レアルマドリードのある生活

レアルマドリードの応援日記。試合中心にお送りします。

新監督はロペテギ

新監督は、スペイン代表監督だったロペテギに。

マドリーは彼と3年の契約を結んだことを公式に発表、ロペテギは「ジダン後」の難しい舵取りを担うこととなった。

www.realmadrid.com

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2部でのラージョ、ポルトでの経験があるものの、クラブでの監督としてトップチームでの目立った実績はない。

ただ、今回のW杯に向けてのスペイン代表監督としては順調な成績を挙げ、5月には2020年までの契約延長も発表されていたところ。

 

出場試合は少ないものの現役時代にマドリーに在籍しており、スカウト部門でも仕事をしていたことから、マドリーというクラブを直に知っている点はプラス。

また、個々としてトップレベルのプレーヤーをどう組織にするかという、マドリーではお馴染みの課題についても、選んだメンバーを組み合わせる代表監督の経験が生きるはず。

 

CLで伝説となるような実績を残したジダンの後、プレーヤーとしての実績ははるかに及ばないという点が不安要素ではある。

が、スペイン国内の若手と契約し、長期的にスペイン化を目指しているものと考えられるペレス会長の方針を考えても、ロペテギとの契約は良い条件が揃っている。

スペイン代表同様、うまく現場の信頼を得て仕事を進めていくことに期待したい。

 ■代表監督解任事件に発展

ロペテギとの契約が公式発表された翌日、W杯での指揮を取ってからマドリーにやってくるはずだった彼がスペイン代表監督を解任されたのは周知の通り。

 

 このことについて、RFEF会長であるルイス・ルビアレスは、今後の契約先についてW杯前に決定することに問題がない旨、会見で発言していた。

実際、大会前に次のシーズンの所属先が決まるといった話は、監督であっても珍しいことではない。仮に道義的な問題を持ち出すにしても、過去の事例を考えるとこの筋ではルビアレス会長の分は悪い。

 

そのことを考えると、ルビアレス会長が解任に踏み切った理由は別のところにあるものと思われる。

表向きは、マドリーが公式にロペテギとの合意を発表する直前(彼曰く5分前)まで発表される事実を知らなかったから、という説明、報道がなされていた。

それに対し、MARCAは次の記事で事実関係を報じている。

www.marca.com

 

■記事の内容

これによれば、マドリーがロペテギとの交渉をスタートさせたのは6月8日で、12日には3年契約で合意、同日16時にはペレス会長がルビアレス会長に電話を入れ、200万ユーロの契約解除金を支払い、来シーズンの監督としてロペテギを招聘することを報告したとのことである。なお、この段階では両者に問題は発生していない。

 

更にその後ロペテギ自身からもルビアレス会長に電話。

ルビアレス会長はマドリーとの合意に祝意を示し、冗談さえ述べ、すぐに記者会見を開きたいとのロペテギの要望に対し、翌日ルビアレス会長がスペイン代表が滞在していたクラスノダールに行って同席できるようになるまで会見開催を待つよう返答、ロペテギはこれを受け入れたとのこと。

 

マドリーは16時50分、ロペテギとの契約合意を公式に発表。RFEFは17時28分に、ロペテギがW杯後にマドリーの監督になることについて公式発表し、その中でマドリーとロペテギの接触については常に把握していたとの文言があったが、17分後にその内容が削除されたバージョンに差し替えられた。

 

この段階で公式発表がなされたことについては、代表チーム内で監督の去就について憶測が流れていたこともあって、今後について明確にすることをロペテギが望んだためだと報じられている。

ペレス会長も、就任発表の席上「透明性」という言い方で、このタイミングでの発表の理由を説明していた。

 

いずれにせよ双方から公式発表がなされ、ロペテギは代表チームにW杯後の去就について説明。プレーヤーからは祝いの言葉、拍手、バルセロナ所属の面々からジョークさえあり、現場の雰囲気は通常通り。

ただ、その晩のうちにクラスノダールに到着したルビアレス会長とロペテギは、同席して会見するといった話があったにもかかわらず直接言葉を交わすことはなく、ここから代表監督としてのロペテギの立場は急速に危険なものになっていく。

 

まず、マドリーは契約解除金200万ユーロの即時入金を要求された。

更に翌朝、ルビアレス会長は周囲からの意見を聴取、メディア、ネットでの報じられ方を見て態度を変え、激怒。

ロペテギは朝一番でルビアレス会長との面談を申し入れたが、それも当初は拒否されたのだという。

 

