レアルマドリードのある生活

レアルマドリードの応援日記。試合中心にお送りします。

デヘア獲得の失敗で失ったペレス会長の求心力

マドリーの今夏の話題の中心だったデヘアの獲得は、最終的に事務処理が間に合わず実現しないままで終わった。

マドリーもユナイテッドも最終日の交渉の経過を説明する形で自らの正当性を主張する声明を発表しているが、マドリーが今シーズンのデヘアの登録を認めるよう抗議することもなかったため、何が事実なのか詳細に検証されることはないままで終わりそうである。

交渉の経過がどういったものであったかに関わらず、ペレス会長にとって「狙った獲物」を逃がしたことのダメージは大きい。

スポーツ面への配慮がほとんどなく、そのためにチームの成績が芳しくなくとも、ペレス会長が一定の支持を集めているのは、経営面での功績ももちろんあるが、価値の高いプレーヤーを狙ってきっちり連れてくるオフの手腕によるところもあるからだ。

以前に書いたように、移籍は資金さえあればどうにでもなるというものではなく、相手クラブや代理人との人脈がなければ成立しない。ペレス会長はACSの経営者として元々あった政財界の人脈のほか、マドリーの経営に関わって得た各クラブや代理人との関係も生かし、これまで数多くの大きな取引を成立させてきた。

確かに、獲得したプレーヤーに賛否両論あり議論を呼ぶことはしばしばある。ベイルのようになかなか受け入れられないケースもあり、誰を連れてくるかについての意思決定には問題点が多い。

しかしながら、これと見定めたプレーヤーを逃さず契約できる能力は何物にも代えがたいものだ。

「誰とでも契約できる能力はあるが、適切でないプレーヤーと契約することがある」のであれば、きちんとしたスカウティングと意思決定によって矯正できる可能性があるが、「そもそも契約可能な相手が限られる」となると、そこからの進歩は期待できない。何とか改善するにしても、長い年月が必要になる(マドリーでいえば、第一次ペレス政権後のカルデロン時代が思い起こされるだろう)。

ペレス会長は、この能力によって、マドリディスタの心を掴んできたのだ。

今夏は、獲得可能なフィールドプレーヤーに話題性のあるものが少なかった。その中で、アトレティコで育った彼をマドリーが獲得するというストーリーはクラブの存在を大いにアピールするものであり、そのためにかなり早い段階から彼が今夏の目玉であるとメディアに取り扱ってもらっていた。

その意味で、ペレス会長としてはデヘアは必ず契約しなければならないプレーヤーだった。

獲得交渉の失敗は見えないだけでこれまでにも数多くあっただろう。しかし、ペレス会長の意図通りここまではっきりと獲得の第一候補と報じてもらいながら、失敗してしまったことは例がない。しかも、最終日に事務処理の問題が原因で流れたと世界中に知られてしまった。

どちらのクラブに原因があろうが、最も執心していた獲得候補の契約にお粗末な理由で失敗したという事実は変わらない。それが明らかとなったことで、ペレス会長のプレーヤー獲得能力の評判に傷がつくこととなった。

それに加え、カシージャスの取り扱いも問題となる。

デヘアがやって来ることを半ば前提として、カピタンであったカシージャスは表向きには世代交代の形でクラブを出ることとなった。カシージャスの人気は高く、こうした形で移籍することをよしとしないマドリディスタも多くいたが、この数シーズンの不憫な扱いもあり、同じスペイン代表のGKがマドリーのゴールを守るならばと送り出した人々もいるだろう。

それにもかかわらず結局後継者はやってこなかったとなれば、そうした人々はペレス会長のやり方に改めて反感を持つことになる。カピタンを追い出すことはなかったではないか、と。

今回のデヘア獲得の失敗で、ペレス会長の求心力を支えている交渉力に疑問符がつくこととなった。しかも、カシージャスを移籍させたにもかかわらずその後継者たるプレーヤーを連れて来られなかったという事実が重なった。これらは、ペレス会長の支持を大きく減らす原因となる。

もちろん、評価は今シーズンの成績次第だ。

ナバスとカシージャが素晴らしいプレーをしてくれ、チームもタイトルを取れれば、デヘアの獲得が流れたことなど忘れることができる。逆に、シーズン途中でも結果が振るわなければ、ベニテス監督はもとより、こうして補強に失敗したペレス会長へも批判の矛先が向くことになるだろう。

そうなった時に、直ちに辞任といったような騒ぎになるとは考えづらいが、批判をかわすために思い切ったチーム再編に走る恐れは十分にある。そうなれば、立て直しにしばらく時間を要することになる。タイトルは当分先の話になるかもしれない。

そんなことにならないためにも、ベニテス監督には今のチームで良い内容のプレーをし、何としてもタイトルを取ってもらわなければならない。ベニテスはせっかく帰ってきたのに、会長の心変わりがないようにとプレッシャーを引き受けることになった。わかっていたことではあるが、何とも損な役回りである。