リードを得て乗り込んだパリ。主力が万全ではなく、苦労することも覚悟していたが、結果としては磐石な試合運びで勝ち抜けを決めた。
■マドリーの先発メンバー
GK:ケイラー・ナバス
DF:カルバハル、バラン、セルヒオ・ラモス、マルセロ
71分:コバチッチ→クロース、76分:ベンゼマ→ベイル、82分:アセンシオ→イスコ
モドリッチ、クロースは負傷明けのためベンチスタート。このところリーガで内容が良い4-4-2、バスケスとアセンシオの両翼を選択。
■PSGの先発メンバー
GK:アレオラ
MF:モッタ;ラビオ、ベラッティ
FW:ディマリア、カバーニ、エムバペ
59分:モッタ→パストーレ、76分:ディマリア→ドラクスラー、85分:エムバペ→ラス
ネイマールを負傷で欠き、代役はディマリア。第1戦は先発しなかったチアゴ・シウバとモッタが先発に。
■序盤をどうやり過ごすか
マドリーは4-4-2。構成のバランスは良く、無理な攻撃の必要のない試合なので4-4のブロックを基本とし、しっかり守ってカウンターを狙えば良い。
リーガではこの形で終盤になってようやく良い内容の試合ができており、選択としては妥当だった。
とはいえ、中央では別格のモドリッチ、クロースをベンチに置いており、カゼミロとコバチッチの組み合わせ。
悪くはないが、あまり慣れていない組み合わせであったことは確かで、いくらモドリッチ、クロースが負傷明けとはいえ、招集可能なコンディションでありながらこの大一番でこの先発はかなり勇気がいる。
コバチッチがボールを持ち上がっている状況でカゼミロの上がりたがる癖が出ると、4-2以下の人数で守ることになりかねない。
相方の動きを見ながら状況を判断せざるを得ないから、攻守とも少しずつ遅れるリスクはあったと言える。
パリは最低2点が必要な状況。彼らの能力からすれば、90分で2点くらい取れないことはない。
が、何も条件がない試合で結果として2点以上取れるということと、2点を取らなければならない試合できっちり2点取ることの差は、えてして大きい。
「取らなければならない」という前提条件が決まっている状態では、追いかける側にどうしても心理的な圧力がかかる。
それは時間の経過とともに大きくなっていくから、速めに点を取って流れを掴みたいが、そう考えること自体も焦りにつながるので、立ち上がりからペースを握れるような試合の入り方が重要となる。こうした大きな試合、拮抗した相手との試合では、なおさらだ。
■自分が想定、コントロールできる状態で勝負したいエメリ
ところが、序盤のパリは、さほど勢いを持ってプレーしてこなかった。
ショートカウンターでアタッキングサードに入ってはいたが、昨シーズンのアトレティコとの第2戦のような緊迫感はなく、最後のところは対処できるレベルだった。
2点を追う状況にもかかわらずこうした試合の入り方をしたのは、リーグアンでの一強状態が影響しているのかもしれない。
追う展開になることが少ないし、そうなっても、地力の差はあるので、落ち着いて普段通りにプレーすれば得点は奪える。横綱相撲が身についてしまうと、こういう試合で遮二無二プレーすることが難しくなるという面はあるだろう。
だが、エメリの考え方の反映された結果こうしたスタートになっているのではないか、とも考える。
特に印象的だったのは、85分にエムバペを下げラスを投入した点だ。
66分にベラッティが退場しているので、中盤の枚数は足らず、9人のフィールドプレーヤーでのバランスの確保という意味では真っ当な交代なのだが、この時点で既にスコアは2-1でマドリーがリード。パリは3点でもアウェイゴール差で敗れるので、4点が必要な状況であった。
現実的にはほぼ不可能であっても、トーナメントである以上、ごく僅かな可能性に賭けて得点を狙い、攻め続けなければならないところで、中盤のバランスは優先順位が低い。ディフェンスを削ってでも前線に枚数を割きたいようなところで、中盤の修正に手をつけるところに、監督の性格が現れているように思う。
エメリは、チームと試合を自分で想定しうる範囲にコントロールしたいタイプなのだろう。
想定にない悪い事態が発生するのは誰しも避けたいものだが、それと同時に「想定外に自分たちにとって有利になること」も排除している印象を持った。
攻め合いになって形は崩れてもゴールに入れば良いという時間帯で、そういう事故で有利になる可能性があっても、同様に不利になる可能性があるのなら、その選択をしない、といったようなイメージだ。
序盤に立ち返れば、一気に圧力をかけて、もっとエリア内でバタつくような展開も作れたはずだ。
マドリーは先述の通り慣れない組み合わせで、判断ミスをする可能性もあったし、試合の入り方も少し軽かったのだから、何が起こるかわからなかった。
予想できる範囲の人数のかけ方、攻撃の方法に収まってくれたことで、マドリーは助けられた。不安定な時期を無失点で乗り越えて、結果として十分な前半を過ごすことができたのだった。
■エメリ、パリとは対照的なマドリー
エメリが、想定できる範囲できちんと計算し試合を作っていく考え方だとした場合、ジダンのマドリーはそれとは逆に、チームとしての脆さも抱えつつ、考えもつかない形でゴールを奪っていけるし、それが認められているチームだと言える。
先日のシャビの言葉を借りれば、「根拠もなく」得点し、勝利できてしまうということだ。
この試合でも、そうした特徴は遺憾なく発揮された。
1点目はアウベスにとってはなんでもないはずの位置で、アセンシオのプレスによりボールを奪ったところからの一連の流れでロナウドが決めたもの。
2点目はパリが前掛かりになっていた時間帯で、得点自体は驚きではないものの、決めたのはカゼミロで、しかもディフェンスに当たってアレオラの逆に飛んでのゴール。
こういう場面でカゼミロが出てきて、ボールが枠に入ってしまうことにマドリディスタは喜ぶ一方、相手にしてみれば受け入れがたいだろう。
全体の試合の流れ、プレーの内容や両チームの優劣とは関係なく、マドリーはゴールを奪っていける。
もちろん、その分おかしな失点もあるし、それによって取りこぼす失敗も尽きないのだが、チームをコントロール可能な範囲に留めていては、こういう勝ち方はできない。
理性的に試合を支配して勝利を得ようとしたパリを、その範疇にないマドリーが打ち破ったと言ってもいいだろう。
もちろん、この試合での4-4-2のように、ある程度は計算できる布陣を使い、全体としてのコントロールを得ようとする姿勢は欠かせない。それをしつつ、それとはかかわりのない部分で優位に試合を運ぶことができるのがマドリーの強みだということだ。
そうした意味では、対照的な両チームの対戦で、今回はマドリーがパリの計算を上回ったと言える。
■週末へ
マドリー唯一のタイトル可能性はまだ残った。もうしばらく今シーズンを楽しむことが出来る。
3連覇を考えるような時期ではまだないので、1つずつ積み上げていってもらいたい。
週末のリーガはエイバルと対戦。
こちらでは、ローテーションがどういう形になるかに注目。
主力ができることは分かっているので、この試合のコバチッチのように、大一番で出せる戦力がリーガで増やせれば、ほぼ消化試合となっているリーガにも張り合いが出るだろう。