クライフ追悼の試合。バルセロナにとっては特別なタイミングのマドリーとの試合となった。
■マドリーの先発メンバー
GK:ケイラー・ナバス
DF:カルバハル、ペペ、セルヒオ・ラモス、マルセロ
MF:カゼミロ;モドリッチ、クロース
最近の起用法通りカゼミロが先発。
■バルセロナの先発メンバー
GK:ブラーボ
DF:アウベス、ピケ、マスチェラーノ、アルバ
74分:ラキティッチ→アルダ
MSNをはじめお馴染みのメンバーが並ぶ。
■カゼミロを含めたマドリーの守備とメッシのポジション
マドリーはカゼミロを先発起用。クロースを底に置き、イスコやハメスをインテリオールに使うよりも守備の計算ができる形。就任以来ポゼッションを重視する姿勢を明確にしていたジダンが、ボールを持たれることを受け入れ、実を取る選択をした。
ジダンにとっても自身の哲学とは違う選択をするという重要な判断であるし、見栄えを気にしがちなペレス会長が、結果を目指す形を取ることを認めたという意味でも大きな出来事だった。
カゼミロが底に入り、ベイルとロナウドが両翼に入る4-1-4-1が基本で、ロナウドが帰れない、帰らない時は前に残り、クロースが左に出て4-4-2。最低でも8人でブロックを作れており、コンパクトに距離を保っていた。
普段よりロナウドの守備参加は献身的だったし、ベイルはサイドバックと非常に近い距離まで降りてスペースを埋めていた。この2人に守備の負担をさせられたのは、ジダンのコントロールによるところが大きい。大きな試合、普段どおりでは結果を望めない時に、本来やりたくない仕事をさせられるというのは、チームの管理として非常に良い。CLでも手堅い試合ができそうで期待が持てる。
マドリーはブロックを作りつつカウンターという定石通りの形。ただ、単に下がるだけでなくバルセロナの攻撃を阻害できる時はモドリッチやクロース、カゼミロが少し高い位置に出て行って処理。
特に基点となるブスケツに対しては、中盤の3人だけでなく、最終ラインの面々も流れの中で近い位置を取った時にチェックに入っていた。奪えればカウンターに繋げられる位置なのでベストだが、そうでなければファールでもオッケーといった感じで、気持ちよく攻撃を作らせないようにしていた。
バルセロナはブスケツが厳しいならばとラキティッチが中央から右にかけての広い範囲でプレーし、ボール運びに貢献。シンプルなパスも正確で、持ち上がれることもできる彼の存在は、マドリーにとっては厄介だった。
ただ、ブスケツが窮屈になったことと、マドリーのブロックがしっかりしていたことで、さほど効果的にアタッキングサードに侵入することはできていなかった。
序盤の20分頃まではカンプノウの後押しを受けて、運動量を割き、入れ替わり立ち代わり波状攻撃できていたものの、それ以降は彼らの本来のレベルからすれば無難なプレーに。個々の技術の高さがあるのでそこそこ良い形にはなるが、バルセロナらしい攻撃は多くは見られなかった。
そうしたこともあって、メッシが前線から降りてきて中盤の低い位置のパス回しに参加することがしばしば。ブスケツが消されがちで、組み立てのリズムが悪く、ボールを動かすために彼が顔を出すのは妥当な判断と言える。
だが、メッシが最終ラインと勝負する位置からいなくなったことはマドリーにとっては好都合。以前のように低い位置からでもドリブルで持ち上がるようなプレーもなく、インテリオールのようにショートパスの交換に参加してくれ、脅威は大幅に減少していた。
バルセロナの中盤を楽にプレーさせず、メッシをそのヘルプに割かせたという点で、マドリーの中盤の守備は成功していたと言っていいだろう。
攻撃面では、マドリーは慎重。奪った後のパスも、カウンターに繋げる正確性よりも、まずは奪い返されてピンチを招くことのない選択をしていた。特に前半はクリア気味のボールが多く、前線で待つベンゼマの存在感は薄かった。
両翼のロナウドとベイルは独力でボールを持ち上がることを期待されていて、多少厳しくても近い距離にいればすぐにボールを回してもらっていた。この低い位置からの持ち上がりという点では、ロナウドはぱっとせず。チャンスを作れずとも、最低限ボールを運んで、キープすることが期待されたが、ファールももらえず奪われてしまうばかり。もともとこうしたプレーは得意ではないので、これはやむを得なかったかもしれない。
