しぶとい。
毎試合のように「ファイナル」と銘打ちつつ緩さも見えるチームだが、ここは落とせないという試合は確実に結果を得ている。
セビージャとの試合は、今の不安定なマドリーが勝つために必要なポイントが詰まった内容となった。
今回のメニューはこちら。
■マドリーの先発メンバー
GK:クルトワ
DF:ルーカス・バスケス、バラン、ナチョ、メンディ
MF:カゼミロ;モドリッチ、クロース
66分:ロドリゴ→アセンシオ
中盤はベストメンバー。エストレーモはブラジルの若手が揃い踏みとなった。
■セビージャの先発メンバー
GK:ブヌ
DF:ヘスス・ナバス、クンデ、ジエゴ・カルロス、アレイシ・ビダル
FW:オカンポス、デヨング、ムニル
46分:ムニル→オリベル・トーレス、64分:ジョルダン→グデリ、デヨング→スソ、ラキティッチ→エンネシリ、80分:ジエゴ・カルロス→イドリシ
ロペテギ体制でCL圏を見据えている。
マドリーとは違い、ロペテギも落ち着いてやれているよう。
守備が前提
今のマドリーは点が取れない。試合を考える上では、これを出発点とする必要がある。
だから先に失点してしまったら、相手の思うつぼだ。
リーガ中堅クラスが相手でも、ブロックを打ち破れずカウンターで失点を重ねる悪循環に簡単に陥ってしまう。
守りを固めた上で少ないチャンスを生かして先制、逃げ切るほかないのである。
この試合では、前提となるこの守備の破綻がなかった。
クロースが出ていってベンゼマと2トップの形となり、相手ボールに制限をかける形で守備をスタート。
バルベルデがおらず奪いに行く圧力は出せないので、無理のない範囲で制限をかけていた。
最初の守備が外された後は、サイドに展開されるボールに対し丁寧なケア。
バスケスとメンディが的確にプレーできており、両セントラルのサポートも良かったことから、セビージャは楽にボールを入れられず。
オカンポスやムニルに仕事をさせず、デヨングに良いボールを受けさせなかった。
デヨングに合わせられる機会が増えると怖かったが、その前の段階でセビージャの攻撃を抑えることができていた。
マドリーがボールを持たされるのではなく、セビージャがボール保持を厭わないクラブだったこともいい影響をもたらしたかもしれない。
速い展開でサイドを使われ、セントラルが引っ張り出されてデヨングとサイドバックが競らざるを得ない場面を作られるとまずいのだが、セビージャはそこまで速いテンポを求めているようではなかった。
ポゼッションを大事にするロペテギのチームとの相性が良かったと言えるのではないだろうか。
マドリーが変わったことをするわけではない。
サイドを破られない、相手の展開に応じてスライドする、といった必要なプレーを確実に行うことで、試合の流れをセビージャに握らせなかったのだった。
エリア内に入るのは誰?
さて、こうした守備を土台として、先に点を取るためにどうするか。
まずは得点が期待できる位置にプレーヤーがいる必要があるが、エリア内がベンゼマ1枚では心もとない。
さらにベンゼマがサイドに出たり中盤に下りたりするので、空いたところを誰が使うのかという問題もある。
これはロナウド以後ずっと抱えてきた問題で、昨シーズンになってようやく、バルベルデが中盤から飛び出してくれることである程度の改善を見たのだった。
そのバルベルデを欠いている今は2つの選択肢がある。
1つは、そもそもの形を2トップに変えてしまうことで、エリア内の枚数を確保するやり方だ。
ベンゼマが動き回っても、これなら1枚は中央にいる。誰もおらずボールも入れられないといった事態は避けられる。
ただ、ジダンはベンゼマ以外のセンタフォワードを信頼していない。
マリアーノはベンゼマに問題がなければ出番がなく、ヨビッチの序列はさらにその下。かつ負傷も続いていて、モチベーションも怪しいときている。
彼らを今から計算に組み込めるかというと、控えめに言っても非常に難しい。
また、4-4-2にした時の守備のバランスにも不安がある。
カゼミロは不可欠とはいえ、ドブレピボーテで役割分担が得意なタイプではないし、両サイドとも守備参加の計算ができないプレーヤーが多い。
バスケスはサイドバックにコンバート中で中盤では使えないし、ビニシウスとロドリゴが多少やれる程度。それ以外の守備参加はかなり怪しい。
4-1-2-3なら最悪でも7枚で守れていたのに、4-4-2にして4-2の6枚で守らなければならなくなったら意味がない。
6枚での守備が続けば、ある程度のレベル相手なら早晩破綻する。失点が増えて、結局勝ちにはつながらなくなってしまうのだ。
2つ目の選択肢は、バルベルデのように誰かがエリア内に入ってくる機会を増やすこと。
現状のシステムの中でやり方を変える方が、システム変更よりずっとハードルが低く手軽だ。
それでも、これまではなかなかそうしたプレーが増えてこなかった。
ビニシウスは、得意な左であっても大外からのドリブルでプレーを始めないと攻撃に関与しづらい。
今シーズンの最初期、サイドバックとの関係を作りながら中央に進出していて期待できそうだったアセンシオは、その後鳴かず飛ばず。
自分のところで変化がつけられない凡庸なプレーに終始している。
ゴールに直結するプレーができるという点においてアザールは抜けていたが、いかんせん負傷がち。
ロドリゴも入り込むプレーはビニシウスより良いのだが、それ以外の面で信頼がまだなく序列が低い。継続的に先発するほどにはなっていない。
誰かが変われば。
そう期待しつつも、変化が起きないままに時間が過ぎているのだ。
ビニシウスはきっかけを掴むか
この試合唯一のゴールは、ブヌのオウンゴール。
だが、このゴールはビニシウスがエリア内に入っていったからこそ生まれたもの。
パス交換からそのまま出ていって良い位置に入り込んだことで、相手のミスを誘った。
一番外でボールを待って受けるだけではなく、こうしたプレーができれば、彼の存在感はかなり変わる。
いかにシュートが下手でも、ワンタッチゴールができる位置にいればそれなりの数字は残せるだろうし、守備側もこうした位置のプレーヤーを無視はできない。
ブロックの外側のプレーでは守備バランスは崩れないが、エリアに入っていくことで守備が混乱しうる。
味方がフリーになれる影響も出てくるだろう。
ドリブルだけの対応で良く、サイドバックがスピード勝負でやられなければ試合から消せてしまうプレーヤーとは全く違う存在になれるのだ。
ベンゼマが9.5番としてお膳立てしてくれるのだから、これを生かさない手はない。
こうしてエリア内に入るプレーを増やしていければ、個人だけでなくチームが生まれ変わる可能性がある。
ゴールそのものは美しくなかったが、関係ない。
そういう位置にいてプレーしたことを誇るべきだ。ゴールに関与しない滑らかなプレーより、ゴールに関与した泥臭いプレーを評価したい。
ビニシウスがようやくきっかけをモノにするかどうか。
この試合で可能性は示した。あとは続けられるかどうかだ。
最後に
このように、マドリーは相手のレベルに関わらず、まずは失点しないことが前提。
その上で、攻撃の場面でベンゼマ以外にエリア内に人を入れること。
この2点が揃えば、ある程度まではやれる。
メンバーに不安はあるが、このポイントを外さないよう続けていくことで、生き延びられるだろう。
がけっぷちのCLは、セルヒオ・ラモスの復帰が見込まれる。
守備の安定感は増すだろうから、それと合わせた攻撃面での改善を見たい。