その後成立した面談で、ルビアレス会長はロペテギの対応に不快感を表明、即時辞任を要求。ロペテギがこれを拒否したため、解任を検討するとしたとのこと。

そこへ代表チームの重鎮(セルヒオ・ラモス、ピケ、イニエスタ、シルバ、ブスケツ、レイナ)が解任を思い留まるよう意見を述べるも、結局解任は正式決定。ロペテギは自身の解任をスマートフォンのメッセージで伝えられ、マドリーへ移動することに。

 

■協会、前任者からの改革、クラブとの関係

最初に書いた通り、代表の活動中に次のシーズンの契約が決まることは珍しいことではなく、大きなところではMARCAの記事中にもあるとおり、コンテ、ファン・ハールアラゴネスフェリポンと事例があるので、そのこと自体は問題とは言い難いし、その点はルビアレス会長も認めているところ。

ただ、日本語での報道では、そもそも契約交渉がなされていたこと自体を非難したというニュアンスのものも見受けられたので、注意したい部分ではある。

 

さて、この記事はMARCAのものなので、クラブに好意的な内容であることは差し引く必要はあるが、それを考慮しても、ルビアレス会長が当初述べた印象とはかなり違う点が見えてくるのではなかろうか。

 

 契約合意の公表によって現場が混乱したというのであれば、当該人物にその混乱の収拾を任せることは難しいから、タイミングは最悪であっても別の人物に監督を代えるという判断も成り立つが、記事では現場では祝いの言葉があったと触れられている。

また、バルセロナのプレーヤーからジョークもあったと書かれている通り、この夏以降に直接のライバルとなる他クラブのプレーヤーとも問題ない接し方で、チーム管理に問題があったようには考えづらい。

逆に不要な憶測が取り除かれ、目前に迫る試合に集中できる状況になったことから、ペレス会長の言う「透明性」は保たれ、発表は良い方に作用したとさえ言えるかもしれない。

 

この契約合意の発表により現場で問題が起こったことに対しての解任でないとするならば、現場ではなく協会内に問題があったと考える方が自然だ。

 

例えば、ルビアレス体制が、清廉、困難な課題に対しても鋭い決定ができるといったようなイメージを売ることで、長年いわばのらりくらりと運営してきたビジャール体制からの変化を印象付ける狙いもあったかもしれない。

 

5月に会長職に就任したルビアレスの最初の大きな仕事と言っていいであろうロペテギとの契約延長から間もないことも当初は問題視されていなかったようだが、そうした見方をすれば、契約延長しておいて舌の根も乾かぬうちにマドリーと交渉すること自体を嫌悪し、「素早く決断する」という方向に意思決定がなされたようにも考えられる。

 

一般的に言って、入れ替わった直後のトップの権力基盤は脆弱だ。

前任者が四半世紀以上にわたり君臨してきたところからの改革を目指すルビアレス体制には、報じられるよりずっと多くの障害があるのだろう。

ここで協会や代表チームが1クラブに折れたように映っては、良くも悪くもなあなあでやってきたビジャール体制からの改革路線自体に疑念が持たれ、今後のルビアレス体制とその方向性の継続が難しくなる、と考える向きがあっても全くおかしくはない。

 

まして、その相手のクラブはマドリーであり、ペレス会長だ。

政治力により事を曲げることができるという噂が絶えないクラブ、会長が現れ、上手く成果を挙げていた代表監督と契約合意したと報告された時に、ロペテギが改革路線に背を向けたように捉える人物が協会内のしかるべきポストにいると考えるのは飛躍のし過ぎではないだろうし、組織とは得てしてそうしたものであろう。

 

そう考えると、ロペテギの就任発表でペレス会長が「クラブのイメージを損なおうとする者に立ち向かわなければならない。」と述べていたのにも頷ける。

手続きに瑕疵はなく、当初は相手のトップに認められていたものが、急に変節し、マドリーやロペテギの動きに不当な点があったとして示されることを、マドリーとしては許容できるはずはないのだ。

 

もちろん、マドリーに一切問題がないわけではないだろうし、すれ違いもあるように思われる。また、繰り返しになるが今回の件についも、MARCAの報道はマドリー寄りで、これが全て事実だという確証があるわけではない。

だが、マドリーがそうであるようにRFEFも組織であること、その組織のトップが清濁併せ呑むようなやりかたで長年やってきたところ、それをがらりと変えたいと考える人物に代わったことを考えると、今回の件は、当初の発表からいかにもイメージされるようなマドリーの「監督強奪」とは違う側面があるように見えてくるだろう。

 

組織同士のパワーバランスがあり、またそれぞれの組織内でのパワーバランスもあり、それがこうした事件に表出したのではないかと思われるのだ。