その分、ベイルが落ち着いたプレーでチームを助けていた。ボールを持ち上がり、高い位置でスローインやファールをもらい、マイボールでのプレーを継続することができていたので、守備に追われている面々は一息つける。この試合ではそれに加えてロングスローも使い、わずかな機会をチャンスに変える役割を全うしていた。
前半の序盤半分はバルセロナが力を入れて攻め立てチャンスを作ったが、ものにできず。その後はマドリーが守備から形を作ることに慣れ、落ち着いてプレーできるようになって少し攻撃に繋げられるようになった雰囲気で前半終了。
流れの中では唯一かつ最大のチャンスだったベンゼマのボレーが、ボールの下を叩きバーの上へ飛んだことが悔やまれた。
■バルセロナが立て直すも
後半の立ち上がりはバルセロナペース。徐々に尻すぼみとなった前半を受け、エンリケがねじを巻きなおした様子。パスワークはもちろん、前線のプレスもスピードが上がって、マドリーはまた攻撃に繋げられない状況となった。
ただ、前半ほどポジションチェンジは多くなく、メッシが降りてくることも変わらなかったので、守備だけを考えればマドリーは受け止めやすかった。プレーの改善はされたが、予想しうる範囲でプレーしてくれたといったところ。前半から優等生的な解答を導いた後半だったが、特別なアイデアは見られなかった。このあたりは南米勢が多く、代表戦明けだったことからコンディションの問題があったかもしれない。
だが、それでも先制はバルセロナ。
56分、コーナーの場面を危険な守備を続けつつ逃れていたが、3本目、ピケのニアサイドの動き出しに対しついていこうとしたペペがスクリーンされる格好となり、一瞬フリーに。体を寄せたが間に合わず、叩きつけられたヘディングがナバスを破った。
流れの中では抑えていながら、セットプレーでやられるという残念な展開。コーナーからの失点は久しぶりだが、そもそもマドリーはセットプレーの守備があまり整備されておらず、ピンチが多い。久々にその悪い癖が顔を出してしまった。
マドリーが良かったのは、ここから総崩れとならなかったこと。
一時期は先に失点してしまうとそれだけで糸が切れたようにチームとしての規律を失い、大量失点してしまうことがあったのだが、ジダンのチームは失点してもコントロールを失わなかった。
やり方を変えず、チャンスを待つことができたことで、徐々にペースを取り戻していけた。
同点ゴールは62分。
アルバの横パスが大きくずれ、カゼミロがカット。ボールを預かったモドリッチがクロース、ベンゼマとパス交換しながら持ち上がり、左のマルセロへ。マルセロはそのままボールを運び、エリア前で中央へ入って行き、右サイドから上がっていたクロースへ。クロースの低いクロスはディフェンダーに当たったが、浮いたボールがベンゼマに届き、バイシクルで決めた。
モドリッチのワンツーでのボール運びはさすが。マルセロの攻撃性能も生きた。ベンゼマは前半のボレー失敗を挽回するゴラッソだった。
特筆すべきはクロースの動き。中盤でショートパスの楔となりつつ、そこから上がってラストパスに絡んだ。マドリーでは底でロングパスを展開しているが、本来はより高い位置が得意なプレーヤー。ポジションの変更に伴い、その攻撃面の能力をしっかりと発揮したことで、このゴールが生まれた。
■同点以後、交代策で動き
同点となり試合は再び膠着。
バルセロナはドライに考えれば無理する必要などなく、引き分けでも十分。マドリーがしっかり反撃に転じたこともあって、改めて様子を見ながらじっくり形を作っていくことにシフトした印象。
ただ、カンプノウ、クライフ追悼という名分がある試合で、このままで良いという判断はしづらい。勝ち越しを狙う姿勢を打ち出すためにも74分にラキティッチに替えてアルダを投入。落ち着いていくならばセルジ・ロベルトを起用すべきだっただろうが、バルセロナにとってのこの試合の意義を考慮すれば、この交代は理解できる。
