優勝は逃したものの、最後を勝利で終えた。
最後までタイトルを争えたことを財産としていければ、大変なシーズンも少しは報われよう。
■マドリーの先発メンバー
GK:クルトワ
DF:オドリオソラ、ミリタン、バラン、ミゲル
FW:アセンシオ、ベンゼマ、ビニシウス
56分:アセンシオ→イスコ、ビニシウス→ロドリゴ、68分:カゼミロ→マリアーノ、ミゲル→マルセロ、オドリオソラ→ナチョ
バランが先発に復帰。アセンシオとビニシウスの両翼となった。
■ビジャレアルの先発メンバー
GK:ルジ
MF:カプエ、パレホ;トリゲロス、ジェレミ
FW:ジェラール・モレーノ、バッカ
66分:バッカ→コクラン、カプエ→ルベン・ペーニャ、81分:ジェレミ→ラバ、ジェラール・モレーノ→パコ・アルカセル、86分:トリゲロス→モイ・ゴメス
ビジャレアルはEL決勝を控えつつ、リーガの順位も気になる状況であった。
マドリーに合わない前から行く形
優勝のために勝つしかないマドリーは序盤から強度を高めようという姿勢。主導権を握るべく前から守備に出て行こうとしていた。
しかし、ビジャレアルの組み立ての方が一枚上手。
もともとショートパスをつなげるクラブではあるが、この試合でも預けて受け直す動きを繰り返すことでプレスを容易に回避していた。
さらにパレホを筆頭として、2トップへの縦パスの意識、精度が高い。ボールを動かす過程で縦に入れられる機会があるときは、スムーズにボールを供給。
序盤から最終ラインが裸でさらされる場面が相次ぎ、マドリーの出方がビジャレアルを利したことが見て取れた。
マドリーはテンションの振れ幅が大きいクラブだ。
リーガで格下を相手に緩んだプレーをしてやられることが毎シーズン何試合かある一方、ここぞという試合では想像を超えるプレーを実現するのである。
この試合はまさに後者であった。そういうテンションで試合に入っていったことは良く分かった。
問題は、そうしたテンションをどうプレーに反映させるかだ。
相手に出てきてもらって背後を狙うリアクションが得意な今のマドリーにとって、この試合のようにプレスを仕掛けて自ら勝負するポイントを作ることは難しい。
CLで敗退したチェルシーとの第2戦でも、勝利が必要な状況で出て行ってカンテらにやられている。
同じようなやり方でうまくいっていないことを認識するべきだ。
勝ち上がったリバプールとの試合ではリバプールに出てきてもらって優位に立ったが、この試合のマドリーのプレーに強度がなかったわけではない。方向性の問題である。
自分たちが得意な場所から離れた場所で戦うのではなく、得意な場所に相手を招き入れるが巧妙さが求められるのだ。
そうした巧妙さを欠いて愚直にやり続けた結果、前線に近いプレーヤーは追い回す一方、後方は縦にパスが入ってくるのでラインを高くできない、悪い状況に。
カゼミロの周辺や、彼がカバーに出て行った後のスペース、サイドバック裏など、ビジャレアルにとって狙えるポイントは多く、良い選択をしながら攻撃を進められることになった。
象徴的停滞
ボール回収の位置が低くても、バルベルデ、ビニシウスが走れるスペースを得てカウンターとなれば帳尻はあるとの考えもあったかもしれないが、20分に先制を許したことで、ビジャレアルは無理せずともよくなった。
そうなると陣形が整うのは早い。ポゼッションが入れ替わっても、ビジャレアルに4-4-2でブロックを作られる方が早かった。
結果、サイド攻撃は停滞。
クロースがおらず、前節同様サイドチェンジも多くなく、同サイドの狭いスペースでプレーを継続する傾向が強かったこともあり、苦しい攻めに。
こうなった時に、エストレーモが大外のポジションから基本的に動かない今シーズンのマドリーのやり方で打開するのは非常に難しい。
内側の位置をサイドバックが使うこととなるが、固定化されていると受けるのが容易であることが一つの理由。
また、サイドバックでは縦には行けても、さらに内側へポジションを崩してのプレーは難易度が高い。さらに言えば、守備のデメリットもあり、頻繁にそうしたプレーを選択することはできないだろう。
その他に、負傷が続出したことでサイドバックの戦力が不安定だったことも影響した。
特に右サイドバックは、コンバートが成功したルーカス・バスケスの負傷以降、固定化できずに終わった。
最終盤になってから出場機会が連続したオドリオソラがようやく馴染んできたものの、厳しく言えばそれ以上のものではない。
左もミゲルが幸いにも戦力になりそうであるけれども、いきなり彼に任せるのは酷だ。
3-4-3が本格運用されるようになったのも、サイドバックがいないことが発端であったことを思い起こせば、このような状況だったポジションにあれこれやってもらおうというのは無理である。
この試合で見られた停滞は、今シーズンのチーム状態を象徴するものであったと言えるだろう。
ベテラン勢の強さ、最後まで
後半に入ると、脅威を受け続けていたビジャレアルの攻撃のテンポが遅くなった。
スタミナの問題なのか意図的なペースダウンなのかはわからないが、前半のように縦パスのチャンスがあれば入れていくのではなく、無理そうならリスクは負わない選択をすることが増えていった。
ビハインドを負って攻めるしかないマドリーは、後半の早い時間帯からマルセロ、イスコ、マリアーノと普段は短い時間しか使われないプレーヤーを投入する緊急時の対応。
バランスを崩してでもやる方針となって、時間経過とともに行ったり来たりする展開となった。
こうしてドタバタした試合で存在感を放ったのはベテラン勢。
ベンゼマがヘディングシュートを決めるも、VARでオフサイドと判定された場面でボールを供給したのはカゼミロで、結局ゴールを挙げたのもベンゼマとモドリッチだった。
ビニシウスとアセンシオの両翼は、前述の通りチームの仕組みの問題から輝ける場面こそ少なかったわけだが、その範囲においては役割をこなしていたし、ミゲルは悪い意味で目立つことなく、以前からトップチームにいたかのような落ち着いたプレーだった。
途中出場したロドリゴも良い場面を作れていて、特に悪いプレー内容だったわけではない。
それでも数字に残る結果を出したのがベテラン勢であったという事実は重い。
ゴールやアシストの場面にいることにはもちろん運もあるのだが、その運を引き寄せられるプレーが彼らをトップたらしめている。
若いプレーヤーが良いプレーをできるのはわかる。
だが、それと数字が残せる(しかも何シーズンも継続的に)ということにはとても大きな差があって、その差を埋められるような実力と運を兼ね備えた挑戦者は、今のところ現れていないのだ。
来シーズンの挑戦者は、彼らをベンチに座らせることができるだろうか。
終わりに
アトレティコがバジャドリーに先制を許したものの後半に逆転し勝利したため、優勝はアトレティコに。
序盤の勢いはさすがに持続しなかったものの、苦しい時期を凌いで完走した印象であった。タイトルにふさわしいシーズンを過ごしたと思う。
マドリーがここまでやれるとは思わなかったので、2位で納得というより思ったよりも粘れたというのが率直なところ。
どのクラブもそうだろうが、疲労と負傷に対処するばかりのシーズンは辛い。
ユーロもあり、休みが取れないプレーヤーもいるが、少しでも回復して、次のシーズンを充実したものにしてほしいと強く思う。