今シーズンはカーディフでの開催。2シーズン続けてここまで残ったことだけでもすごい。あと1つ。
■マドリーの先発メンバー
GK:ケイラー・ナバス
DF:カルバハル、バラン、セルヒオ・ラモス、マルセロ
MF:カゼミロ;モドリッチ、クロース;イスコ
77分:ベンゼマ→ベイル、82分:イスコ→アセンシオ、88分:クロース→モラタ
復帰したカルバハルは先発。一方でベイルは予想通りベンチスタート。イスコが先発となった。
■ユベントスの先発メンバー
GKブッフォン
DF:バルザーリ、キエッリーニ、ボヌッチ、アレックス・サンドロ
MF:ケディラ、ピャニッチ;アウベス、ディバラ、マンジュキッチ
FW:イグアイン
66分:バルザーリ→クアドラード、71分:ピャニッチ→マルキージオ、77分:ディバラ→レミナ
アレックス・サンドロも高い位置に出ていることが多く、3バックでいることが多かったように見えたが、守備時はディバラが前残りして4-4-2だったので、その形で表記しておく。
■先制ゴールは奪うも、流れはユベントス
ベイルの状態が多く報道されていたものの、結局はベンチスタートとなった。ジダンはさすがに慎重な判断をしたということだろう。マドリーは終盤を乗り切った布陣にカルバハルを戻した形に。
この形では、攻撃時は上下左右どこでも出て行くイスコが守備に加わることで4-4のブロックを作るのが、形の上では理想。
だが、攻撃が終わった時のポジションによって、近い2列目の守備位置に入るような格好となっていて、毎回並びが違うという不安定な状態に。さらに場合によってはイスコが戻りきらずに4-3-1-2のままで守ることもしばしばあった。
4-3ではサイドを広く使われた時に対応しきれないということは散々見てきた。中央もカゼミロの両脇が使われやすい形なので、左右に振られるとずれが生じやすい。
逆に言えば、そうなることは承知の上でのこの布陣だ。
つまり、そのデメリットを上回るメリットを攻撃面で得る計算があって、この形を選択してきたということ。モドリッチ、クロース、イスコが
攻撃に変化を付けて、速攻でも遅攻でも良い形を作り、相手を逼塞させられれば良いのだ。
しかし、その目論見は前半は外れた。
ユベントスを押し込んだ後、彼らの4-4-2を崩そうというプレーはなく、ボールはブロックの外側を動くだけ。肝心のイスコもラインの間に入って受けたり、飛び込んでいったりすることをせず、ユベントスにとっては安全な位置でのボールタッチばかりだった。
イスコのポジションが下がり目だったのは、そうした攻撃を作る以前に、奪った後のボール運びが安定しなかったことも影響しているだろう。カゼミロの不安定さは明らかで、ユベントスにも狙われていたし、普段ならクロースとモドリッチを後方に隠しつつパス回しを助ける両サイドバックの動きも技術もぱっとしなかった。
そのため、たまに押し込めてもチャンスにはならず、ほとんどのポゼッションはそれ以前の段階でミスにより終わってしまっていた。
マドリーの不安定さに乗じ、ユベントスがチャンスを多く作っている中、先に決めたのはマドリーの方だった。
20分、自陣エリア付近で奪ったボールを左サイドでクロースが運び、ベンゼマを経由して右のロナウドへ。左足でのシュートを見せて、更に外を走っていたカルバハルにマークがつけないようにし、彼を使う。カルバハルはグラウンダーでマイナスの折り返し。これをロナウドがダイレクトで合わせ、サイドネットに決めた。
何でもないボール奪取の場面からの攻撃のスタートだったが、クロースの持ち上がりで速い展開を作れた。ディフェンダーに僅かに当たってより遠いコースに決まったとはいえ、ロナウドのシュートはコースを狙って冷静だった。
流れに反して先制したマドリーは、少し引き気味に。先制点も速攻だったし、出てきたところを叩くという定石通りの形。
ただ、最初に書いた通り、マドリーの守備はどう贔屓目に見ても不安定で、相手をいなすパス回しも普段どおりではなかったことから、がっちり受け止められるかというと、磐石とは言いがたかった。
