ジダン監督の初戦。ベルナベウが久々に希望のあるスタジアムになった。
■マドリーの先発メンバー
GK:ケイラー・ナバス
DF:カルバハル、ペペ、セルヒオ・ラモス、マルセロ
MF:モドリッチ、クロース;イスコ
46分:セルヒオ・ラモス→バラン、66分:イスコ→ハメス・ロドリゲス、74分:ベイル→へセ
カルバハルが負傷から復帰。イスコも久々の先発となった。
■デポルティーボの先発メンバー
GK:ルクス
DF:フアンフラン、シドネイ、アリーバス、フェルナンド・ナバーロ
MF:モスケラ、ベルガンティニョス;カルタビア、ルイス・アルベルト、ファジル
FW:ルーカス・ペレス
46分:カルタビア→ホナス・グティエレス、フェルナンド・ナバーロ→ルイジーニョ、ファジル→オリオール・リエラ
10位以内につけるデポルティーボ。ここまでアウェイ10試合での勝ち点14はなかなかの成績。
■モチベーション
ピッチに立ったプレーヤーの動きが良く、プレーに対する熱意が見て取れたことが一番の成果。
通常でも新たな監督には良いプレーを見せてポジションを確保したいと思うものだが、子どもの頃に見た世界最高のプレーヤーが監督としてベンチにいれば、その前で良いプレーをしたいとモチベーションが高まるのは当然だろう。
ベニテスが人身掌握できていなかったことが改めて明らかになったという点では残酷なもので、マドリーでは何か飛びぬけた実績がないと話を聞いてもらうこともなかなか難しいのではないかと思わせる変化だった。とはいえ、こうした変化は歓迎すべきもの。プレーヤーの上に立ってやりたいことを伝えうる人物が監督に就いたということは確認できた。
ただ、注意すべきなのは、これがいつまでも続くものではないということ。
監督の交代による強い効果は一過性のものであり、高い人気のある人物とはいえ、”ジダンフィーバー”がシーズン終わりまで続くなどとは考えられない。遅かれ早かれ監督として評価されることは避けられず、その中には手のひらを返したように厳しい内容のものも出てくるだろう。
そういう時が来ても、ジダンがチームを掌握し、組織としてシーズンを乗り越えていけるかどうかが鍵となる。
監督として長い経験があるわけではないので、プレーヤーをうまくまとめていく技術はまだまだ発展途上のはず。彼にしかない現役時代の輝かしい実績を、監督としての武器に変えられるかどうかは、今後にかかっている。
■中盤からのチームの変化
具体的なプレーとしては、就任から1週間程度で細かい点まで詰められるわけはなく、大まかなコンセプトの変更から、徐々に詳細を詰めていくことになるだろう。
そんな中でも、ベニテスからの変化はいくつか見て取れた。
まずはイスコの起用。
先発でプレーすること自体久々なのだが、彼の存在感は見違えるようだった。
クロースとモドリッチの前に入って、彼らや最終ラインからのボールを受ける役割を担い、狭い中央のライン間でプレッシャーを受けながらボールを捌いていた。
4-2-4となることが常態化していたベニテス期にはこうした役割のプレーヤーはおらず、クロースやモドリッチは自分で何とかするか、最前線に当てていくほかなく、中盤の空洞化が一層進むという悪循環に陥っていた。
イスコが前と後ろを繋げることで、ボールをスムーズに進めることができていた。この試合ではポストプレーは多くなかったが、本来はベンゼマもこうした仕事を出来るので、イスコを助ける形で降りてきてくれれば良い関係が作れそうだ。
うまくいっていたイスコをハメスに替えて試したことから、この役割をジダンが重視していることが見て取れる。技術の高い彼ら2人のどちらかが中盤でピボーテと縦関係となり、ラインの間で仕事をして欲しいということだろう。
イスコが中央のライン間でボールを受けることで、デポルティーボのディフェンス陣は収縮する。そこで両サイドバックが高い位置を取り、スペースのあるサイドを攻略できていたのが次の変化。
クロースが大きな展開をできるにしても、最初から意識されていればサイドでスペースを貰い攻めることは難しい。ベニテス期は中央に人がおらず、良いボールが入る可能性がなかったため、相手はロナウドやベイルがいるサイドを集中してつぶすことができていた。
この試合では、イスコとモドリッチ、クロースのパス交換で中央に収縮させた後でサイドへという展開が何度もあり、カルバハルやマルセロがスピードに乗った状態でサイドを攻められていた。
詰まればロナウドやベイルがサポートに来るし、問題なければ中央に絞った彼らにクロスを供給するという形で効果的だった。
マルセロが高い位置を取って、中央にもどんどん進出していくのはかなり久しぶりな印象。
彼がいい意味で奔放な攻撃参加ができていることは、サイドの攻撃がうまくいっていたことを良く表している。
3つ目はボールを奪われた後の守備。
最初に書いた通り、監督交代直後でモチベーションも高く動きがよかったことは確かだが、それを差し引いても速く取り返そうという意思ははっきりしていた。
また、奪えなかった時の帰陣もはっきりしており、このあたりの使い分けはアンチェロッティ期を思い出させる。
流動的に動いた後に、その形から奪いにいく切り替えは課題で、意図して相手を混乱させるような形はなく、すりぬけられてしまうこともあった。このあたりは今後精度を高めていくべきポイント。
このように見ると、中央をうまく使えるように調整したことでサイドも生きるバランスを目指しているように思われる。中央とサイドはどちらかだけでは機能不全になりがちなので、当然の修正ではある。だが、今シーズン前半はそうしたバランスさえない試合を見せられ続けてきたので、全うな方向への修正に大いに期待したい。
■もろもろ
個々のプレーヤーでは、ベイルがマドリーで最高の部類に入る出来。ハットトリックはもちろん素晴らしい結果だが、その他サイドでのプレーも積極的で、良く動いていた。後半には自陣エリア付近でも守備参加しており、攻守に献身的だった。
クロースとモドリッチの中盤コンビの復活も心強い。孤立した状況で広いスペースをカバーせざるを得ず、精神的にも厳しい仕事をさせられていた2人だが、周囲が改善されそうなことで、本来のレベルのプレーができそうだ。
特にクロースは、ロングパスが効果的になり守備面でも積極的で、精神面も良くなっているように見えた。
初戦5-0という結果はできすぎだが、ベルナベウも良い雰囲気でジダンを迎えており、まさに底だったクラブを取り巻く雰囲気が変わるきっかけとなりそうな試合だった。
次節はヒホンとベルナベウで対戦。ここまで18位、アウェイでは10試合7得点17失点と幸い難しい相手ではない。ジダンの足元を固めるには良い日程と言える。