スーパーカップの敗戦はあったが、リーガは上々のスタートとなった。
■マドリーの先発メンバー
GK:ケイラー・ナバス
DF:カルバハル、ナチョ、セルヒオ・ラモス、マルセロ
MF:クロース;セバージョス、イスコ
FW:ベイル、ベンゼマ、アセンシオ
57分:イスコ→カゼミロ、71分:セバージョス→モドリッチ、77分:ベイル→ルーカス・バスケス
GKはナバスを選択。クロースが底で、その前にセバージョスとイスコという形。
■ヘタフェの先発メンバー
GK:ソリア
DF:ダミアン、ブルーノ、ジェネ、カブレラ
MF:アランバリ、マクシモビッチ;ポルティージョ、柴崎、アマト
FW:ホルヘ・モリーナ
57分:アマト→ハイメ・マタ、64分:ポルティージョ→アレホ、71分:ホルヘ・モリーナ→アンヘル
昨シーズンは8位のヘタフェ。柴崎は移籍の可能性が報じられている。
■見えてきたポイント
ジダン期からの大きな変更点は中盤。
クロースを底で使い、セバージョスを先発起用する形はこの3年間ではあり得なかったものだ。
リーガの移籍市場はまだ開いており、また、マドリー主力はW杯の影響もあって全員が万全というわけではないので、これがロペテギのベストメンバーだとは思えないので、その分は割り引いてみる必要はある。
だが、それでも開幕節にこの形を選択したということから考えられるポイントについて触れておきたい。
1つはポゼッション志向の高まり、もう1つは前線からのプレスの構築である。
■ポゼッション志向の高まり
中盤に技術があるプレーヤーを揃え、前線にもアセンシオ、ベンゼマがいる構成で、ポゼッション主体の攻撃とならないことを想像するのは難しい。
クロースの捌きは相変わらず安定しているし、ヘタフェのプレスに対してはセバージョス、イスコ、アセンシオが低い位置まで降りてパスコースを確保するので、クリア気味のボールを使う必要はほとんどなく、ショートパスを繋いで押し上げることが非常に多くなった。
クロースがこれまでのように高い位置に進出するのではなく、底に留まって配球に関与し続けることで、低い位置のポゼッションが安定し、ここに守備をおびき出して両サイドへ展開するルートがはっきりしていた。
近い距離でプレスを剥がすのはいかにもスペインらしい。
セバージョスは昨シーズン出番がほとんどなかったのが嘘のようにチームのやり方に馴染んで、地道に攻撃の構築を続けていたし、イスコも昨シーズン見られたような球離れの悪さがあまり気にならなかった。
この違和感のなさは、やりやすい距離感でプレーできていたからこそだろう。
セバージョスは忍耐の1年を終え、今シーズンは飛躍できそうな予感を持てるプレーができていた。
結局、この試合では78%もの支配率。
支配率は単なる数字であってゴールそのものとは関係ないが、これだけボールが持てれば少なくとも失点のリスクは減る。
バタバタした展開からビハインドを追うような試合の数を減らすことには繋がるだろうし、それは力で押せる相手が多いリーガにおいて大きなメリットになる。
こうやってポゼッション主体の試合運びをすることは、現有戦力をどう使うかという問いに対するロペテギの回答だろう。
課題はどうやって点を取るか。
20分にベイルのクロスからカルバハルが技ありのヘディングを決めたことでこの試合は余裕をもてたが、スペイン代表でもポゼッションが得点に全く結びつかない傾向は強まっていた。
リトリートした相手に対し、ボールが守備陣形の周囲を回るだけになると、ロシアでの代表のような状態となることが想像できてしまう。
サイドからのボールでねじ伏せるなら、やはり中央の迫力はほしいと思わざるを得ない。高い支配率をゴールに結び付けられる9番の補強は必須だろう。
■プレスの構築
カゼミロの台頭以降、クロースが底で使われる機会は非常に少なくなっていた。パスの精度をある程度犠牲にしてもカゼミロを使っていたのは、偏に彼の守備能力による。
守備時は4-4に移行してバランスを保っていたが、中央にカゼミロがいないと安定感がなかった。サイドにアセンシオやベイルを置いた状態では、いつサイドのスペースが埋められずに放置されるかわからない。
守備への切り替え時に、中盤の広いスペースをカバーして相手の攻撃を最終ライン前で潰せるカゼミロの存在は貴重だったのだ。
クロースの守備意識や技術も高くはなった。だが、この試合の中盤では、これまで通りのフィルター機能は維持できそうもない。
その対策として、ロペテギは前線のプレスを構築しようとしているようだ。
ロナウド在籍時は、彼の守備参加はないものとして計算されていた。
サイド起用時はスペースを埋めることが滅多になく守備が安定しないため、また得点に特化させる意味合いもあって彼をトップに置き、攻撃時の形から変形して4-4で守ることがこの数年の定番のやり方だった。
希代のゴールマシーンを生かすため、これは合理的な仕組みだったといえる。
そのロナウドが去ったことで、前線からの守備をさせやすくなっている。
この試合でも、ベイル、ベンゼマ、アセンシオがボールロストの直後にプレスをかけて、無理なボールを蹴らせることに何度も成功していた。
CLなどの重要な試合ではなく、バルセロナやアトレティコのようなクラブ相手でもないリーガの試合で、こうした積極的な守備が継続されるのは久しくなかったことだ。
中盤単体での守備力は下がっても、前線を含めたチーム全体でそれを補完できるようになれば、パサーを多く抱えるマドリーにとっては良い変化と言える。
51分の追加点の場面も、相手のスローインのボールに対しアセンシオが寄せたことから生まれたショートカウンターだった。
こうした守備が継続できれば、中盤の形の選択肢が広がるし、ポゼッション主体のプランも維持できるようになるだろう。
■別のプランを準備できるか
ひとまずこの形がロペテギのプランAだと仮定して、今後のポイントは、同等以上の相手に対するプランBが用意できるかどうかということになる。
かつてのバルセロナのようにポゼッションのみに振り切れるチームではないし、CLではこれまでのようなやり方が有効になる場面もしばしばあるだろう。
つまり、マドリーのプレスが剥がされるレベルの相手に対し、リトリートして4-4で守る守備組織の確保や、カゼミロが含まれる中盤を前提とした攻撃方法といったことだ。
ロペテギの哲学とは違うとしても、これまで積み上げてきたこれらの長所を保持し、必要に応じそれを応用した形を取ることができれば、シーズン終盤に向けて期待できるチームになるだろう。
上述したとおり、ポゼッション一本槍では、その道のトップであるバルセロナのプレーヤーを組み込んだ代表でさえ勝ち抜くことが難しくなっている。
この試合で見られた成果を評価しつつ、今後やり方の幅を持たせられるかどうかに注目していきたい。
哲学に殉ずるのではなく、勝つために必要なやり方でプレーして実際タイトルを取っていくのがマドリーらしい。
■最後に少し
次節はジローナとアウェイで対戦。
まだ移籍市場が開いている時期で、何らかの動きがあるかもしれない。25人が決まらないとやりづらいだろうが、うまくやり繰りしつつ、結果を繋げていきたい。
モドリッチやカゼミロなど、主力のコンディションが整ってくることにも期待。
彼らも万全な状態で、ロペテギがどういうチームを作っていくか、不安はありつつも、楽しみに見ていきたいと思っている。