レアルマドリードのある生活

レアルマドリードの応援日記。試合中心にお送りします。

移籍市場におけるクラブの振る舞いの変化と今後の可能性

移籍市場終盤、マドリーはケイラー・ナバスを1500万ユーロでPSGに売却。入れ替わる形でアレオラをレンタルで獲得し、第2GKを入れ替える取引を行ったが、それ以上の動きは取れずに終わった。

散々報じられ、個人的にも期待していた中盤を刷新するに足るプレーヤーの獲得はならず、序盤にアザールらと契約したものの、中途半端なところで補強が終わってしまった感は否めない。

 

25人の登録枠いっぱいにプレーヤーがおり、その意味でも売却が成立しなければ新たな契約はできない事情はあった。

ただ、それ以上に、「売却が先に進まないと獲得ができない」ことが移籍市場の流れとして顕著なものになってきており、以前のようにまず必要なだけ獲得して、その後で売却して枠に収めれば、収支はクラブとして許容できる範囲でありさえすれば良いという動きでは対応できなくなってきている状況がある。

 

FFPの制度改正によりそうした流れが強まっている中で、どういった振る舞いが求められるのか。また今後の流れはどう変化していくのかについて、少し想像してみたい。

 ■前提となるポイントのおさらい

まず、FFPの制度改正の大きなポイントについておさらいしておく。

 

前述の通り、これまでは移籍金の収支は各クラブが飲める範囲に収まってさえいれば良かった。マドリーのような大きなクラブは、仮に移籍金の収支が大幅な赤字になっても、他の予算で補填し全体として収支バランスが取ることができていた。

 

それが、この7月からは、移籍金単体での収支が1億ユーロの赤字以内に収まらなければならなくなった。登録枠に収まりさえすれば売値など最悪の場合どうでも良く、終盤にファイヤーセールを行うこともしばしばあった以前とは異なり、相応の額で売却しなければ補強も進まない形になったのだ。

 

別の要因として、主力級の契約をしようとすると、移籍金が容易に1億ユーロを超えるようになっている点も重要だ。

契約最終年に入るところだったアザールが1億ユーロ程度だったことを考えると、2年、3年と契約が残ったプレーヤーにはさらに高額な値札がつくことだろう。

赤字1億ユーロ以内という制度と比較した時、主力にかかるコストが非常に大きくなっていることを現状として押さえておきたい。

 

■売却優先に

さて、こうした条件下では、クラブはどのように振る舞うのだろうか。

 

私は、これまでとは逆に、主力級については獲得より売却を優先して進める姿勢がより強まるだろうと考える。

 

獲得が進んだ後に売却対象を適正価格で手放せる保証は、誰にもない。一般的には市場の時間が経過するほど売り手が不利になり、値段が下がることになる。

主力級と契約し、1億ユーロを超えた赤字の状態で、当初想定した売却益が出なければ、他のプレーヤーも市場に出して補填することが必要になる。そうなると、究極的には制度に抵触しなくても、戦力の維持が困難になる恐れが出てくる。

 

そのリスクはあまりにも大きい。それを負うことはできないから、まずは相応の額で売却対象を手放し、予算枠を確保した上で獲得に回る選択を多くのクラブがすることになるだろうというのが、その理由だ。

 

ここで問題なのは、だれもが売却を優先したいと考えていても、誰かが獲得する側にならなければ取引は成立しないという点だ。

売却のめども立たないまま先に獲得するリスクが大きいから、誰も獲得側にならず、序盤は互いに様子見する時間が長くなる。

どこのクラブがリスクを負うのか、そこからどのように波及効果が発生するのか。注意深く見定めてからでないと、獲得には踏み切れないことになる。皆補強はして戦力アップはしたいが、それに先に手を出したクラブが負けになるチキンレースのようなものだ。

 

こうしたことから、1億ユーロを超えるような主力級の移籍は大きく減ることが予想される。マドリーにおいてはハメスやベイル、イスコといったあたりが売れなかったことがその1つの事例になるだろうか。

代わって、5000万ユーロ程度といった規模の移籍は増えることになる。売却がうまくいかなくても対応可能で、すぐにFFP違反に繋がる恐れが少ないからだ。

 

これらのことから、主力級は維持したまま戦力序列の中間層以下を入れ替え、有望な若手やローテーション要員を獲得しつつ主力に育つことを期待して、戦力の上積みを図っていく方針を取るクラブが増えることになるだろうと考えられる。

 

■いかにして優位に立つか

ここからは更に想像力を働かせてみる。

 

主力級の移籍は冷え込むとはいっても、そうしたプレーヤーを獲得しなければならない場面はどのクラブにもあるものだ。

その時には、冷えた市場の中でいかにリスクを低減して獲得するかを考えなければならなくなる。

 

このリスクを下げるためには、先に売却益を確定させなければならないということは先に述べた。

だが、そもそも移籍金の支出を伴わない獲得であれば、制度に抵触することはないという考え方もある。翌シーズンのオフの完全移籍を確約しつつ、今シーズンはレンタル移籍とするようなやり方(トッテナムに移籍したロチェルソなどの事例)がその一例だ。この考え方をさらに進めた時、トレードによる移籍が有効な手段になってくる可能性があるのではないだろうか。

 

互いに金銭支出なしで、プレーヤーの交換のみを行えば制度上問題とはならないのだから、スポーツ面での利害がクラブ間で一致しさえすれば良い。

1対1ばかりでなく、主力級1人と有望株2人、3人といったやり方もありうるだろうし、場合によっては三角トレードで3つのクラブの利害一致を見ることもありうるだろう。

こうした取引ができれば、制度に抵触するリスクを減らしつつ、スポーツ面での要望を満たすことができる可能性がある。

 

これまで、実質トレードといえる移籍はあっても、形式的にも明確なトレードと発表された移籍はそう多くはない。だから、トレードの多用というやり方は、極端な想像に過ぎないのかもしれない。

だが、移籍金と年俸が上がり続けているにも関わらず移籍金として支出可能な額がその収入によって決まるという制度下では、リスク回避の振る舞いが市場を支配する。その時、どのクラブも一人負けはしないが、かといって戦力アップも皆等しく難しくなる状況が訪れる。

それよりは、金銭を介さない取引を行う道を整備した方が、自由に動ける分メリットが大きい。

 

トレードが盛んにおこなわれているアメリカ四大スポーツなどとは違い、ヨーロッパフットボール界はリーグ内や各国リーグ間の戦力均衡(どのクラブも優勝可能性があるようなレベルのもの)を目指しているわけではない。

また、プレーヤーもトレードを当然のことと理解しているわけではないから、すぐにトレードを有効に運用することは難しいだろう。

 

だが、主力級の移籍の実現方法として、制度に縛られずに動くことができる方法を確立することは、チキンレースから脱することができることを意味する。

今後も現行制度が適用されるのであれば、その中で優位に立つため、トレードのように既存のやり方にとらわれない補強策を検討する必要があるのではないだろうか。