連戦の最後を飾るデルビー。
CLで生き延びたアトレティコには勢いがあったが、自信を持った試合運びでこれを退けた。
■マドリーの先発メンバー
GK:クルトワ
DF:カルバハル、ミリタン、アラバ、メンディ
MF:カゼミロ;モドリッチ、クロース
FW:アセンシオ、ベンゼマ、ビニシウス
46分:ベンゼマ→ヨビッチ、81分:カルバハル→ナチョ、85分:アセンシオ→バルベルデ、87分:ビニシウス→ロドリゴ
右は引き続きアセンシオ。この11人が今のところ固定されつつあるように見受けられる。
■アトレティコの先発メンバー
GK:オブラク
DF:マルコス・ジョレンテ、フェリペ、コンドグビア、エルモソ
FW:クーニャ、グリースマン
46分:グリースマン→ジョアン・フェリックス、カラスコ→レマル、60分:クーニャ→ロディ、コレア→スアレス、69分:デ・パウル→エクトル・エレーラ
スアレスは間に合ったものの、ヒメネス、サビッチと最終ラインのファーストチョイスを欠いて、コンドグビアがセントラルに。
お互いの考え方
マドリーは組み立て時にモドリッチとクロースが下がりカゼミロが場所を空けるいつもの形。
アトレティコはボールを持つスタイルを模索していたようだが、そういうやり方は得意とまではなっていないようである。
よって、アトレティコがどう攻めたいかの前に、どう守るか、どういうボールの奪い方を狙っているか、が問題となる。
彼らは4-4-2で、あまり変形せず守っていた。
サイドは2対2となるので同数で負けないことが求められている。ビニシウスには速さでも運動量でも対抗できるマルコス・ジョレンテを当てていた。
中盤ではデ・パウルがクロースを見て時間を与えない役割を担っている。
クロースとモドリッチのところでどこまで取りに行くプレーをするかは、チームによってかなり分かれる部分だが、カゼミロと入れ替わるくらいの高さであればついてきていて、できるだけ制限をかけたい姿勢が見て取れた。
対するマドリーのインテリオールは、懐かしいサイドバック裏へ降りるプレーも織り交ぜて、プレッシャーを避ける構え。
通常通りのやり方からの変更を強いたという点では、アトレティコの守備は一定程度成果を上げた。ただし、マドリーからすると、中盤で取りきれるという雰囲気にはさせなかったとも言える。
重要なポジションからずれることがあるとはいえ、クロースとモドリッチでボール保持を落ち着かせられる状況を作ったことで、アトレティコの前からの守備意欲を少しずつ削いでいったのだった。
「最悪」は避けて
それでも、マドリーにとって選択肢が少ない場面ではアトレティコの寄せは早かった。
具体的には、前に出ておらず最終ラインに入っている状態のサイドバックや、ポジションを変えきれていない時のカゼミロといったところ。
こういう時はクルトワに下げてクリア気味に蹴り出さざるを得ないことがしばしば。
マドリーとしては好ましくないプレーではあるが、アトレティコのスタイルからすると得点のためにはボールを奪いきる必要があるから、ボールを遠くで渡すのはそこまで悪い状況ではなかった。
避けなければならないのは、ビニシウスが中に戻すパスを狙われた場面のようなやられ方。
ボールを渡すことはある程度許容できる相手だったので、自らリスクの高い場面にはまりこまないよう注意する必要があった。
アトレティコはクーニャが9番としてエリア内でフィニッシャーの役割。
2列目のコレア、グリースマン、カラスコが前を向けた時に勝負したい。ただ、これがイマイチだったためにボールを持っての攻撃は脅威にならなかった。
サイドの2対2でマドリーが何もできなかったのと同様、アトレティコも同数で突破口を開けなかったことと、中央で動くグリースマンも変化をつけられなかったことによる。
後半開始時点でカラスコ、グリースマンが交代となったのは納得(グリースマンはカルバハルに踏まれ負傷も)で、ジョアン・フェリックスはパスでアイデアを出し、自らもフィニッシュに絡むことで改善されていた。
先制点が示す充実ぶり
マドリーの先制点は16分、コケのパスをモドリッチがカットしたところから。
カゼミロ、ベンゼマ、アセンシオ、ビニシウスと縦に繋ぎ、ビニシウスのクロスをベンゼマがボレーで決めた。
ビニシウスが良く中を確認し、精度の高いボールを供給。ベンゼマはさすがであった。
前半のアトレティコによるボール保持はあまり危険性がなかったから、攻めが遅くなることを嫌っていたと考えられる。
それでも、狭いコースを狙う縦パスがここで必要だったかどうか。リターンに見合わないリスクを負ったプレーだったのではなかろうか。
