予想をはるかに上回る内容だった。
最近結果はついてきていたものの、これほどまでにやれると思っていたマドリディスタはそう多くはいないはずだ。
今回はこんなメニューで振り返る。
■マドリーの先発メンバー
GK:クルトワ
DF:ルーカス・バスケス、ミリタン、ナチョ、メンディ
MF:カゼミロ;モドリッチ、クロース
FW:アセンシオ、ベンゼマ、ビニシウス
70分:アセンシオ→バルベルデ、85分:ビニシウス→ロドリゴ
3バックと予想していたが、スタンダードな4-1-2-3の形だった。
よってマルセロの先発はなく、両翼は調子が良い2名を順当に選出。
■リバプールの先発メンバー
GK:アリソン
DF:アレクサンダー・アーノルド、フィリップス、カバク、ロバートソン
MF:ファビーニョ;ケイタ、ワイナルドゥム
FW:サラー、ジョタ、マネ
42分:ケイタ→チアゴ・アルカンタラ、81分:ジョタ→シャキリ、カバク→フィルミーノ
ファン・ダイク、ゴメスと、マドリー同様最終ラインの中核を欠いての布陣。
4バックのわけと配置
マドリーが3バックではなかったのは、リバプールが3トップなので一枚余らせたいという意図と、センターバック間にクロースが下りてくる形を明確にしたかったという意図がまず思いつく。
週末のエイバル戦ではマルセロとイスコがいる左サイドで組み立てができていたが、マルセロを入れての配置で守備の負担に耐えられるか、確信が持てなかったのかもしれない。
推測を重ねることになるが、リバプールがクルトワの利き足である左側を切ってくるので、プレスがかかった時に無理なプレーにならないよう、左サイドで組み立てる形を取らなかったとも考えられる。
いずれにせよ、ボール保持時はセンターバックとクロースが後ろで控え、両サイドバックとモドリッチがその前で関わるのがマドリーの形となった。
リバプールはケイタを先発起用し、前から圧力をかけたいという構え。
これがもともとのスタイルではあるだろうが、ファン・ダイクらを欠いた最終ラインの負担を減らしたいという意図もあっただろうか。
ところが、両センターバックとクロースのパス供給にも、両サイドバックとモドリッチの関与にもミスが出なかった。
特筆すべきはミリタンだ。急きょ出場することになったにも関わらず、左を切られるクルトワからのパスを深い位置で多く受ける難しい役割をスムーズにこなしていた。
ナチョのプレーに不安がないのはいつものこと。クロースも同じくいつものように、何事もないかのごとくボールを動かした。
彼らからのボールを受ける両サイドバックとモドリッチは危険なボールロストをせず、素晴らしいコントロールでボールを前に進める役割を担った。
狭い局面ではプレスが成功して奪われそうな雰囲気になるのに、サイドチェンジの精度が高いからボールを逃がせるし、受け手のタッチの質が高いから圧力がかかりづらいのだ。
10分のプレーに象徴されるように、最後方で苦しいパス回しになっているように見えて、ワンタッチで簡単にはがしてアタッキングサードまで進出することができる。
こうしたプレーをすることで、思惑通りに守備がはまらないことを早い段階で認識させ、前に出ていきづらい心理にすることができたと思われる。
さらに、左サイドの前方にはビニシウスが控えていて、裏を狙っている。
彼の存在で、前線のプレスを助けられるライン取りをすればいいという状況ではなくなった。
対面するアレクサンダー・アーノルドはもちろん最終ライン全体としても、ラインを上げることに神経を使わせる役割を担ったのである。
両チームの差とは
マドリーの守備は、前で取りたいという雰囲気ではなかった。
取れればそれに越したことはないが、主眼はマネ、サラーへのボール供給の寸断である。特に両サイドバックと彼らの関係を断つことに留意しているようだった。
制限をかける寄せ方をして、外されたら4-1-4でのブロック形成に移る、4バック時にはお馴染みのやりかたである。
もちろんリーガに比べれば強度の違いはある。
それでも、後方で組み立てができているという状況もあり、リバプールほど速い展開を望んでいないことははっきりと見て取れた。
ところが、リバプールの組み立ては覚束なかった。
マドリーとの差が際立ったのはボールを逃がすサイドチェンジの精度で、クロースを筆頭にサイドチェンジでキックミスするプレーヤーがほとんどいなかったマドリーに対し、10分までに早くも2回ミスがあって、サイドラインを割っている。
ボールが通ってもトラップが難しいもので、タッチが乱れるというシーンは試合を通してしばしば見られた。
マドリーの中では足元の技術がある方ではないルーカス・バスケスやカゼミロでもサイドチェンジを通していたのと比べると、その差はよくわかる。
双方とも主力センターバックを欠いた状態で見えたのは、後方の本来業務である守備の能力ではなく、組み立て時のプレー精度やボールを供給する能力だったのである。
優位を生かして得点
優位に立ったこの点を生かし、マドリーは2点リードに成功する。
27分、クロースからのロングボールに合わせてビニシウスが抜け出し先制。パス、動き出しのタイミング、ファーストタッチ、シュートと、2人のプレーは非の打ち所がないものだった。
出し手のクロースは、最初にボールを受けた時点ではケイタに見られていたが、その後ボールを動かして受け直した時には、ケイタは寄せるのを諦めて戻りかけており、完全にフリーになっていた。
