上位をうかがうアラベスにベルナベウで快勝。リーガにおいては安定した戦いができるようになってきている。
■マドリーの先発メンバー
GK:クルトワ
DF:オドリオソラ、ナチョ、セルヒオ・ラモス、レギロン
MF:カゼミロ;モドリッチ、セバージョス
FW:ベイル、ベンゼマ、ビニシウス
63分:ベイル→アセンシオ、75分:ベンゼマ→マリアーノ、87分:ビニシウス→イスコ
オドリオソラ、レギロンの両サイドバックに。中盤ではセバージョスが先発。
■アラベスの先発メンバー
GK:パチェコ
DF:ビガライ、マリパン、ラグアルディア、ドゥアルテ
MF:ピナ;ブルギ、ワカソ、マヌ・ガルシア、ジョニー
FW:カジェリ
67分:ブルギ→ロラン、81分:マヌ・ガルシア→グイデッティ、カジェリ→アレックス・ブランコ
ELは狙える位置につけている。混戦の中位争いでどこまでいけるか。
■アラベスに形を作らせず
アラベスは4-1-4-1。
特に前半は、奪ってからの攻撃方法が曖昧で、1トップに当てて2列目が生きるのか、1トップがゴールを目指すパスを出すのか、はっきりしていなかった。
トップに収まるなら、そういう可能性を残すボールを蹴れば、何回かに一度くらいは陣地を回復してゴールに向かうことが出来るかもしれないし、裏狙いならマドリーのラインを押し下げる効果はあるし、良いボールが出れば決定気になるかもしれないが、そうした明確な方法が見えなかった。
パス本数がリーガで下から2番目と解説で触れられていたから、ボールを持つ時間が短くなることを前提としたチームであることには間違いなく、本来は守備から少ない手数でゴールに向かう準備がなされているはず。
そのアラベスを相手に、前線で基点を作らせず、押し上げをほとんどさせなかったマドリーは、良い状態が続いていると見て良い。ハイプレスでアラベスの時間を奪い、ボールを取りきれなくても難しいボールを出させることで、ボールを回収することができていた。
■左サイドの攻撃の形
アラベスを押し込む時間が長い試合となったので、マドリーの焦点は崩し。
そこで、ビニシウスがいる左サイドの攻撃が改善した点について述べておきたい。
ビニシウスが出場機会を得だした頃は、彼のスピードを生かして独力で頑張ってもらおうという配置が多かった。速さがあるので1枚は剥がせていたが、さすがに各チーム対応が早く、複数で見ることをどこも徹底するようになった経過がある。
そこで愚直に仕掛け続けて、対面する相手を上回るのも1つの道だが、複数を前にして高い確率で突破できることを期待するのは酷。当然組織としてどうするかを模索することとなり、今のマドリーではビニシウスが複数のディフェンスを引きつけられることを前提として、左サイドの役割を整理することで、攻撃の改善に成功した。
まず、ビニシウスは一番外側のエリアを担当。仕掛ける素振りを見せていれば、サイドにディフェンスの意識を向けさせることが出来る。そこでズレが生まれたら、1つ内側のスペースを中盤やサイドバック、ベンゼマが利用していく。
そこにボールが出れば、そのままえぐる、ビニシウスが中に入っていってのワンツー、中央の3枚目との関係など、エリア内で選択肢を多く持ってチャンスを作ることができるようになる。
先制点の場面はまさにそうした形。
ビニシウスの内側をレギロンが縦に出て行き、ビニシウスからの股抜きパスが通ったことで、深くえぐった位置を取ることができた。
レギロンは上下に走り回れるので、この形は理想的。
マルセロがいる場合なら、もう一度ビニシウスが受けてペナルティエリア角の位置あたりでフットサルのような近い距離での崩しといったイメージもできるだろう。
また、相手陣内の深い位置でビニシウスがボールを持った時は、仕掛けるドリブルも見せる。
複数枚をかわしてチャンスを作ることは難しく、ボールを失うことも多いので、このプレーだけを見れば無謀と言えなくもない。
が、他のプレーヤーが入るスペースを空けるため、ディフェンスをサイドに引っ張り出す餌をまいていると考えれば、前を向いて仕掛けるプレーの意味も変わってくる。
