3連覇の偉業を達成。100年先まで語り継がれるかもしれない歴史が生まれる瞬間を目の当たりにすることが出来た。
■マドリーの先発メンバー
GK:ケイラー・ナバス
DF:カルバハル、バラン、セルヒオ・ラモス、マルセロ
MF:カゼミロ;モドリッチ、クロース;イスコ
37分:カルバハル→ナチョ、61分:イスコ→ベイル、89分:ベンゼマ→アセンシオ
今シーズンのCLの定跡通り、イスコを先発とした形でスタート。
■リバプールの先発メンバー
GK:カリウス
DF:アレクサンダー・アーノルド、ロブレン、ファン・ダイク、ロバートソン
MF:ヘンダーソン;ミルナー、ワイナルドゥム
FW:サラー、フィルミーノ、マネ
30分:サラー→ララーナ、83分:ミルナー→ジャン
チェンバレンを欠いているが、3トップは健在。
■リバプールのプレスとマドリーの対応
序盤はリバプールのペース。
3トップの両翼がセンターバックへプレスをかけ、門のところはフィルミーノが見て、マドリーの肝であるカルバハルとマルセロのサイドバックはサイドバックで抑えるという形。
前線から順番に相手を捕まえていって、自分のマーカーを決めていくようになっていた。
前線から追って、サイドへの逃げ道をサイドバックで潰す形は、リーガ第17節のバルセロナ戦でマドリーもやっていて、似たような当てはめ方という印象。
マドリーと違うのは、サイドへ展開されてリトリートすることになってもサイドに2枚ずつ確保できていてバランスが取れていることと、追うか追わないかの判断が組織として統一されていたこと。
バルセロナ戦でのマドリーは、サイドの攻守の全てを両サイドバックに任せることになっていたし、普段と違う戦い方であったことからとにかく追いまくるしかなく、後半に失速、バルセロナが修正したことにより破綻した。
リバプールの場合は、プレスの時にサイドバックが高い位置を取るが、かわされればウイングも戻るようになっていたし、このやり方で今シーズンを戦ってきた蓄積がある。
無理な追い方をしてマドリーが決定的なスペースを得るといったことにはならず、うまくコースを消される時間帯が続いた。
リバプールのプレスに対し、マドリーはモドリッチとクロースがサイドバックの後ろに下りる方法で安全なパスコースを確保。ここもついてこられた時は、その前の両サイドバックがフリーになるので、センターバックからサイドバックへパスを出すことでボールを進めていた。
それでも厳しい時はロングボールを選択。リーガの一試合とは違い、無理に繋ぐリスクを負わず、あっさりボールを捨てる意思統一はなされていた。
組み立て時の問題はカゼミロで、彼のところにボールが入ると狙われていた。味方も早々に気づいて、彼を極力介さない形でボールを動かすことに。カゼミロはモドリッチやクロースの邪魔にならないポジションを取り、最低限の関与に。
それはそれで1つの解決策ではあるが、1枚欠けた状態で組み立てることになるので、プレーが難しくなったことは否めない。
プレスを回避した後はサイドへ。ベンゼマもサイドに積極的に流れてボールを受け、センターバックを引っ張り出していた。当然サイドバックも応対することになるし、枚数が足りなければウイングも下がってくるので、リバプールの攻撃開始位置を押し下げることに繋がる。
サイドの主導権を掴んでいきたいという意図が見える受け方だった。
■守備
4-3-1-2ではお馴染みの形だが、守備時はイスコが2列目に下がって4-4のブロックを形成。概ね左サイドではあったが、攻撃時のポジションによって戻る最初の位置が違うのも今シーズンのこれまでの試合通り。
リバプールがボールを持った時はとにかく縦にボールを運ぶ選択肢を選んでいたので、サイドの問題を遅攻で突かれる場面はそう多くはなかった。ただ、その数少ない場面でもアレクサンダー・アーノルドにワンツーで剥がされる場面もあって、守備面での問題は明白。
最後のところをセンターバックが処理してくれていたが、継続されると厳しい印象はあった。
中央では、カゼミロがフィルミーノの相手を担当。どこまでもついていくというほどではなかったが、2つのラインの間にいる時はほぼマークについていた。最終ラインに吸収されてもフィルミーノについていく場面も。
普通であればセンターバックが見るところだが、やや下がった位置から起点となって両サイドを使われる形を警戒するならば、カゼミロにその役割を負ってもらうのは理に適っている。
カゼミロの働きによって、フィルミーノから両ウイングへ良い形でボールが供給されることはほとんどなかった。
また、こうした役割だったこともあって、カゼミロは高い位置に進出せずに、本来のポジションに留まっていた。
