良く言えば手堅い、悪く言えば面白みのない前半から、形を変えて後半に勝負をかけて、ベルナベウでのアトレティコ戦で久々の勝利を挙げた。
■マドリーの先発メンバー
GK:クルトワ
DF:カルバハル、バラン、セルヒオ・ラモス、メンディ
FW:ベンゼマ
46分:クロース→ビニシウス、イスコ→ルーカス・バスケス
■アトレティコの先発メンバー
GK:オブラク
DF:ブルサリコ、サビッチ、フェリペ、ロディ
MF:マルコス・ジョレンテ、トーマス;コレア、サウール
FW:ビトーロ、モラタ
50分:モラタ→レマル、71分:ビトーロ→カラスコ、74分:トーマス→カメージョ
アトレティコは負傷者が多く、やりくりに苦しんでいるようである。
■アトレティコの準備、マドリーは思惑が外れる
マドリーの形は、ヨビッチの1トップに希望が見えたスーペルコパと同じもの。ただ、ベンゼマだとより0トップに近いものになっていた。
オーソドックスな4-4-2のアトレティコに対し、この形だと中盤で1~2枚の数的優位が見込める。優位を生かしてボールを奪ってショートカウンターが理想なので、中盤でやり合ってくれればマドリーとしては希望通りの展開となる。
ところが、アトレティコはそれにはまることなく回避。
4-4のブロックでマドリーの攻めを遅らせる守りを徹底。無理して中盤の主導権を争うことはしなかった。
その分攻撃のスタート位置は低くなるので、ボールを持ったらモラタかビトーロへ早いタイミングで当てることを狙い、攻撃でも中盤を経由しない形を目指していた。
モラタはマドリー時代にこんなに収まっただろうかと思うほどのプレー。最低でもファールをもらって攻撃を前に進めようと粘っており、アトレティコの前線を支える存在となっていた。
シメオネは、スーペルコパを受けてマドリーの形をある程度予想できていたかもしれない。負傷者を抱えつつも、相手に対処できるだけの形を作るところまでは持ってきたように見受けられる。
アトレティコのこうしたやり方により、前半のマドリーは中盤の長所を生かした形を作れなかった。
密集した状態で素早く奪うことができないと、イスコシステムの際と同様、遅攻では手数がかかるし、サイドで勝負する形にもならないからクロスもなく、エリア内の場面を作るに至らない。
また、マドリーの中盤の低い位置は3枚でサイドまでカバーするから、アトレティコがサイドを使うと、バルベルデとクロースがかなり開いたポジションまでカバーせざるを得ない。
よって、底の位置がカゼミロのワンオペ状態となる問題も出てきて、その周辺でモラタとビトーロが基点を容易に作ることができていた。
速い攻めで明確なチャンスを作っていたのはアトレティコで、失点こそなかったものの、マドリーは悩みながら前半を終えたといった印象。
■いつも通りの形に変更
後半頭からクロースとイスコを下げてビニシウスとバスケス。4-1-2-3に変更した。両サイドに2枚ずつ、中央ではバルベルデがベンゼマのエリアまで出ていく普段通りの形。
中盤の誰かがポジションを離れないとサイドバックが孤立しがちとなっていた前半と比べ、そのままの形で2対2を作れるようになった。
両サイドにボールを入れて、だめなら戻して逆サイドでやり直すという慣れ親しんだ形になって、アトレティコの守備ブロックを大きく動かす。
50分にアトレティコにアクシデント。
前半ポストプレーで攻撃を作っていたモラタが負傷でレマルと交代。コレアを一列上げて、レマルを右サイドに置くことに。攻撃の基点となるプレーヤーを失い、マドリーの最終ラインの負担が軽くなってより高い位置でボール回収することが増えた。
56分、そのレマルが入ったマドリー左サイドから先制点。
ビニシウスが少し中に運んだところをブルサリコとジョレンテが見ていたので、ドリブルのコースは消えていたが、ビニシウスが持ち直したタイミングで、メンディがレマルの裏を取るラン。
ベンゼマもセンターバックの背後に動いて走り込み、低いクロスに合わせた。
2枚となっていたことで実現した左サイドの崩し。ジョレンテが寄ってきてコースが消えてからのビニシウスのやり直しが良く、メンディの動きも素晴らしいタイミングだった。
アトレティコはモラタ交代により攻め手を失っており、カラスコ、カメージョでも挽回には至らず。
マドリーは積極的に2点目を狙うというよりも、アトレティコの攻撃を丁寧につぶすことに重点を置いていた印象であった。ストライカー不在な分、サイドに運ばれてやられないよう、守備への切り替えとサイドの複数対応を怠らずにやり続けた。
破綻があればミリタンを入れてゴール前で凌ぐという選択肢もあっただろうが、そこまで追いつめられることはなく、最近の好調の要因である守備強度の高さでアトレティコを封じた。
この出来であれば無理にバランスを崩す必要はない。後半頭の交代だけで最後までいったジダンの判断は妥当だ。
■最近との違い
ジダンは、後半頭の交代は意図通りのものではなく、前半が悪かったのでそうした選択をせざるを得なかった旨の発言をしている。
前回対戦でまずまず機能した形を持ち込んだものの、アトレティコの対応もあってうまくいかなかったことが分かったのでやり直したということなのだろう。
このところ、前半うまくいかず、後半の修正で勝ちを拾う試合がしばしばあり、前節の記事でその点を私は批判した。
今節も外形上は同様の展開となったが、いくつかの点で違いがあるため、やむを得ないものと捉えている。
第一に相手がアトレティコであったこと。
リーガ下位のクラブなら力量差でやれる部分もあるだろうが、アトレティコを相手に同じことは求められない。
いくら不調とはいえ、彼らもモチベーションを持って臨んだであろうデルビーで、自分たちのやりたいことだけをやって勝てとか、もっと点を取れというのは現実的ではないだろう。
第二に、前回対戦時の経験があったこと。
わずか1か月ほど前の対戦で機能するめどが立った布陣なのだから、変えずに試合に入っても違和感はない。もっと以前の対戦であれば相手の対応を考慮して変化を加えることもあろうが、変えないことを大きく問題視するには当たらないと考える。
むしろ、この短期間でアトレティコがしっかり準備し、マドリーの長所を消したことを評価すべきだ。
第三に、ジダンの判断が早かったこと。
60分近くなってからの交代ではなく、ハーフタイムに前半のやり方を諦め、次善の策を出してきたことはこれまでにない。
監督としてこうした判断をするのは勇気がいる。基本的に先発を信頼し、できるだけ長くプレーさせようとする傾向のジダンに、新たな境地が生まれたようにも思えた。
悪い内容を自分の責任としたうえで、交代で下がるプレーヤーにもできるだけネガティブな感覚を与えないよう配慮するのはさすがの一言。
早く決断しつつ、チームも壊さない。一連の仕事は素晴らしかった。
前半のシステムが「撒き餌」のように機能し、後半のサイド攻撃が強調された、というのは結果論ではある。
だが、それには相応の理由があり、ジダンの判断がこうした展開を引き寄せたともいえるだろう。
■最後に
この結果、マドリーは首位を維持。
点差こそ1だが、今のチームの一番の強みである守備強度は、このレベルの相手でも上回ることができると確認できた。
このところ勝てていなかったベルナベウでのアトレティコをクリアし、リーガのタイトルも目指せる状況が続いている。このままのペースで続けていってほしい。
ミッドウィークにはコパでラ・レアルとベルナベウで対戦。週末はアウェイでオサスナと対戦する。