マドリーは良い位置で引っ掛けた数少ないこの機会でスピードアップができ、一気に決めきった。
ビニシウスはマルコス・ジョレンテとコレアに抑えられていたところ。
メンディがコレアを引き連れて動いてパスコースを作っていたが、ここまで良い形はなかった。アセンシオも特に前半のプレーは悪く、カラスコとエルモソにボールを奪われることが多かった。
それでもこのワンチャンスをものにできるのが今の充実ぶりをよく表しているように思う。
追加点の場面で見えたもの
先述の通り、後半になるとアトレティコの攻撃が改善され、ジョアン・フェリックスを中心にシュートチャンスを作られるように。
彼自身のシュート、スルーパスを受けたコレアのシュートと良い場面があり、寄せが少し甘かったら同点となって違う展開になっていただろう。
ここで凌げたのには最後のクルトワの存在が大きく、抜け出されてもうまくコースを切って対応。
前に出る判断の速さによって、シューターにはほとんどチャンスがなかった。
クルトワの出番が増え始め、アトレティコが良くなり始めたところだったが、次の得点もマドリーが奪った。
57分、ミリタンのロングボールをクロースがヘディングでヨビッチへ繋ぎ、左のビニシウスへ。
スペースを得てドリブル勝負できる形はほぼ初めてだったので最後までいくかと思ったが、縦の速さを警戒させてから中へ持ち込み、逆サイドのアセンシオへラストパス。
倒れながらの絶対にふかさないという意志を感じるシュートがオブラクの動きとは逆に決まった。
アトレティコ側からの視点では、ヒメネス、サビッチを欠いて連携に不安があったこと、フェリペとコンドグビアではスピードで劣ることが指摘されている。
また、追いかける展開だったことで、こうした形になったこともその通りだろう。
これに加えて言うと、彼らの攻撃が少しずつうまく回り出したという状況も影響したと考えられる。
前半はボールを保持する形でうまく攻められず、守備をベースに考えざるを得なかった。だから、このように不用意な形でスペースを与えてくれることはなかったのだ。
ボールを持ってもうまくいきそうもなかったら、ふわっと出てくるのではなく、前半同様守りからやる姿勢がもうしばらく続いたのではないだろうか。
攻撃で良い形が作れ良い雰囲気が生まれてきたが故に、守備から意識が移って中盤より前が突出。最終ラインとの間に広大なスペースができることになったように思う。
スペースを見つけて蹴りこんだミリタンのボールは見事で、これに合わせてクロースが入り、フェリペがステイせずに競りに行ったことで速い展開になったわけだが、こういう場面で後ろに残らず動くことで生きるパターンは、アタッキングサードでミドルを狙う位置に出てくる形と通底する最近のクロースのトレンドと言える。
デ・パウルに見られていた彼は、思ったようなプレーとはいかなかったかもしれない。普段はほとんど見ない大きくずれるパスミスもあった。
本来のプレーというよりもポゼッションの安定のための工夫に力を割くことになっていたが、それでも、前に顔を出すことで重要な役割を果たしたのだった。
そして、前を向いたヨビッチ、アセンシオをフリーにしたカルバハルのフリーランがあったことも忘れるべきではない。
ヨビッチはポストプレーできっかけを掴みつつあるよう。
得意の逃げ切り
行けそうと思った時の失点は辛い。
ゴール前のプレー自体が多かったのはアトレティコの方だが、マドリーは前後半ともほんのちょっとの綻びを見逃さなかった。
そしてここから守るのは大の得意。
直接にはジダンの遺産であるが、根本的な部分はモウリーニョ期から受け継がれているもの。10年に及ぶ蓄積はそう簡単には消え去らない。
この試合ではナチョ、バルベルデが締めたが、バスケスとカマビンガも控えている。1点差になっていれば彼らもつぎ込んで逃げ切りを図れたわけだ。
安全策を持てていることで、戦力の運用に余裕を持つことができていると言えよう。
この1か月ほどを無敗で乗り切れるとは思っていなかったが、勝ち点を落とすことなく今のところのベストの形が固めつつあるのは望外の結果である。
負傷者も増えていないから、もうしばらくこの形で続けることができそうだ。
最後に
CLは前代未聞の再抽選によってPSGとの対戦が決まった。
リーガにおいては2位以下との勝ち点差があるからと、第1戦の2月までに緩むのがありがちなパターンで、これは避けたい。
アンチェロッティが言うように、年末年始の遠征から年明け一気に転落した前回の経験もある。
まだ道半ばと捉えて油断せずに進んでほしいところだ。
次節はカディスをベルナベウに迎える。