まさかの3バック。システム変更で良いところが出て快勝した。
今回は最初にウエスカ戦について簡単に触れつつ、システム変更によるポイントを整理したい。
■マドリーの先発メンバー
GK:クルトワ
DF:ナチョ、バラン、メンディ
FW:ベンゼマ、ビニシウス
55分:マルビン→アリーバス、76分:アセンシオ→イスコ、86分:マルセロ→チュスト
メンディが3バックの左。マルビンが右のウイングバック、左はマルセロ。
アセンシオがメディアプンタとなった。
■ヘタフェの先発メンバー
GK:ソリア
DF:ダミアン、カバコ、チャクラ、マティアス・オリベイラ
MF:アランバーリ、マクシモビッチ;ククレジャ、ポルティージョ
54分:クチョ・エルナンデス→ハイメ・マタ、ポルティージョ→アレニャー、アンヘル→久保、73分:ククレジャ→エレス・ウナル、カバコ→ティモール
ウエスカ戦振り返り
70%近いボール支配率を維持したが、最近の傾向通り「持たされる」試合となった。
残留争い真っ只中とはいえ、ウエスカの守備ブロックはきちんと形成されていた。
9人で受け止めてサイドでやらせないことを徹底しており、マドリーはサイドチェンジでずれが生まれるのを待つしかなかった。
ウエスカが良かったのは、この守備から得点を生み出すチャンスを作れる前線があったこと。
実際の得点は中盤のガランだったが、ターゲットになれるラファ・ミルと1.5列目で動き回る岡崎の組み合わせは良かった。
前半をスコアレスで終えられたことで自信を持って後半に臨み、点を取りに行った時間帯で実際に得点できた試合運びは見事だった。
サイドチェンジを多用してもサイドの圧力が弱く、やり直しを続けるほかなかったのがマドリーの問題。
そうしていると、当然ベンゼマもサイドへ顔を出してくることになり、終着点を失うことに。サイド攻撃の展望がなくなるおなじみの流れであった。
そうしているうちに失点してしまい、慌てたこともあるのだろうが今度は中央での形に偏ることに。個人の質で押し切れるかもしれないが、博打のようなもので、状況としては悪い。
下位のクラブにやられる典型的な流れだったといえるだろう。
ここで救われたのはセットプレーのおかげ。
ウエスカのファールがかさんできたことで得たセットプレーの機会を2度もものにできたことで、何とか逆転することができた。
危なければファールでも止めるようにしていたウエスカとしては仕方ない失点。ただ、1点ならまだしも、2点やられるのは勿体なかった。
セルヒオ・ラモス不在の今、カゼミロとバランがメインターゲットとなっているが、彼らの存在感は大きい。これまでも流れを無視したゴラッソを決めてきているカゼミロは、昨シーズンあたりから必要な時に出てきてくれるようになってきている。いるべき位置に入り込んでいるから、セットプレー時もよく関与できるのだろうと思われる。
3-4-1-2で得られたメリット
さて、ヘタフェ戦。
ジダンはがらりとシステムを変更、3-4-1-2の形となった。
これまでの試合でも見られたことだが、ウエスカ戦のサイドの非力さは攻撃全体のレベルダウンの大きな要因となっていた。
サイドチェンジしても早いタイミングで勝負できず、守備ブロックの内側に入っていけない。延々とやり直すしかなかったのである。
3-4-1-2にしたことで、この課題についていくつかの点で改善が見られた。
サイドチェンジを多用せずに攻め切る
セルヒオ・ラモスに加えクロースが不在だったことで、普段のようなサイドチェンジは見られなかった。
やり直すといえばまだ良いが、ウエスカ戦のようにサイドで勝負できないので戻さざるを得ないといったような展開は避けたいところ。
形を変えたことによって個人の質がサイド攻撃に強みをもたらしたことで、最近のサイド攻撃とは違い、やりきれる場面が見られたことは良かった。
序盤に何度か見られたように、守備をセットする時は両ウイングバックが最終ラインに入って5枚となる。
これが常態化してしまうと単に逼塞することになりかねない。そうならないよう、押し上げてウイングバックが攻撃に関われる形を維持した3バックのプレーによって、サイド攻撃が下支えされていたのである。
その点で、メンディとナチョの仕事は見事だった。
守備はもちろんのこと、ボールを持った時でも、ヘタフェの2トップに対し3対2になる優位を生かし、うまく運んでいた。
そのことでウイングバックは低い位置のサポートに意識を多く割かなくても良くなり、中盤より前でのプレーを続けることができたのだった。
ウイングバックのマルセロとマルビン
ウイングバックとして躍動したマルセロ。彼の存在を攻撃でのメリットとして享受できるのは久しぶりのことである。
前述の通り、5バックになる原則は変わりなく、守備負担が全くなかったわけではない。
だが、昨今改めて指摘されてきたような守備の軽さは、マルセロが1枚で守らざるを得ないことから起きていることでもある。
常にメンディがカバーに入れるようポジション取りできるこの形であったことで、そうしたリスクは低く抑えられていた。
メンディの下支えがあったことにより、ウイングバックとしてならマルセロは左サイドに固定されず自由に動ける。ポジションと味方の配置によってボールに関与して攻撃を前に進めた彼の良さが良く発揮された。
彼ほどではもちろんないが、右のマルビンも十分な働き。
システムが違い、チーム全体としても難しい試合であったが、落ち着いてプレーしていたことが素晴らしい。
もう少し守備的なプレーヤーなのかと思っていたが、出ていくタイミングが良く、驚いた。よくボールを預けてもらえていた印象である。
狭いところでのボールの扱いもまずまずなので、出しても片道切符にならないと味方にも認識してもらえたよう。
今後バスケスのような存在になれる可能性は感じられた。
