首位をひた走るバルセロナへの挑戦は、手痛い敗戦となった。今シーズンの問題を凝縮したような90分を振り返る。
■マドリーの先発メンバー
GK:ケイラー・ナバス
DF:カルバハル、バラン、セルヒオ・ラモス、マルセロ
66分:ベンゼマ→ナチョ、72分:カゼミロ→アセンシオ、コバチッチ→ベイル
スーペルコパでメッシを抑えきったコバチッチを先発起用。この起用は英断だった。
■バルセロナの先発メンバー
GK:シュテーゲン
DF:セルジ・ロベルト、フェルメーレン、ピケ、アルバ
FW:メッシ、スアレス
77分:イニエスタ→セメド、84分:パウリーニョ→アンドレ・ゴメス、89分:セルジ・ロベルト→ビダル
ウムティティを欠くセンターバックはフェルメーレンが先発となった。
■中盤は良い内容、結果はお馴染み
ほぼ同じ陣形の両チーム。マドリーはそれぞれ対面する相手をつかまえるマンマークでの守備を選択した。
敵陣内であってもサイドバックがボールを受けた時にカルバハルやマルセロが詰めていくような応対の仕方で、バルセロナのボールを前に進ませない。
メッシへはコバチッチがマンマーク。ここだけはマークの受け渡しを行わず、サイドに出ても下がってもついていく。
バルセロナはさすがに下手な奪われ方こそなかったものの、攻撃らしい攻撃を作れず。ボールを下げて、シュテーゲンに預けた後、1対1で全員についているので蹴りどころがなく時間がかかる場面が何度もあった。
ここで成功する可能性のないGKへのチャージを誰もせず、1人ずつ相手を捕まえ続けていた戦術の実行力は評価に値する。
ここまで徹底したマンマークは、メッシ、バルセロナという特殊な相手への対策なので、普段からこれをやれるというものではないが、それでもバルセロナを相手に優勢を維持できるだけのプレーをできたのは良かった。
これまでの今シーズンの試合の中でもベストに近い組織立ったプレーで、これだけやれるということを再確認できた。
一方、攻撃面では、コバチッチが入った中盤の球離れが良く、奪ったボールをサイドから前にスムーズに運ぶことが出来ていた。そのため、エリア内での場面を継続して作ることが可能に。
この点も今シーズンの試合の中では非常に良い部類。
これまで書いてきたように、今シーズンのマドリーはその手前で攻撃が頓挫することが多く、ゴール前でのシュートチャンスが作れていない。イスコ起用によるデメリットについても何回か触れてきたところだ。
この試合では、クロアチアコンビとクロースがシンプルにボールを進めるので、中盤で詰まることが少なかった。自分で運ぶ時と、ボールを出してから受けようとする時の使い分けに間違いがほとんどない。そのために攻撃に良いリズムを作れる。
結果として敗れたため、これまで通りイスコを起用していればという意見が出るのもやむを得ないが、そうなると守備負担を誰に求めるかという問題が出てきて、マンツーマンの選択はできなかっただろうし、攻撃もこれまで通りの域から脱する期待はしづらい。その意味で、イスコについての意見は的を射たものではないと考えている。
逆に、この形で、マンツーマンの固定を解いてどれだけやるかや、組み立てに貢献が少ないカゼミロをコバチッチに置き換えて、アセンシオやベイルをサイドに置くような発展を見てみたい。そういう期待を持たせてくれる中盤だった。
これまでの試合と違って良い点があった一方、変わらなかったのは前線の不出来。
ベンゼマは悪い時の彼で、降りてきてのプレーでもタッチが安定せず、ここぞというパスが相手に引っ掛けられていた。その状態で自身で得点する希望は彼には持てない。マルセロのクロスをヘディングであわせた場面が唯一で、それもポストに嫌われた。
ロナウドは空振りもあり、シュートの精度を欠いた。カウンター時にサイドで持ち上がるプレーもあって、ボールタッチは少なくなく、シュートチャンスはあった方だが、こういう試合で発揮されてきた抜群の精度はこの日は見られなかった。
中盤からボールが届くので、シュートを外し続けた印象が強まったこともあるだろうが、それにしても運がなかった。これまでの積み重ねが出たとも言うべきだろうか。
良いリズムでボールが来ていれば気分よくシュートできるものだし、そうすると相手やコースも見えて入る確率も高まるもの。
逆に、いつボールが出てくるか分からない、どのタイミングなのか、どの場所なのかが不安定だと、受けるための労力が大きくなってシュートは難しくなる。もちろん、そういう対応力も合るからこそ今の彼らがいるのだが、それでも攻撃のリズムの良し悪しはシュートの良し悪しに繋がっていく。
