ピッチ外で騒がしくなってしまったデルビー。盛り上がっているというポジティブな雰囲気にならなかったのは残念。
ベンゼマなしのマドリーにとって厳しいタイミングの試合になったが、ものともせずに連勝を伸ばした。
■マドリーの先発メンバー
GK:クルトワ
DF:カルバハル、ミリタン、アラバ、メンディ
MF:チュアメニ;モドリッチ、クロース
75分:メンディ→リュディガー、82分:モドリッチ→カマビンガ、86分:クロース→アセンシオ、ロドリゴ→セバージョス
ミリタンは間に合った。ベンゼマは前日練習に参加できず、無理をしない形となった。
■アトレティコの先発メンバー
GK:オブラク
DF:フェリペ、ヴィツェル、レイニウド
MF:マルコス・ジョレンテ、コケ、コンドグビア、デ・パウル、カラスコ
FW:ジョアン・フェリックス、グリースマン
62分:デ・パウル→モラタ、ジョアン・フェリックス→クーニャ、72分:カラスコ→エルモソ、73分:コケ→コレア、81分:コンドグビア→サウール
3-5-2の形。
ミッドウィークはレバークーゼンに敗れている。
アトレティコ、マドリーの土俵に
3バック。マドリーがあまり得意としていない形である。
一つ目の理由は、5バック化するとサイドチェンジしてもスライドの遅れでずれが生まれにくいから。
CMKやセルヒオ・ラモスがいて、彼やクロースからのサイドチェンジを多用していた頃から比べるとその傾向は弱まっているが、うまくサイドを塞がれると相手のブロックの周囲をボールが撫でるだけになってしまいがち。
そして5-3-2とか5-4-1になってブロックを作られてしまうと、強みであるサイドの縦への速さが生かせないという点がもう一つの理由だ。
ビニシウスやバルベルデの走力を最大限に活用したければ、相手に出てきてもらってその裏を使えるように仕向けるのが良い。そのための仕掛けとしての低い位置での繋ぎの精度が高まったことによって、昨シーズンはうまくいった試合がいくつもあった。
ただ、リーガではそれでも出てきてくれないクラブがあり、そういう相手に対しては格下であっても焦れる試合をせざるを得ない印象が強かった。
こうして考えると、アトレティコが3バックで取るべき方針、つまりマドリーが嫌だった試合展開は、5バックで下がってマドリーの攻めを鈍化させつつ、自分たちの走力を生かして速く攻め切る形であったはず。
ところが、アトレティコは序盤から前からのプレスを頑張ろうとしていた。
これはマドリーにとってはラッキーで、サイドに出してモドリッチが関与し逆サイドのセントラルにボールを戻すとか、サイドバックが前に出て内側を取るとかといったおなじみのプレーで局面を打開できる。
プレスからすぐに大きく逃げるのではなく、サイドの狭い位置にかなり引き込んでからボールを逃がすので、守備側は取れそうな錯覚に陥ってしまう。
この得意な形にアトレティコを引き込んで、良いスペースを得ることに成功していた。
速攻の形でこそ怖さがあったものの、ボールを持たせた時のアトレティコに危険な印象はなかったこともマドリーにとって幸運。
高さはないので、押し込んでもシンプルなクロスは選択肢にない。2トップを生かすためには手数をかける必要があるが、中盤の構成にそこまでの技術やアイデアがなかったようであった。
グリースマンが下りた時に変化をつけられそうな気配があったくらい。あとは速攻の形にならないようボールの失い方に留意すれば、大きな問題は少ないように見受けられた。
相変わらずの個人能力
今シーズンのマドリーが強いのは、パスワークだけでもハイレベルなのに、独力で剥がせてしまう両サイドがあるから。
パスの出しどころがないように見えても、バルベルデはするする抜け出ていくし、ビニシウスは僅かな隙間を使ってボールを戻し、一気に局面を変えてしまう。
マドリーの2点は、これがよく発揮されたゴールであった。
18分の先制点の場面では、バルベルデのドリブルによって大きく前進したところから。
