素晴らしい内容。もったいない連続失点で引き分けたが、ブルージュとガラタサライの結果により2位でのGS通過が決定した。
■マドリーの先発メンバー
GK:クルトワ
DF:カルバハル、バラン、セルヒオ・ラモス、マルセロ
MF:バルベルデ、カゼミロ、クロース;イスコ
69分:アザール→ベイル、76分:バルベルデ→モドリッチ、82分:イスコ→ロドリゴ
まさかのイスコ先発でイスコシステム。中盤4枚の場合はモドリッチだろうと思っていた。
■PSGの先発メンバー
GK:ケイラー・ナバス
DF:ムニエ、チアゴ・シウバ、キンペンベ、ベルナト
MF:マルキーニョス;グイイェ、ベラッティ
FW:ディマリア、イカルディ、エンバペ
46分:グイイェ→ネイマール、75分:イカルディ→サラビア、ディマリア→ドラクスラー
ネイマールはベンチスタート。
■マドリーの形を整理
前回対戦時はPSGの縦パスの出し入れに対するマドリーの中盤に問題があり、クロースとカゼミロがスペースを空けたところを使われる形で良いようにやられた。
他のプレーヤーの守備強度も高くなかったので、彼らが出て行った後は数的不利になる。そうであればリトリートしてスペースを埋め続ける方が無難なのではないかと書いた。
それから約2か月が経過し、マドリーは変化を遂げた。
バルベルデが本格的にポジションを掴み、彼の上下動により高い位置からの積極的な守備が実現。中盤と前線の乖離もなくなり、バルベルデがエリア内に入っていく形も頻繁に見られるようになった。
今節のマドリーの布陣はこの強みを生かすもの。3対3の同数であっても互角以上にやれる組み合わせに加え、イスコをマルキーニョスを見られる位置に置くことで、中盤のやり合いで主導権を握ることを狙った。
怖いのはイスコが守備を放棄してしまうこと。そうなるとかつてのイスコシステムに近くなって、低い位置からの攻撃開始、持たされる攻撃といった問題が生じてしまう。
しかし、この試合の彼は近年稀に見る守備強度でプレーし、他の3人に劣らない規律で組織だった守備に貢献した。
最近の好調の大きな要因である、高い位置での素早い守備への切り替えは健在。前に出て行って相手を捕まえにいき、複数で囲んで奪い取ることができていた。
WhoScored.comによれば、前回対戦時のPSGの中盤3枚のボールロスト8回はすべてマドリー陣内であったのに対し、今回の6回のボールロストは自陣でのもの。マドリーが相手陣内で守備できていたことが伺える数字と言えるだろう。
・前回対戦時
・今節
一方、この形の弱点は、PSGがウイングとサイドバック2枚なのに対し、サイドバック1枚となる両サイド。
クロースとバルベルデがサイドに開いて対応することになるが、場合によっては難しくなるし、プレーヤー間の距離は開く。数的不利のサイドを突破されるか、そうでなくても幅広く動かされて中央にスペースが空くことが考えられる。
ただ、この試合においてはそうしたサイド攻撃の形をほとんど作らせなかった。前で奪えていたため、サイドバックが高い位置に進出するタイミングを与えず、個人の突破に頼らざるを得ない状況にすることができていた。
当初はディマリアが左でエンバペが右。マルセロサイドの裏をエンバペが突ける形だった。だが、17分のマドリーの先制以後は逆に。マドリー左サイドの人数をかけた攻撃に対しディマリアをあてることにしている。
PSGの思うようにサイド攻撃が進んでいたらこうした変化は不要で、起こっていないはず。
マドリーの強みが弱点を隠し、試合のペースを握ることができた証だ。
マドリーの先制ゴールは、アザールのドリブルから。
左サイドで受けてから中央まで動きつつキープし、押し上げの時間を作った。その後はバルベルデが受け、カルバハルに預けて縦へ。ワンツーのパスを受けてのクロスをイスコがシュートし、最後はベンゼマがポストに当たってボールを押し込んだ。