メンバーを変えて改善した中盤とは対照的に、前線の2人は今シーズンの悪いリズムから脱することが出来ないままに。
良い戦いをしつつもゴールはなしという、結果としては今シーズンよく見たスコアレスの前半となってしまった。
■64分で勝負あり
マドリーが良い内容だったとはいえ、バルセロナからしてみれば負けなければ十分な状況での試合。マンマークの体力的な損耗も見据え、前半は無理しなかったという面もあったかもしれない。
そこでマドリーが先制できていれば試合展開はまったく別のものになっていたはず。ゴールを奪えなかったことで、後半マドリーは攻勢に出ることになり、バルセロナは速攻のチャンスを伺えることになっていった。
54分、ブスケツのターンからラキティッチ。最寄のコバチッチはメッシのケアを優先したため、そのままラキティッチが持ち上がり、セルジ・ロベルトへと繋ぎ、最後はスアレス。コースは良くなかったが、ナバスの下を抜くシュートが決まった。
カゼミロも両サイドバックも出払っていたところからのバルセロナの速攻。ブスケツのところで潰せず前を向かれたところで厳しくなった。
コバチッチがメッシを外さなかったのは妥当な判断だが、普段であれば当然彼が寄せるべき場面で、周囲の味方も彼が寄せると判断して下がったようで、下がりながら難しい守備をする状況で齟齬があった印象。その意味では、特別なやり方を採った弊害があったとも言える。
カゼミロも含めて中盤が出て行くのは今シーズンよく見られる形ではあるし、より長いスパンで見ても、カゼミロが時間の経過とともに底の位置に固定されなくなっていっているのは確か。
昨シーズンいくつかの重要なシュートを決めたのも事実だが、攻撃面で計算できるものが少なく、相手にとっては狙いどころにもなっている。
彼の流動性で得られるメリットは少ないのに、こうした失点のリスクは高まる。この運用を続けるのであれば、先述した通り守備負担に耐えられ、かつ技術もあるコバチッチを置くことを検討すべきではないだろうか。
いい時間に得点できず、先にチャンスをものにされるというのも今シーズンよく見た光景。相手のレベルは違えど、結局は今シーズンの結果の出せない不安定な戦いから脱することは出来なかった。
ただ、ベイルとアセンシオという望みはあった。できれば同点の状態で間延びしてきたところに投入したかったが、それでも勝負できる選択肢であることに変わりはない。
早めの交代も検討されていたようであるところ、64分にペナルティ。これも速攻の形から完全に崩され、最後はシュートを意図的に手でとめたカルバハルが退場。メッシが問題なく決め2点差となり、1人少なくもなって事実上終戦。
勝負の手を打つことも出来ず、30分を残して勝利の可能性は失われた。
カルバハルの気持ちは分からないではないが、退場とペナルティとなることは明らかで、試合を終わらせてしまう愚かな行為だったといわざるを得ない。
2点差となり、マドリーが数的不利となってしまったので、バルセロナは余裕を持ってポゼッションをキープできる。
カゼミロとコバチッチを下げ、ベイルとアセンシオを入れたが彼らにボールが来る回数はごく僅か。何とかしたい姿勢は示した、という程度。
バルセロナはセメド、アンドレ・ゴメス、ビダルと控え組を投入し楽々。最後はビダルもゴールを決めるおまけまでついて、3-0で試合を終えた。
■変化を求む
2試合未消化ながらバルセロナとの勝ち点差は14。リーガはほぼ終わったと言う他ない。
バルセロナの勝ち切る能力は見事。彼らにとっては辛い前半を乗り越えて後半一気に勝負をつけた。この勝負強さが維持できているので、恐らくリーガのタイトルは彼らのものだろう。
ベルナベウでの敗戦、ほとんど不可能となったリーガと、非常に悪い結果。それは受け止めるしかない。
ただ、今シーズンどうにも好転しない中で、攻守に渡る中盤の出来、特に前半の内容は今後に希望が持てるものでもあった。バルセロナを相手に、チャンスをほとんど作らせず、前線の決定力がクローズアップされるほどフォワードにボールを届けたのだ。それは簡単な仕事ではない。
逆に、年明け以降またこれまでの形に戻すようなら、また解決を遠のかせてしまう恐れが強まる。
この敗戦を良い契機として、コバチッチを含む中盤の可能性を探るべきだろう。
ジダン解任論が騒がれるような状況になっていないことは一番の救い。ここで彼を手放せば、ベニテスの時のように次の候補はいない。
無為に過ごしたような前半戦は残念だったが、ここでの監督交代にメリットはない。1月のジダンの選択に期待しておきたい。