スピードがあるプレーヤーに前を向いて勝負されるのは嫌なもの。慎重を期して応対せざるをえなくなる。それを相手に強いることで、周囲を使うことができるようになる。
ビニシウスが外に張り出して、1つ内側のスペースを味方が利用する。その味方の動きをビニシウスが捨てずに使って、2人の関係性で崩していくという形を明確にしたことで、左サイドから何度もチャンスを作ることが出来るようになっていると言える。
■ビニシウス個人の進歩
ビニシウスがチームへ溶け込み、また成長していることが、こうした役割の整理をピッチで実現している背景にあることも指摘しておきたい。
当初の使われ方では、ドリブラーという印象が強かった。もちろんそれは彼の魅力の1つなのだが、味方を使い、自分も生きるパサーとしての要素が見られるようになってきている。
この試合では、自身がゴールを挙げたアセンシオへのサイドチェンジのボールもあったし、ミッドウィークではポストからマルセロへ落とすパスもあった。
落ち着いて相手と味方を見ていなければ、こうしたパスは出せない。トリッキーなドリブルと同じように、パスのアイデアも多いことが見てとれる。
こうしてボールを出してくれるプレーヤーには、味方もボールを預けてくれる。左サイドによくボールが来るのは、彼がチームに馴染んだ何よりの証拠だ。
今は味方を使うから、より自分も生きるという好循環ができている。
古きよき、南米らしいサイドアタッカーを想像していたが、より現代的なプレーヤーだったし、それも予想よりずっと早く成長している。
今シーズンのうちに、まだまだ進歩しそうで楽しみだ。
■アラベス持ち直し、マドリーは最後の10分で決着
試合は、先制以降はなかなか決めきれず1-0のまま。
アラベスは後半に入り、中盤も積極的に前に出て行くようになって、マドリーの守備を少し混乱させていた。
中盤での組み立てでは良いところのなかったワカソが、出て行ってガツガツやるようになり存在感を出していたのが印象的。
単純にカジェリに収めるのが難しいので、リスクを負って動かすことで、前半より可能性のあるプレーを増やすことができていた。
マドリーはベイルに代えてアセンシオ。
後半の最初は左に移っていたベイルだが、ゴールに絡むようなプレーはほぼなし。期待されているものを考えるとブーイングはやむを得ない。
ビニシウスのサイドと違うのは、ベイルの場合彼自身がゴールを挙げるための設計をしなければいけない点。大外をオドリオソラに任せ、ベイルが1つ内側に入るのが良いのだろうが、サイドに開いて受けたがるのでちょっと厳しい。
アラベスも目立つところが少なかったブルギを下げロランを入れて攻撃のてこ入れ。
後半はアラベスにもチャンスがあった。これまでのマドリーなら決められていてもおかしくないようなペースダウンの仕方で、2点目が入るまではエンジンを切るのが速いのではないかとさえ思われた。
ここで何とか乗り切れるようになったのも、前半戦との違いだろうか。
省エネにするなら本来はきちんと試合を終わらせるようにすべきで、ばたつくが何とか処理するのは本来望ましいことではないが、帳尻を合わせて何とかすることはできるところまで持ち直したということだろう。
80分にビニシウスが相手のクリアミスもあり、フリーでボールを受けて決め2-0。
89分にはマリアーノがダイビングヘッドで3-0と、最後の10分でカウンターを2本成功させ、3-0として試合を締めた。
■最後に
上位対決に勝利し、バルセロナ、アトレティコとの勝ち点差を詰めることができた。
左サイドの攻撃は確立しつつあり、武器とできている。ミッドウィークのバルセロナ戦では、それがどこまで通用するか。
現時点での出来をテストする、良い機会となるだろう。
週末のリーガもアウェイでアトレティコとの対戦。この2戦で粘って結果を出せれば、今のやり方に自信を持ってCLに臨める。
下手にいじらず、焦れずにゲームプランを実行してほしい。