彼がポジションを外した時に奪われるといった危険なことはなく、守備面では良い作用が多かった。
■サラー、カルバハル負傷
サラーの負傷によりララーナが入ってからは、マネが右に移動し、ララーナが左へ。
攻撃時はララーナも高い位置に入ってきていたので、一応3トップの形は維持したともいえるが、守備時はララーナが2列目に組み込まれる4-4-2の形に。
これにより、序盤のように両ウイングからスタートするプレスが成立しなくなった。
機会があれば追う姿勢は維持していたが、序盤のように前からどんどん当てはめていくような守備は継続できなくなり、下がって守る選択をすることが多くなっていった。
奪って縦に速い攻撃を目指したいリバプールとしては、その攻撃のスタートとなる守備を思うように出来なくなって、ゲームプランが大きく変わっただろう。
得点源としてのサラーの離脱ももちろん痛かったし、攻守両面でプランを立て直さざるを得なくなったのだから、非常に大きな出来事だった。
マドリーもそのすぐ後にカルバハルを負傷で失う。
両サイドから攻撃できるのが強みだったし、サイドの守備の多くを担ってもいたカルバハルの交代によって、マドリーも重要な戦力を失うことに。
ただ、ここで入ってくるのがナチョというのは安心感が大きい。攻撃はさほど期待できなくとも守備面で信頼でき、守備で頭を悩ませる必要はない。
マドリーの守備は個々の能力による部分が大きく、守備を気にしてバランス修正するのも難しいチームなので、彼のようなプレーヤーが控えていてくれる意義は非常に大きい。
今シーズン何度もピンチを救ってくれたように、決勝でも緊急事態を救ったのはナチョなのだった。
■1点ずつ
先制点は51分。ベンゼマが準決勝に続いて重要なゴールを挙げた。
BBCの3人の中でも最も得点の期待が薄いベンゼマではあるが、こういう抜け目のなさは他の2人にはない特長。
普段は10番的振る舞いが多い彼のストライカーらしい一面である。
リバプールは55分にコーナーから同点。
高いボールが入って、単純にセルヒオ・ラモスが競り負けたのだからどうしようもない。ロブレンの落としに反応したマネの入り方も見事。
セットプレーの守備のまずさはこの舞台でも残念なほどしっかりと見られ、マネの動きをまったくケアできていなかった。
■ベイル投入
追いつかれる形となって、リバプールが良い精神状態になっていた時間帯にイスコをベイルに代えるジダンの判断は凄い。
高い位置でのプレーはそう多くはなかったものの、適宜下がってプレスの回避に一役買っていたイスコを、リバプールが意気上がる時間帯に下げてしまう決断が1つ。
そして、シーズン後半に長くチームを支えたバスケスやアセンシオではなく、最終盤に調子を上げたベイルをまず使うという選択の2つは、なかなかできることではない。
いずれにしても、スペースが出来やすくなる時間にスピードのあるプレーヤーを投入できる強みはしっかり生かしたということ。
リバプールがサラーを欠いてやり方を変えることに苦労した一方、イスコシステムからBBCの3トップへの変形では明らかな戦力ダウンとならないのがマドリーの層の厚さ。
試合後、ベイルは先発できなかったことを残念に思う旨の発言をしていたが、彼のようなレベルのプレーヤーをベンチに置きながらシーズン最後まで腐らせず、モチベーションを保ったジダンの手腕は評価されるべきだろう。
そしてそのベイルが、歴史に残るゴラッソとロングシュートを決め、勝負あり。
ジダンはこれまで交代が遅めな印象だった。その彼がこの舞台で先に先にと手を打って、勝利を引き寄せた勇気、大胆さが光った。
■最後に少し
シーズン後半の功労者であるバスケスを使わず、アセンシオも終盤のみの起用で3-1で勝利し、CL3連覇。3年続けてこれほどの喜びを味わえると、誰が想像しただろうか。
振り返ると、序盤を凌いで後半勝負という考え方は、これまでのCLの試合と変わっていない。その枠の中で誰を出すか、という調整をしながらここまでやってきたシーズンと言ってもいいのかもしれない。
こういうやり方は控えがモチベーションを低下させていては成り立たない。繰り返しになるが、そうした事態にならないようプレーヤー全員を戦力と捉えているというメッセージを発し続けたジダンの功績は大きい。
モラタもハメスもペペもいなくなったシーズンと言われつつ、最終的にはナチョ、バスケス、アセンシオらが台頭し、しっかりとした選手層を保つことができたのは、偏にジダンのおかげだろう。
シーズンの振り返りは少し先にして、今はこの幸せをかみ締めていたいと思う。