、クラブ間で疑念を持たれることを避け、良好な関係の構築・維持を図るもの。

2つめは、話題となっているプレーヤーの代理人に対するものという解釈。

マドリーは、ポグバとヴェラッティ代理人との関係が極めて希薄で、そのため移籍の可能性は非常に低い。代理人と接触していないと関係を否定することで、関係の希薄さを認め、移籍の可能性を否定する。

ポグバ及びライオラについては、状況が変わればマドリーやバルセロナに移籍しようとするのではないかと盛んに報じられているし、ライオラはイブラヒモビッチなど大きな移籍をうまく進めてしまう実績が多い人物であることから、クラブ側から体よく取引をお断りする、といった意味にも取れる。

ポグバがピッチで活躍するかどうかはともかく、ジョルジュ・メンデスと関わりが多いマドリーが、それに加えてライオラのような代理人と付き合いを深くすることに拒否感を持つことは、十分にあり得ることだ。

3つめは、現在所属しているプレーヤーとその代理人に対するものという解釈。

これは少し穿ちすぎな見方かもしれないが、別の代理人との付き合いを深めて、現在所属しているプレーヤーの代理人との付き合いを止めることはない、というメッセージとも読み取れる。

仮に、ジョルジュ・メンデスのように多数のクライアントと契約している代理人にそっぽを向かれ、ロナウドのような主力プレーヤーをマドリーから移籍させるような事態になれば、スポーツ面、ビジネス面ともにクラブが蒙る悪影響は計り知れない。

ロビーニョの例で見たロナウド獲得報道に端を発する移籍のように、報道を放置することで、代理人がプレーヤーを唆しクラブと敵対的に移籍していくことは現実にある。逆に、「今関わりのある代理人の皆さんとの付き合いは継続しますよ。」と表明すれば、代理人は今後もマドリーと取引は出来ると受け取るだろう。

■最後に

このように考えると、噂の否定にわざわざ公式声明を発表することの裏には、様々な意図があると考えられることが分かる。

もちろん、正解はこうだったと後で分かる類の話題ではないが、考えてみることで、いくつかの事実の断片は見えたのではないだろうか。

とはいえ、明日と言わず、数時間で白かったものが黒くなるような移り変わりが見られるのが移籍市場の常。こうして考えた結論もすぐに意味を成さなくなるかもしれない。そうしたことも含めて楽しむべき時期だとは言える。

マドリーにとって良い話題も悪い話題もあるだろうが、いろいろと考え、楽しみながらオフを眺めていきたい。