バルセロナにとって不運だったのはそのアルダが全く試合に入れなかったこと。守備面は当初から多少やむを得ないと思っていたにせよ、攻撃面でも存在感を発揮できず、ラキティッチが負っていた守備負担に穴が開くだけとなった。
マドリーは78分にベンゼマに替えてヘセ。
前半より攻撃に転じられるようになっていたし、ゴールも挙げていたベンゼマを下げるのはもったいないようにも思ったが、マドリーもこの場面で交代の可能性は多くはなかった。
しっかり守れていた最終ラインと中盤に手を加えるのはリスクが大きいし、ロナウドとベイルは替えがたい。そうなると下げられるのはベンゼマしかいなかった。あとは代役がヘセ、イスコ、ハメスの誰なのかというくらい。
通常であればヘセだと縦に速過ぎ、攻撃が機能しなくなることが予想されるが、この試合ではそもそもボールを持つことはないので、スピード重視でも良い。アルダの登場以降中盤に穴ができていたこともあって、カウンター狙いには結果的に良い交代となった。
これまでとは打って変わってカウンターから決定的なチャンスを作れるようになったマドリーは、残り10分余りで良い場面を立て続けに迎える。
81分のベイルのゴールは、間違いなく正当なもの。ペナルティではないにせよ、前半のメッシに対するセルヒオ・ラモスのファール(と恐らくは出たであろうカード)を見逃してもらってはいるものの、全く問題のない競り合いで笛を吹かれることとなった。
83分にセルヒオ・ラモスが2枚目のイエローで退場。
得点こそ動いていなかったが、良い流れで来ていたし、強く行く必要のない場面で軽率なタックルでもらってしまい残念。直前にゴールが取り消され、一気に雰囲気が悪くなる恐れもあった。
だが、ここでジダンは強気の判断。カゼミロを最終ラインに下げ、両翼はきっちり中盤に組み込んだものの、最終ラインの修正はせず4-4-1で対応。打てる手が少なかったことも事実ではあるが、数的不利でも形をいじらず流れの維持を図った。
そして85分、アルバのネイマールへの縦パスはカルバハルが体を入れてカットし、そのまま持ち上がる。入れ替わってボールを持ったヘセが右のベイルへと展開し、ベイルはダイレクトでクロスを供給。戻ってきたアウベスがジャンプするも届かず、左サイドで待っていたロナウドが受け、胸トラップからシュート。角度がない位置でブラーボも飛び出しており、コースは少なかったが、ブラーボの股を抜いたシュートが決まった。
試合を通してカルバハルはネイマールをしっかり見ていて、この場面でもパスを受けにいったネイマールについて先に体を入れ、カウンターの基点となった。
利き足ではない右でダイレクトのクロスをあげたベイルの判断も良かった。悪い時は切り返して左に持ち替えがちだが、この場面では勇気を持って右を使った。ベストのボールではなかったが、しっかりとロナウドに届けられたということが大事。あそこでこねていては、この得点は生まれていない。
リードを得たマドリーは、攻守に奮闘したベイルをルーカス・バスケスに替えて、時間を使いつつ中盤の運動量を回復。バルセロナは最後の数分で1人多い状況を生かすだけの動きができず息切れ。
カンプノウで望外の勝利を挙げた。
■今後に向けて
前半からゲームプランを守り、先制されても慌てずチームとしての形を保ってきたことが大きな結果を生んだ。
バルセロナのコンディションは万全ではなかっただろうが、それよりも、それを生かしたマドリーの組織としての我慢の対応を称えたい。恐らく万全ではないことも踏まえてバルセロナが勝負をかけてきていた序盤の20分から25分ほどの時間でも、フリーでのシュートを許さず、最後のところはしっかりと締めていた。
攻撃に転じたいところをこらえ、勝負どころまで忍耐を続けたチーム、それを実行可能にしたジダンの統率力こそ、この試合の勝利の鍵となった。
リーがタイトルの行方は恐らく変わらない。この試合を受けても、バルセロナの優勝は揺るがないだろう。それでも今シーズンのCL、そして今後のシーズンに向けて、マドリーの士気と自信を高める重要な勝利となった。
CLで、この試合と同じだけの規律が保てれば、ベスト4よりも更に上を目指せる。そういう希望を持てる内容と結果だった。