アクラフのインテルへの移籍が公式に発表された。
報道によれば、移籍金は4000万ユーロプラス出来高500万ユーロ。買戻しオプションではなく、他クラブによる最高額のオファーと同額を提示できる優先交渉権があるものとみられるが、明らかにはなっていない。
アクラフにとって、ドルトムントでのプレーはキャリアを大きく飛躍させるものとなった。
もともと攻撃での貢献が売りだったところ、ドルトムントで今シーズン9ゴール10アシストを記録。
ポジションがサイドバックばかりではなく、前で起用されることがあったことも影響しているとはいえ、シーズンを通じ数字に残る結果を出し続けた。
マドリーで華麗上のゴール数を記録しているのは、ベンゼマとセルヒオ・ラモスだけ。ウイングに人材は多くても、アクラフより数字上上回ったプレーヤーはいない。
前にいれば自然に点が取れる、アシストがつくといったものではないのだから、誇るべき成果だ。
こうした活躍から、5、6月頃はマドリー復帰が決まったかのように報じられていた。シーズンが中断しており、話題が少なかったせいもあるのだろう。得点不足に悩まされていた中断までのマドリーにとって良い「補強」になるといった論調が多かった。
しかしながら、クラブは冷静に判断を下した。
まず、コロナウイルス感染症の流行により予算面に不安があったであろうことが、売却の理由として挙げられる。
現金を増やせるチャンスは普段のオフよりも少ないことが想定される。幸いマドリーが致命的なダメージを受けているとは伝えられていないが、この時期にまず買ってくれる取引相手は貴重だ。
金銭的な不安を払しょくできる機会は逃せない。
第二に、アクラフがカルバハルの控えで納得するかが不透明であった。
カルバハルはまだ28歳で、メンディがやって来て使い分けが可能になったマルセロよりずっと若い。どれだけ短く見積もっても、あと3シーズンは現状のレベルが維持できるだろう。
アクラフとしては、これだけの実績を引っ提げて帰ってくるのだから、相応の時間確保を期待するだろうが、一方でカルバハルの壁を越えていけるかどうかに確信は持てなかったと思われる。
そうしたプレーヤーを無理に置いておきチームの士気低下を招くことは避けねばならなかった。
カルバハルの壁はとにかく高い。
アクラフが彼を上回れないと言い切ることはできないが、彼が定着して以降、ダニーロ、オドリオソラがやってきても、ポジション争いにさえならなかったのだ。
クラブはこの点について、アクラフを納得させられるだけの条件を示せる状況にないと判断したのではなかろうか。
■余波
この移籍により、来シーズンのカルバハルのバックアップは、現在バイエルンにレンタル移籍中のオドリオソラが戻ることが第一案となった。
とはいえ、オドリオソラはマドリーでコンスタントな出場機会を得られず、試合勘を失ってプレーが悪化するという悪循環に陥りバイエルンへレンタル移籍となった経過がある。そのバイエルンでもここまで4試合160分の出場。
自信を取り戻すどころか、状況は悪化の一途をたどっている。
復帰しても依然同様控えには心もとないレベルに留まるのではないかとの不安は全く解消されていない。
噂レベルながら、彼自身も古巣ラ・レアルへの復帰を希望しているとの報道もあり、もしかすると本格的に移籍を希望するかもしれない。
アクラフが去ることは、オドリオソラの立場の向上に繋がるわけではない。
オドリオソラがカルバハルの控えから脱することは難しいだろうと考えられ、右サイドバックのバックアッパー問題が顕在化することになるだろう。
マドリーはこのポジションに予算を使うつもりはないと思われる。
また、計算できる実力がありつつ「出場機会はほどほどでも可」と都合良く言ってくれるようなベテランと契約するアイデアは、このクラブにおいてほとんど採用されない。
オドリオソラが難しければ、ナチョのサイドバック起用やカンテラーノの登用という選択で凌いでいくことになると推測される。
いずれにしても、カルバハルの控えとして競争相手になるようなレベル、彼同様の内容での貢献をすぐに求めることはできない。
今後数年は、層の薄さを自覚しつつも、対策が取れない状況が続いていくものと思われる。
カルバハルがマルセロほどの年齢になる頃に、アクラフのオプションが(あるのなら)発動できるようにしておくくらいが落としどころではないだろうか。