メディアプンタのアセンシオ
メディアプンタとして先発したアセンシオは中央でよく攻撃に関わった。
サイドだと消えてしまう時間や試合もあるところ、中央で受け手としても出し手としてもプレー機会を多く得ることができていた。
普段であればベンゼマがサイドに出て行って中央が不在となるような場面でも、アセンシオが横に動くことでベンゼマがとどまることができる余地が生まれる。
ビニシウスが比較的自由に動き回っていたので、1トップに近い形ではあったが、アセンシオがいることによってボールの終着地点である中央が不在となることが避けられていたのである。
この形であれば、エーデゴーアやイスコもあてはめられるかもしれない。
ビニシウス
ベンゼマのゴールをアシストしたビニシウスは、・・・の交代により右ウイングバックとしてプレーすることになった。
これが意外と良かった。
前にスペースが広くできるウイングバックは、縦に抜けたい彼にとって都合が良く、普段よりストレスなくプレーできていたように見える。
サイドに出ていくことが多くゴール前での仕事を増やせないタイプの彼にとっては、2トップとして前にいても得るものが少ないかもしれない。
前線にいるのであれば、逆サイドのボールに対し中央でゴールを狙える位置に入り込めるよう移動してほしいと思っているが、長らくそうしたプレーが定着していないのが現状である。
サイドでプレッシャーが少なく、縦へプレーしやすいこのポジションは彼にとってプレーしやすい位置なのかもしれない。
ヘタフェの失敗も
ここまでマドリーのシステム変更で得られた利点について述べてきたが、ヘタフェの出方がマドリーを助けたのも確かである。
例えば、ボールを持った時にじっくり攻められていれば、マドリーの両ウイングバックを最終ラインに飲み込ませることができていたかもしれない。
そうしていれば、マルセロが苦しむ展開となっていた可能性はある。
守ることはできても、攻撃に繋げる守備ができない形だったマドリーは、押し込まれてリズムを崩すことは十分にありうるのだ。
ヘタフェは、久保やアレニャを加えて、ボールを持ってのプレーの改善に進もうとしているようであるが、マドリーを普通に受け止めようとしてしまうことを見ると、まだまだ発展途上ということなのだろうと思われる。
また、かといってハードな守備を徹底するわけでもなかった。
中盤より前で激しく寄せ、ファールも込みで相手の流れを寸断する守備は、ポゼッションが前提のクラブほど苦しめられてきた。
今回は天候も悪かったのでボールを持つ側にとって簡単な状況ではなかった。その中で何度も試合が止まると、精神的にも辛くなってくるもの。
そうやって優位に立つような狡猾さもヘタフェにはなく、2トップと3バック、中盤4枚とマドリーの5枚という数的優位をそのまま生かせることになったのだった。
後半の早い段階で久保とアレニャを入れ転換を図っていたものの、総じてこのように中途半端な形であったことで、マドリーは救われた。
今後の展望は
相手の出方に助けられたとはいえ、このように配置転換により良い点が見られた3-4-1-2ではあるが、今後も継続して使われるかというとそうではない。
オプションか緊急時の対処以上のものにはならないだろう。
最も大きなポイントは、主力組が帰ってきた場合、彼らは4バックでこそ生きる面々であるという点である。
セルヒオ・ラモスはセントラル2枚で役割分担した方が良いし、加えてカルバハルも帰ってくれば、4バックの方がバランスが良い。
出場停止だったクロースも、この形に組み込むのはなかなか難しいのではないだろうか。
現有戦力では、モドリッチかバルベルデとカゼミロという組み合わせしかないように考えられ、少しいびつである。
また、この試合ではうまくいったものの、マルセロとマルビンが押し込まれたら、守備の不安はやはり出てくる。
前述の通り、このメンバーでの3バックは攻撃に出ることによって利点が得られる。強いチームであれば当然そうならないように対処してくるだろうし、CLレベルで考えれば、普通にやってもここまでボールは持てない。
それに応じて修正するくらいであれば、普段の4バックで守備が計算できるメンバーを並べた方がまだ良い。
長所を生かすという意味では、現状において他のクラブに地力で対抗できる一番のユニットである、中盤の良さを最大化できるよう考えるべきだ。
そのためには、4バックと中盤主力組の組み合わせで臨む方が良く、その形の中で問題を解決していくべきであろう。
今から中盤の主力組をも解体するということは、ほぼ終わっている今シーズンを完全に終わらせることを意味する。
マドリーのようなクラブでは、いかに難しかろうと結果が出る前にシーズンを捨てる選択はできない。事実上タイトルの可能性がないのだからと、結果を度外視してあからさまな実験を繰り返すことは、タイトルを狙うクラブの立場そのものを自ら放棄することにも繋がるし、そのように見られながら運営することはできないだろう。
それはフロントであっても現場であっても同じである。
緊急の対応としてうまくいったことを評価するのはもちろん必要である。
戦術の幅がないといわれつつ、苦しい時にこういう大胆なことができるのも、ジダンの強みなのだろう。
ただ、ワンポイントで成功したことと、これを今後も使うべきかどうかは別の問題。
難しい時期を過ごしているが、奇抜な解決策を求めすぎることなくやっていってほしい。
最後に
そろそろCLも近づいてきた。
負傷者がいないのは仕方ないので、使えるメンバーで良い組み合わせを見つけてほしいところ。
主力以外のプレーヤーにとっては大きなチャンスを掴む機会である。
おとなしいプレーよりも特長を出したプレーでチームに貢献してほしい。
今節はバレンシアと対戦。
誰がヒーローになってくれるだろうか。