そして、7分後にユベントスが同点に追いつく。全員が引いていたマドリーに対し、フリーだった最終ラインのボヌッチから左サイドへの素晴らしいフィード。アレックス・サンドロが折り返し、イグアインが落としたボールをマンジュキッチがオーバーヘッド。ループ気味に決まる美しいゴールだった。この場面では、マドリーの問題というよりユベントスの攻撃の質の高さが光った。
その後も、ゴールに迫る攻撃を作っていたのはユベントス。劣勢の中の先制ゴールを生かせず、守備のバランスが悪いまま、正解ではあるもののおとなしい選択をしたら、このレベルならこういう流れになってしまうということだろう。
良く逆転されなかった、といった印象のまま前半を終えた。
■攻撃の改善で流れを取り戻す
ハーフタイム、ジダンは「今までやってきたことをやろう」という話をしたようだ。前半は、大一番ということもあって慎重にやりすぎていた、ということだろう。
ジダンの言葉を受ける形で、後半、ボールを持ってこその中盤が生かせずに終わっていた点は大幅に改善された。
前半は組み立ての穴になっていたカゼミロが無難に周囲に任せるようになり、それを受けたクロースとモドリッチがパス、ボール運びの技術の高さを見せる。
全体としてポゼッションが落ち着いたことで、両サイドバックも普段通り高い位置を取って攻撃に関与。前半はアウベスとアレックス・サンドロに押されていたサイドが、後半はマドリーのものになった。
イスコも高い位置でボールに触れるようになって、本来やりたいプレーができるように。
前半とは打って変わって、個々のプレーヤーがこれまでのシーズンで何度も見てきたようなプレーをするようになった。
ユベントスは、マドリーとは反対に後半にペースダウン。良くなったマドリーの攻撃を受ける格好となった。
守備自体の安定感はあったものの、攻撃が繋がらないのがユベントスの問題。
イグアインは前線で基点となれず、かといって一発で勝負できるような受け方もなく、サイドに追いやられてはボールを奪われていた。彼の攻撃における仕事の幅のなさはマドリー時代からのもの。ゴールを目指さなければならなかったが、良い場面は前半立ち上がりのシュートくらい。後半は、セルヒオ・ラモスとバランが完全に試合から消していた。
また、ディバラも怖い位置からは遠く、マドリーからすると問題とはならず。下がってくれれば脅威にはならない。
全体として押し下げられていたところから、攻撃を作ることができず、ボールをすぐにマドリーに渡すことになったのが、後半のユベントスのまずさ。
60分、唯一と言っていいほど膳後半を通じボール運びを安定して行っていたアウベスが高い位置に出たのをカゼミロが潰したところからマドリーのチャンス。
アウベスの空いたスペースを利用してベンゼマが左サイドから仕掛け、少し後方のクロースへパス、これはアトレティコ戦のような形。クロースのシュートはブロックされたが、こぼれたところにカゼミロ。ブッフォン相手には可能性が低いと思われたミドルシュートは、ケディラのかかとに当たってコースが変わり、枠ギリギリに吸い込まれた。
シュートの軌道の変化は幸運。だが、その前の攻撃の形はマドリーらしい。ユベントスの攻撃が前に進めない中で、アウベスが何とかした後を突いた、この後半を象徴するゴールだった。
更に64分、カゼミロの右サイドへのフィードがミスキックになったところ、アレックス・サンドロのヘディングのパスを読んだモドリッチがカット。カルバハルに一度預けてそのまま右サイドをオーバーラップしてボールを受け、ゴールラインギリギリでクロス。これをニアに入り込んだロナウドが合わせ、4分ほどで2点を連取することに成功した。
モドリッチのパスカットの判断、ギリギリのところからのクロスの質は見事。それにもまして、ロナウドの動き出しが秀逸だった。1点目はラインについていかず後方に残ってスペースを得たが、今回はクロスのタイミングに合わせてスピードをあげ、すっとニアに飛び込んだ。
この両方の動きで正確に点が取れるのが今の彼の凄み。ニアに入って難しいボールでもワンタッチで枠を捉える技術はまさにストライカー。最高のプレーで2点のリードに成功した。
