スコアレスドロー。開幕戦としては5シーズンぶりだそうである。
■ポイント
ジダンは4-2-3-1を選択、エーデゴーアを抜擢した。
まずその狙いを考え、うまくいった点、ラ・レアルの守備によりマドリーの狙いが頓挫した点を確認する。
その後で、修正はしたものの形を変える選択をしなかった理由について考えてみたい。
■マドリーの先発メンバー
GK:クルトワ
DF:カルバハル、バラン、セルヒオ・ラモス、メンディ
MF:モドリッチ、クロース;ロドリゴ、エーデゴーア、ビニシウス
FW:ベンゼマ
69分:エーデゴーア→カゼミロ、ロドリゴ→マルビン、モドリッチ→バルベルデ、89分:ビニシウス→アリーバス
カゼミロがベンチで、エーデゴーアが先発。 いきなり予想外の形となった。
■レアル・ソシエダの先発メンバー
GK:レミロ
DF:ゴロサベル、ルノルマン、エルストンド、ムニョス
MF:メリーノ、ゲバラ;ポルトゥ、オヤルサバル、バレネチェア
FW:イサク
62分:イサク→シルバ、74分:オヤルサバル→ヤヌザイ、バレネチェア→バウティスタ、89分:ゲバラ→ウルコ・ゴンサレス
シルバと契約することに成功したラ・レアル。ELと並行し、昨シーズン6位の勢いを継続することが課題となりそう。
■4-2-3-1の良さと問題
ジダンは昨シーズンフル稼働したカゼミロをベンチに置いてのスタートを選択した。
コンディションに特別問題があったわけではないが、試合後は「今回限りの選択」という趣旨の発言があったことから、これが今シーズンの基本というわけではないのだろう。
それを踏まえつつ、中身を確認していきたい。
この形の長所は、クロースとモドリッチによる組み立ての安定化だ。
カゼミロが底にいる形よりも、彼らのどちらかが低い位置にスムーズに下りて、組み立てを助けることができる。
試合を通して危ない奪われ方はなく、これは想定通りにやれた点。
また、4-2-3-1の攻撃の狙いとして、メディアプンタ(トップ下)に入ったエーデゴーアがラ・レアルのライン間でボールを受けて守備を混乱させる必要があったが、これは機能せず。
狭いライン間で効果的な縦パスを受けられないので、2ラインの外でボールを触る回数が多くなっていた。
これでは、昨シーズンまでの4-1-2-3や4-4-2の形と変わらない。守備ブロックの外側でボールが左右に動いても、よほど速く動かさない限り守備のスライドは間に合うので、打開できないのだ。
エーデゴーアも下がると、ブロックの外側の人数は増えるので、余計にポゼッションは安定する。ただ、そこから危険なボールが入らないので、これは「持たされる」状態である。
サイドに振っては、ビニシウスとロドリゴが止まった状態からする勝負に勝つことに賭けることになっていた。
■ラ・レアルの守備
マドリーがこの状態になったのは、ラ・レアルの守備によるところが大きい。
全員自陣に下がることも受け入れて、フォワードがマドリーのボールの供給源であるモドリッチとクロースを見て、2ラインはスペースを与えない強度を保った。
奪ったら、高い位置を取っているマドリーのサイドバックの裏を狙っての速攻。
広いスペースをポルトゥ、オヤルサバル、イサクが使って、収まったらサポートが徹底されていた。
カゼミロがいないことで、マドリーの守備に不安はあった。
ただ、最初にサイドを使われても、その後の展開までには帰陣できていた。彼が不在の分、守備意識は高かったようである。
そうしたこともあってラ・レアルの枠内シュートは1。数字としては抑えたものとなっている。
だが、全体の流れとしては、ボールを持たされて打開策がないマドリーに対し、ラ・レアルが意思統一された速攻を時折繰り出せているという雰囲気だった。
マドリーが試合をコントロールしたとは言い難い。
■速い展開、とはならず
ジダンは、ビニシウスとロドリゴの単独の仕掛けを待っていることが多かった点を修正。
サイドバックが近い距離を取り、彼らの内側を縦に抜けたり、逆にサイドバックが一番外にいる時に両ウイングは斜めに走ったりして、裏を狙いつつ混乱をもたらそうとしていた。
これはある程度奏功した。
前半は一番外側で止まって仕掛けてばかりだった2人が、動きながら勝負できる場面が出てきて、エリアの幅くらいでプレーできるようになった。
特に左サイドのメンディの絡み方は良かった。
スピードがあることはわかっているので、それを餌にディフェンスを動かすことができる。
今シーズンは、マルセロとは違った形でビニシウスとの関係性を深めるシーズンとなることを期待したい。
ラ・レアルは62分からシルバを投入。
イサクを下げたことで縦への脅威は減り、逆にミドルサードでの攻撃の流れはスムーズになった。
後半、マドリーは前半同様の遅攻ではなく守備への切り替えで奪い返しての形を作っていたので、この交代には少し展開を落ち着かせる効果もあった。
このままバタバタした展開へと本格的に変わっていけば、ボールを持ち続けていても良い展開が見えてこなさそうだったマドリーには良かったが、そうはさせてくれなかった。
そこで、69分にエーデゴーア、モドリッチを下げてカゼミロ、バルベルデを投入。
既に1点勝負の試合となっていたので、まずは守備の引き締めを意図。
さらに、よりダイナミックに動ける2人を使うことで、攻守の入れ替わりが激しい展開を作りたいという考えもあったように考えられる。
ラ・レアルは2列目を中心に交代枠を使い、制御できるレベルで速攻を打てる展開の維持を図った。
マドリーはロドリゴ、ビニシウスをマルビン、アリーバスに代えたものの、このポジションから打開しようとする交代としては弱い。
現有戦力で先発の2人を超えられるインパクトがあるのは、アセンシオと(状態の良い)アザールくらいだ。ここを代えても効果は薄く、流れを加速させることはできなかった。
■ジダンの考え方を探る
ジダンは序列を重視する。
この試合をしゃにむに勝ちに行くならば、カンテラーノではなく、ヨビッチ、マジョラルといったあたりをさすがに使っていただろう。
その点については、システムを変更する考えがなかったと述べている。
これを聞くと、2トップへの移行などは考慮しなかったために、ポジションをそのままに置き換えられるプレーヤーが選ばれたと解釈できる。
そこから考えられることは、シーズン序盤の時期に新しい形の可能性や戦力を見極めようとする姿勢である。
ジダンはこれまでも、低調だった序盤を経てシーズン後半に飛躍するというマネージメントを行ってきた。
中断があった特殊なシーズンだったが、昨シーズンもそうだ。
CLグループステージ途中までは解任の可能性も報じられるほどの状態だったところから、中断明けにはヨーロッパ随一と言える堅守を作り上げて、リーガを制している。
エーデゴーアの抜擢、それに伴うシステムの変更、後半の流れを受けての修正。
これらを見ると、引き分けも覚悟した上でプランをやり通した試合だったと思われる。
勝てればもちろん良かったが、これはこれで一定の成果があったと捉えているのではないだろうか。
先を見据えるジダンのマネージメントが、シーズン最後に実を結んでくれれば言うことはない。
■最後に
若い2列目の3人には、まだまだチャンスが与えられるだろう。
今節はボールを持ちすぎで、スピードに乗って仕掛ける良さが出せなかった。彼らが生きる使い方を早いうちに見いだせれば。
次節もアウェイでベティスと対戦。