バルベルデのランニングにより右サイドを破ったゴールだが、その前のアザールのプレーが見事。
左サイドを起点に7回ドリブルしているが、縦に行くだけでなく、こうして相手をはがしながらポジションを変えることで守備がずれる可能性は高まる。
左サイドでのショートパスによる崩しも、彼のドリブルではがされる危険があるから脅威が増す。
得点の一歩手前の場面で様々な形で関与していて、非常にいい出来だった。
ベンゼマはポストプレー、左の攻撃参加といつも通りの活躍に、数字に残る結果もついてくるのが今シーズンの素晴らしい点。
崩しに関わって終わりではなく、ポジションを移して最後の場面にも参加するからこその結果である。
■ネイマールによる変化も、マドリーが逆に
ビハインドのPSGは後半頭からネイマールを投入。4-2-3-1の形に変化。
マルキーニョスとイスコが向かい合う形からドブレピボーテとし、2対1となるようにして安定を図った。
また、そのひとつ前でネイマールにボールが入れば、そう簡単には取られなくなる。前線とのポジションチェンジなどの選択肢も増えるので、マドリーの守備の的が絞れなくなるような変更だ。
マドリーは69分にアザールが負傷しベイルと交代。
ウイングだと守備バランスの修正が必要になるところだったが、2トップの一角だったためそれほど大きな変更は不要だったのが不幸中の幸い。
ネイマールが入ったことで、PSGは中央で預けられるポイントができ、前半よりも攻撃の形が明確に。サイドバックが上がれる時間も増えていった。
79分、高い位置を取っていたベルナトの裏をモドリッチが突いたところから追加点。左へと展開し、マルセロのクロスにベンゼマが合わせた。
守備で優位に立ち、相手が出てきたところを使ってゴールに繋げるという、理想的な展開。PSGが本来やりたかった形である、前に出たサイドバックの裏を狙っての攻撃をマドリーが成功させた。
先に変化してきたPSGに対し、当初の守備バランスで相手を上回り続けられたこと自体が大きな成果だ。相手に合わせて対応するのではなく、自分たちの強みで試合を支配し続けることができた。
こうした長所が明確であれば、トーナメントでも十分にやれる。
守備が強い、少し前のトーナメントに強いマドリーがまた生まれたような印象を受けた。
■失点は教訓に
81分、83分の失点はもったいない。
1点目は得点直後のプレーで左サイドが緩慢となっており、2点目は低い位置から入ってきたネイマールを起点にうまくやられた。
ここ以外はほとんど問題を起こしていなかったので、きっちり締めて勝っておくべきだったとの思いはもちろんある。
だが、この2失点により、この試合でできたこと全てを失ったかのように受け止めるのも大げさに過ぎる。
決勝トーナメントであれば、こんな形でのアウェイゴールの献上は許されないが、幸いGSだ。こういう落とし穴はどこにでもあるのだということを実感できる機会だったと捉え、いい教訓とするくらいが適当ではないか。
破滅せずにこうしたレッスンを受けられる試合は、そう多くない。
内容が良かっただけに、それでもこうなるから詰めを誤ってはならないと余計に強く感じられる機会になったはずだ。
■最後に
引き分けだったが、非常に前向きな内容だった。
バルベルデの台頭以後、最初の大きな試合だったが、まずはこのレベルでもやれることが示された。
あとは、連続失点のような綻びを少しずつなくしていけばいい。大きな方向性としては間違っておらず、チームが前に進んでいることを確認できる試合となった。
ベイルはプレーで価値をまた少しずつ示している。
最後のフリーキックが入っていれば、彼のピッチ外の騒動は全てなかったことになっていただろうが、そこまでとはならなかった。
ブーイングもあったが先週末ほどひどい状態ではなく、良いところでは拍手もあったように聞こえた。
釈明はしなくてもいい。在籍している限り、こうして献身してくれれば。