離脱していたメンバーが復帰してきた状況でむかえたバルセロナ戦にもかかわらず、期待を大きく裏切るひどい結果となった。
■マドリーの先発メンバー
GK:ケイラー・ナバス
MF:モドリッチ、クロース;ハメス・ロドリゲス、ベイル、ロナウド
FW:ベンゼマ
54分:ハメス・ロドリゲス→イスコ、58分:マルセロ→カルバハル
ナバス、セルヒオ・ラモス、ハメス、ベイル、ベンゼマといった面々が本格的に揃った。最近重用されていたカゼミロが控えに。
■バルセロナの先発メンバー
GK:ブラーボ
27分:マスチェラーノ→マテュー、56分:ラキティッチ→メッシ、76分:イニエスタ→ムニル
ラキティッチは先発復帰。一方メッシはベンチスタート。
■4-2-4
とにかくポゼッションしていたグアルディオラ期のチームには専用の対策が必要であり、モウリーニョはマドリーでその対策に多くの力を割いた。ペペの中盤起用などは、象徴的な例と言えるだろう。
その頃とは違い、今のバルセロナは速攻もあるしサイドも使う。カウンターに特化したやり方を必要とはしなくなったが、その分守備面では1つの攻め方に対応する形を突き詰めれば良いというものでもなくなった。特殊な形の強さではなく、オーソドックスではあるが非常に強いチームとなったのだ。
その分、対戦する際は地力が試される。
かつてのチームであれば、その特殊な形への対応を検討する必要があり、返って自滅することもしばしばあったが、今は普段どおりの戦い方を出来る分、そもそも力が足りなければ普通に負けることになる。
特別な策が合っていたかどうか、という観点もあった過去とは違い、チームの実力が率直に反映される状況である。
もちろん、ポゼッションを極めたかつてのチームとは違っても、当然普段とはレベルが違う守備は必要で、サボってはいられない。
むしろ、自分達もある程度攻撃に出られるようになった分、バランスを取る必要性が出てきて、対応の難易度は上がったとも言える。
マドリーはその点で無謀な構成。ピボーテとして守備での存在感がありボールも散らせるカゼミロを控えに回し、改善しているとはいえ守備が得意ではないクロースとハメスを置いたことで、中盤の守備は非常にもろくなるのは明らか。
マドリディスタは攻撃的な11人を望むとの戦前の報道もあったが、この形は余りにも心もとない。まして守備とそこからの速攻を基本線としたいバルセロナ相手には自殺行為とも言える形だった。
こうした形で臨んだことで、厳しい内容とならざるを得ない状況ではあったが、それに輪をかけて個々のプレーヤーのパフォーマンスが酷かった。
ベンゼマ、ロナウド、ベイルは帰陣して守備に参加することをほとんど見込めず前線に張り付いていたし、ハメスも高い位置に居残ることが多く、4-2-4のようになっていることがほとんどだった。
そのため、まず後方の組み立てが非常に苦しくなった。
バルセロナが前線から追ってきたことで最終ラインでも楽にボールを持つことはできない状態でありながら、前線が降りてきて助けてくれないので、無理な繋ぎを強いられることに。
バランは特に辛い状況で、蹴りだすことも出来ないし、かといって繋ぐ相手もなく、詰まってプレゼントパスを出すことが何度もあった。もともと繋ぐかどうかの判断に甘さがあるのだが、この試合ではまともに縦に入れることが全くできず、味方に預けるようなパスしか出来ていなかった。
帰ってこない前線は、自分たちの位置で散発の追い回し。4枚いるが連動していないし、中盤より後ろは付いてこないので、バルセロナほどのチームならかわすのはわけもない。
この運動量があるなら、自陣に戻る方に使うという判断にならないのはなぜなのだろうか。無駄に走り回って、バルセロナのパス回しの鬼になるばかりで、囲い込んで効果的に速攻に繋がることはなかった。
バルセロナはクロースとモドリッチしかいないマドリーの中盤のスペースを好きなように利用した。イニエスタとラキティッチがいいようにボールを運び、動かすし、プレスをかわした後はサイドバックも参加して厚みを持たせていた。
高い位置でボールを奪われても、素早くプレスに移ればマドリーの低い位置のプレーヤーは出すところがない。クリア気味に蹴り出すか、無理に繋いで引っ掛けるばかりなので、バルセロナにしてみれば不安はなかった。
上述の通り、マドリーはそもそも難しい形でこの試合に臨み、ピッチに立ったプレーヤーの多くもそれぞれ修正を図ろうとすることもなく、やりたいことだけをやってバラバラにプレーした。
これでバルセロナと対等に戦えるわけもない。試合を支配され、失点を重ねたのは当然の成り行きだった。
■ベニテスはチーム掌握に疑問
個々のプレーヤーの出来については復帰直後のものも多く、やむを得ない部分はある。
しかしながら、それにしても全体として緊張感、士気が低下していることは明白。普段以上のメンタリティで臨むのが当然のこうした大きな試合で、精神的に良くない状況のプレーヤーが多かったことから、ベニテスの管理能力に疑問が出るのは当然だろう。
途中出場したイスコがネイマールを蹴り上げて退場した場面が象徴的だった。
敗戦は決定的であるものの、ベルナベウで何とか一矢報いようというところでの暴力行為。相手や判定への苛立ちならば、やっていないという素振りをしたり、執拗な抗議があったりするものだが、イスコはあっさりと判定を受け入れてピッチを去った。気持ちが試合に向いていないようであり、きわめて淡々としていた。
メンバーが多少入れ替わったとはいえ、昨シーズンのアンチェロッティならば、ここまで酷い内容にはしなかったのではないだろうか。
アトレティコに対する大敗はあったが、少なくとも精神的な準備だけはきっちりしていたし、その後を見据え試合途中で諦めた節もあった。
負傷明けのメンバーが多くとも、ほとんどフルメンバーを招集できたベルナベウでの試合で、プレーヤーが試合に入るメンタリティを持ち合わせていないなど、あってはならないことだ。
プレシーズンとシーズン序盤には、比較的きっちりした組織を作れているように見え、就任当初の評価を見直すところもあったのだが、攻撃の形が見えず、かといって守備は組織として堅実なのではなく、ナバスに依存した状態であり、チームの状態は一向に上向いてこず、大一番でこの惨状。彼がマドリーを率いるのは難しいのではないかとの疑念を再び抱いてしまう。
この試合を見る限り、戦術的問題以前に、チームの気持ちをまとめるといった組織管理の点で、大きな問題があるのではないだろうか。そうであれば、ベニテスはこれ以上チームを前に進ませることは出来ないだろう。
■ペレス会長まで飛び火するか
バルセロナのプレーは良かったが、それ以上にマドリーが全ての面で酷かった。惜敗なら悔しさもあるが、ここまで酷いと0-4の結果を簡単に認めることができるものだ。
ミッドウィークにはCLもあり、シーズンは進んでいく。早く次に備えてほしい気持ちもある。だが、ここまで覆い隠してきた悪い部分を一気に露呈したことで、一度清算が必要なのではないかとも考えてしまう。
ベルナベウではペレス会長の退陣を求める声も出ていた。そうした話題はシーズン途中はできるかぎり避けたいが、この状況ではどうしようもない。年内の残り試合の結果如何では、ベニテスだけでなく、ペレス会長まで飛び火しかねない、そうしたきっかけとなるような試合だった。