ロドリゴとのワンツーは高い位置に入っていたチュアメニとで、彼のパス能力の高さによって、ロドリゴのゴラッソが決まった。
36分はビニシウスとモドリッチのワンツーから。
ビニシウスにパスが入った後のモドリッチのサポートが見事で、ドリブルが警戒されていたビニシウスの少し後ろにつき、ボールが逃げられるコースを作った。
ビニシウスのシュートはポストに当たったが、最後は逆サイドから詰めていたバルベルデが叩き込み、2-0に。
どちらもアトレティコが前に来ていたところで、アトレティコの姿勢にマドリーの特長がかみ合って生まれた得点。
裏を狙って走ってくれる若きブラジル人コンビの良さも光った。
ロドリゴがプランBへ
リードを得たことで、4-4とロドリゴかビニシウスが守備参加する形になったマドリー。
アトレティコがグリースマンの役割を一列下げ、ターゲットになれるモラタやクーニャを入れるまでは、マドリーはアトレティコにボールを持ってもらい、余裕のある守備で試合を進めることとなったのだった。
ここで注目すべきは、9番の位置に入ったロドリゴのプレースタイル。
ベンゼマとビニシウスであれば、楔を受けに下りてきて落とし、ビニシウスに中央を使って裏狙いしてもらうプレーがある。ベティス戦のゴールはまさにこの形であった。
ロドリゴはベンゼマほどポストプレーを狙わない代わりに、ビニシウスと入れ替わり立ち替わり裏を取ろうとしていて、ショートパスと見せつつ一発で裏へ蹴るボールでアトレティコにプレッシャーを与えていた。
確かに、シンプルなロングボールばかりだとリズムを失う危険性はある。この試合で見られた形は、リードしていたからこそできるものではあるだろう。
しかし、ビニシウスを低い位置に追いやるだけでは速攻の脅威を減じられないという点で、ロドリゴの存在は大きい。
得点の場面のように、アタッキングサードに入ってからも走ってくれると周囲も助かる。
ベンゼマと似たプレーで気が利くところを見せてくれてはいたアザールは、得点への関与が少ないことで単にベンゼマからスケールダウンした印象になってしまっていた。
ベンゼマの控え問題は、ロドリゴが違う形を提示しかつそれが機能するという結果も示したことによって、当面はロドリゴがプランBになると見て良いだろう。
2点はやらせない試合運び
先述の通りシメオネが交代によって先に形を変えた一方、アンチェロッティは先発でかなり粘った。
早めにモドリッチかクロースをカマビンガと替えるかと思っていたが、アンチェロッティとしてはベテラン2人で終盤までということだったのだろう。
ライプツィヒとの試合後の記者会見でアンチェロッティはカマビンガについて、「ポジショナルな時よりも試合が壊れた時に力が発揮される」と述べていた。
先発時の彼の課題と、途中交代時のメリットをうまく一言でまとめた発言であったと思う。
アンチェロッティが巧みなのは、このようなカマビンガとともにアセンシオやセバージョスを入れることでバランスを取るところだ。
技術もあるし判断も悪くないとはいえ、カマビンガだけでは過度に試合がスピードアップしてしまう恐れもあり、そうなると事故も発生し得る。
強度を上げつつ、試合展開の速さは自分たちの想定の範囲に留める調整ができるのが今の中盤の層の強み。
相手にしてみれば(毎試合1失点はしているけれども)2点はかなり遠いのではなかろうか。
この試合においては、繋ぎでの判断がやや怪しかったメンディを最初に下げてリュディガーを使い、アラバを左ラテラルに移せた。
最終ラインの選手層もいかし、2点は取られないだろうという試合運びで勝利を挙げた。
最後に
もうそろそろベンゼマが戻ってくるだろうから、ベンゼマの控え問題はひとまず沈静化するだろう。
バルベルデが右エストレーモで爆発しているので、ロドリゴの序列が下がるかと思われたが、チームにとっても非常に重要なポジションでチャンスを掴んだ。
アシストのチュアメニ、控えながらメンディが怖い時に下げられる選択肢を作れるリュディガーと、昨シーズンからの上積みが継続して見られているのもありがたい。
今週末は代表ウィーク。