8月末で移籍市場が閉まり数日経ってしまったが、終盤の動きを振り返りつつ、マドリーの市場での振る舞いから、その変化について考えてみたい。
まずは事実関係の確認から。
■ルニン
今夏契約したルニンは、クルトワの加入、ナバス、カシージャの残留に伴ってほぼ出番がなくなることになったため、出場機会の確保、スペイン、リーガへの適応のためレガネスへ1年間のレンタル移籍となった。
プレシーズンでのプレーを見る限り質は高い。あとは時間を与えたいというところで、このレンタル移籍は予想の範囲内。
レンタルの契約条項は不明だが、レガネスで出場機会が多くもらえるように期待している。
■ラウール・デ・トマス
ラージョへのレンタルから帰ってきたラウール・デ・トマスは再びラージョへ。マジョラルよりは9番らしいスタイルでプレシーズン頑張ってはいたが、枚数が少ない中でも今シーズンの戦力にはならなかった。
■エーデゴーア
彼は再びオランダへ。今度はフィテッセへのレンタルとなった。
昨シーズンもへーレンフェーンでまずまずの活躍をし、出場時間も2243分と主力級の扱い。とはいえ、最激戦区でのポジション争いには勝てず。
完全移籍出の放出とならなかったことから、まだもう少しチャンスはありそう。
2年目のオランダで更なる飛躍があれば。
■マリアーノ
ネイマールやエムバペという非常に難易度の高い選択肢にこだわったこともあり、前線の補強がままならず、市場の終わりが近づいてきた中では、狙える9番はほとんど残っていなかった。
昨オフ、リヨンに800万ユーロで放出していたマリアーノについては、フランス側の制約で買い戻しオプションが設定できていなかったものの、他クラブからのオファーがあった場合はマドリーに通知され、同等のオファーを出せば優先される契約となっていたとのこと。
彼にセビージャが3500万ユーロのオファーを提示。合意はなされたものの、マドリーがリヨンからの通知を受けてオファー。
マリアーノはセビージャではなくマドリーへの帰還を選択した。
移籍時に30%程度の分配がなされることにもなっていたため、これも差し引かれ、3000万ユーロ以下で、リーグアンで昨シーズン18ゴールを挙げたマリアーノと契約することに成功した。
選択肢がごく限られていた状況下で、彼をこの値段で獲得できたことはバーゲンと言って良い。昨シーズン移籍させる時の契約の組み方が功を奏した格好だ。
ロナウド後の7番を背負うことになって、期待も大きい。スタイル的には7番という感じではないが、反響が大きいことも理解してこの番号を選ぶメンタリティは強い。
合流後間もなく、レガネス戦では出番がなかったが、中央で競れる彼の存在は大きな力になってくれるだろう。
■マジョラル
マリアーノの契約に伴って3番目の序列となったマジョラルはレバンテへレンタル。
率直に言って今のままでは9番としては厳しいように思われる。
得点に特化するか、サイドなどでの仕事の幅を広げていくか。レバンテで何か変化を起こせないとベンゼマ、マリアーノの次はちょっと遠い。
■コエントラン
スポルティングからレンタルバックされたコエントランは、一旦契約解除。その後古巣のリオ・アベへフリーでの加入が決まった。
テオをレンタルで出し、マルセロの控えがナチョとなっていても残留の目はなかった。
デシマのシーズン、終盤よくマルセロの穴を埋めてくれていたが、継続的なものにはならず。
マルセロが不在の時に負傷してしまう巡り合わせが残念だった。
モウリーニョ期、メンデスの繋がりで契約し中盤での無理やりな起用がなされるなど、マドリー出のキャリア初期においても良い取り扱いだったとは言えない。
マルセロの高い壁に阻まれた左サイドバックの1人と言えばそれまでなのだが、能力を十分に発揮しないままに歳を重ねてしまうことになった様々な出来事が、なんとも不運だった。
■所感
アザールから始まり、ネイマール、エムバペと報じられた前線の補強はマリアーノのみとなった。
前述の通り、パリからの獲得は移籍金はもとより年俸の高騰もあって難易度は高く、無理筋を追いかけた感は否めない。
だが、移籍市場終盤においてパニックバイに走らず、マドリーでの経験があり、1シーズンのみとは言えリーグアンでの実績を積んだマリアーノと安価で契約したことは、マドリーの変化を如実に表しているように思う。
また、もともとレンタルのつもりがなく、完全移籍で放出したいが買い手と折り合いがつかない「売れ残り」のプレーヤーが移籍市場終盤にだぶつくことがなくなったことも、数年前から大きく変わった点だ。
クラックとの契約を狙いつつも、マリアーノの契約のようにプランBになり得る存在は確保されるようになっており、プランAが頓挫した時のリカバーができるようにしていることで、以前のように序盤に獲得だけして、終盤にバーゲンセールに転じるというバタついた市場での振舞いはなくなった。
これは、ペレス政権における大きな進歩と言って良いだろう。経済的にも、チーム編成の視点から行っても、方向性が見えているのは重要だ。
もちろん、これにはマドリーよりも経済的に豊かなクラブが多くなったという環境要因もある。
PSGやシティに資金面で真っ向勝負では勝ち目がないので、望むと望まざるとに関わらず変化しなければならなくなったという面はあるだろう。
それでも、重要なのはペレス政権がそうした情勢に応じて振る舞いを変化させる柔軟性を持っているということだ。
従前通りのやり方が通用しなくなって望み通りの契約ができなくても、その時々に応じた方法で合格点は確保し、しかもそれを何シーズンも継続するというのは、簡単そうでいてなかなかできることではない。
ロナウドというスーパーなプレーヤーが去ったオフでもあるので、一マドリディスタの心情としては同じようなプレーヤーとの契約を夢見ないわけではなかったが、移籍金が一気に高騰している昨今の状況の中で、おかしな契約に走らずに9月を迎えられたことを評価したい。