後半は、無難に縮こまらず、自分達らしいプレーで流れを引き寄せた。中盤の役割がぼやけ、クロースもカゼミロも前を狙うようだと不安が強まることが多いのだが、そうしたデメリットを超えていく強さが後半のマドリーにはあった。
ユベントスは前半で行ける手ごたえがあったはずなのに、後半は彼らが停滞。受け止めることはできていたものの、自分たちの時間を全く作れないままでは苦しい。いかにユベントスといえども、一方的に自陣に押し込まれては、今のマドリーの攻撃を防ぎきることは難しい。それだけの質があった。
2点差となってユベントスはクアドラードとマルキージオを投入。バルザーリに替えてクアドラードは勝負の手だったが、こうなってしまうと流れはほぼ決まってしまう。
マドリーは良くボールを動かし、追うしかないユベントスのプレーヤーをいなしながら、手薄になったアタッキングサードで何度も良い場面を作れていた。
77分、攻撃の構築に貢献の大きかったベンゼマを下げ、復帰してきたベイルをピッチへ。82分、イスコに替えてアセンシオ。その間にディバラを下げてレミナを入れざるを得なかったユベントスとの層の厚さが際立つ交代。
後半危なかったのはアウベスのフリーキックにアレックス・サンドロが頭で合わせた場面くらい。決まっていれば1点差で試合はわからなかったかもしれないが、それでも残り10分を切った頃で、リードを得た後、80分過ぎまでマドリーは交代策も含めしっかりと試合を支配したといえる。
84分にはクアドラードが2枚目のイエローで退場。ラモスのタックルでボールが出てプレーが切れた後、ボールを取りにいくためにラモスを軽く押し、足を踏んだことが問題となった。
ラモスの痛がり方は演技。ただ、急ぎたい場面とはいえ、相手をよけず接触しつつボールをとりにいったことは軽率だった。故意ではなかっただろうが、印象は悪くなる。
アディショナルタイムにはアセンシオが決めて勝負あり。ここまでゆったりとボールを動かしてきたのに、最後のところで縦に行くマルセロの判断の良さとアイデアの豊富さには頭が下がる。
マルセロのお膳立てを決めたアセンシオは記念すべきゴールに。決めるだけだったにせよ、この舞台でゴールできるプレーヤーが何人いるか。彼の将来がまた楽しみになるゴールだった。
前半には思いもよらなかった内容で大差をつけ、最後は余裕を持って締めくくり、史上初のCL連覇を果たした。
■連覇
マドリーは前半ひとつのチャンスをものにし、良く同点で凌いだと言えよう。その上での後半の盛り返しが見事だった。
ユベントスは、組織としての理論ではマドリーよりも上手だった。だが、特に後半、マドリーはアタッキングサードで勝負できる局面を多く作り、そしてそれに勝っていた。イグアインが前線でフォローなく何もできなかったのと対照的に、ベンゼマ、イスコ、マルセロがサポートのある状態で前を向いて仕掛けられていたことで、マドリーの時間を長く作ることができた。
戦術的には穴があっても、それを直接隠すのではなく、別のアプローチでメリットを作った、ジダンのマドリーらしい試合運び。ハーフタイムで個々のプレーの内容が改善されたところに、ジダンの求心力の高が見て取れる。
良いチームに、能力に見合った仕事をさせるという点において、ジダンの仕事は素晴らしかった。シーズン終盤の苦しい時期でも踏みとどまって流れを維持したのは、彼のチーム運営の賜物だ。史上初のCL連覇を達成した監督として歴史に名を刻まれるにふさわしい。
これほどまでに美しいシーズンの終わりを2回も続けて迎えられるなど、誰が想像しただろうか。
1月、CWC後にお馴染みの低迷をした後、ここまで盛り返すとは思いもよらなかった。シーズンが進んでいくにつれ、層の厚みをいかすジダンの采配が冴え、この最後の試合でも皆万全の状態。負傷を押しつつプレーしていたロナウドをはじめ、多くダメージを受けていたデシマのシーズンとは違う、チームの力を生かしきって迎えたゴールには、言いようのない幸せを感じる。
しばらくすればリーガ連覇、CL3連覇を目指す険しい道のりが始まるとしても、今はこの偉大なシーズンを終えた感慨に浸りたい。