リバプールの守備が思惑通りとならず、人数をかけて寄せられない心理となっていたことが伺える。
更に36分。
またしてもクロースから左サイドに開いていたビニシウスへのボール。
パス自体は通らなかったが、カットしたアレクサンダー・アーノルドが内側に戻すパスをミス。並走していたアセンシオがプレゼントを貰ってアリソンをかわし、無人のゴールに蹴りこんだ。
結末は違うが、後方で自由を得て長いボールでビニシウスを使う意図は共通している。
リバプールの狙いを外す布陣が奏功しての2ゴールだった。
アウェイゴールで攻め合いに
2点リードを得ての後半立ち上がりは、少し前からの圧力を高めて臨んだ。
消極的にならないよう、最初に厳しくいく姿勢を出しておくこと自体は間違いではない。
しかし、深追いせずブロック形成に移行する諦めのタイミングが良かった前半に比べ、失点の場面では少し無理したことで綻びが生まれてしまった。
サイドに出てきたワイナルドゥムにサラーとの関係を作られ、スペースを与えての攻撃を許してしまったのである。
守備の狙いがうまくいかなかったこと、それによりショートカウンターよりポゼッションでの攻撃の成立を目指さざるを得なくなったことを受け入れ、それにシフトする手であった。
彼個人で決定機を作るまでには至らなかったが、中盤でのボール捌きをスムーズにするプレーはさすがで、彼が中央にいることによりワイナルドゥムがサイドで動き回る役割を担えた。
ただ、マドリーの組み立てを阻害できる守備は実現せず、かえって裏が空くことが多くなった。結果として、ボールを持って攻めるリバプールと裏狙いのマドリーが攻めあう格好となったのだった。
65分のビニシウスのゴールは、コーナーからカウンターを狙った攻めを防がれて得たスローインからのものだったし、それ以外にもリバプールの守備陣に戻りながらの守備を強いていた。
最後の局面でのプレーに精度があればもう1,2点とれていたかもしれない。
66分のプレーで見られたように、アセンシオはシュートできる場面でもより確率の高い味方に預けようとするプレーを選択できていた。周囲が見えるほどには調子が良いのだろう。
ただ、ビニシウスのゴールの直前のカウンターの場面から連続して利き足ではない右足でシュートする決断にはならなかったとも言える。次に目指すのはその段階だ。
右足でのゴールといえば、‘16~’17シーズンのCL準々決勝第2戦、バイエルン戦での4点目を思い出すマドリディスタは多いのではないだろうか。
あの場面では左にロナウドが走っていたが、右へ右へと持ち出して右足で蹴りこんでいる。あの時のようなことが続けてできれば、彼の良さはもっと出るようになる。
ゴールを決められるようになったからこそ、もう一歩先、数年前に届きかけたレベルに再び手を伸ばしてほしいと思うのだ。
守り切ったという成果
マドリーの交代は、アセンシオに替えてバルベルデとビニシウスに替えてロドリゴの2つのみ。
やり方は変えず、守備強度を改善しようというもので、すでにアウェイゴールを与えている状況を考えると妥当な選択だ。
また、この路線を変えずにいくとなれば、他に使える控えを見付けるのは難しい。これ以上交代策がなかったことも納得できる。
70分過ぎからはリバプールの攻めを受けることが多くなった。
ベンゼマに収められるボールや、裏を狙うボールを蹴ることが難しくなっていたことから、狙い通りリトリートしたというよりは、疲労もあって出ていけなくなったという方が正しいように見受けられた。
シャキリ、フィルミーノを投入してのリバプールの攻撃を受け続けることになって、ラインを上げられず怖い時間帯だったのは確か。
しかし、結果論ではあるが2点目を失わなかったことで、この時間帯を2戦目の良いレッスンと捉えることができるようになった。
チアゴを擁してポゼッションするリバプールの攻撃も、4-1-4-1でライン間を狭くしているマドリーに対しては、サイドに振ってクロスというオーソドックスなやり方になっていて、きちんとポジションを取っていれば崩されるイメージはなかった。
クロスに対してはミリタンとナチョを中心として対応できるという手ごたえを得られたのである。
リードを得て臨める第2戦に向けて、これはとても大きな成果だ。
クロップも、前からの守備とショートカウンターを第一とせず、ポゼッションしての攻撃にも目を配るだろうから全く同じようにやれるとも思ってはいない。
しかしながら、裏を取るビニシウスの脅威を見せ続ければ、その危険を放置して攻めることはできない。放置するなら前半のようにプレーすればいいし、その土台としてこの最後の時間帯のように守れることを示したとは言えるのではないだろうか。
最後に
結果もそうだが、内容としても第2戦に向けて優位に立てるものとなった。
リバプールが前に出ることに注力するならビニシウスが裏を取れるし、そうでないなら後方でしっかりボールを持てばいい。
やり方もそうだが、どちらも第1戦の実際のプレーの中で相手を上回れていたことから、プレーヤー心理としてもマドリーはやりやすい。
クロップが持てる選択肢が少なく、ジダンは後出しジャンケンで対応できる可能性が高まったと言えよう。
週末はバルセロナと対戦。
この試合の終盤で見られた疲労からどこまで回復しているか。特に替えが利かない面々の状態が気になるところだ。
リーガもアトレティコの失速で可能性が出てきているとはいえ、無理して負傷が重なるようなリスクは避けていってほしい。