グループステージの行方を大きく左右する一戦。結果はもとより、様々な面で影響を残す試合となった。
■マドリーの先発メンバー
GK:ケイラー・ナバス
MF:カゼミロ;モドリッチ、クロース
FW:イスコ、ロナウド、ヘセ
32分:マルセロ→ナチョ、62分:ヘセ→ルーカス・バスケス、81分:イスコ→コバチッチ
ナバスが先発に復帰。中盤より前は最近お馴染みの形。
■PSGの先発メンバー
GK:トラップ
DF:オーリエ、チアゴ・シウバ、ダビド・ルイス、マックスウェル
MF:モッタ;ベラッティ、マテュイディ
16分:ベラッティ→ラビオ、74分:マテュイディ→ルーカス
ディマリアはベルナベウで久々の試合。ベンチも含め豪華な陣容。
■クロースの役割変化
昨シーズンは中盤の底で起用され、守備に不安を抱えながらも大きな展開で存在感を出していたクロース。
今シーズン当初はモドリッチやカゼミロといった相棒と並ぶ形もあったが、負傷者の兼ね合いもあり、マルメ戦あたりからカゼミロが中盤の底で本格的に起用され始め、クロースはインテリオールとして起用されるようになった。
カゼミロは守備で体を使うことを厭わず、フィルターとして機能しており、攻撃面でも精度の高いロングパスで展開を操っていて、今や底で磐石な地位を築いたといっても過言ではない。攻撃面でも問題が少ないとなれば、守備の整備を重視するベニテス監督が、改善したとはいえ守備面で不安を残すクロースに代えてカゼミロを置いたことは当然の成り行き。
一列高い位置に入ることとなったクロースは、最初はプレーに戸惑っているようだった。底にいる時と違いプレスに出て行くこともあるが、以前にも触れたように、その際に周囲を確認しながら行くことが何度も見られ、味方との連携がオートマチックにはできていないことが見て取れた。
しかし、試合を重ねるごとにその回数は減っている。
この試合では、ロナウドと2トップで並ぶような形で守備をスタートし、躊躇なくPSGの最終ライン、GKまで追いかけに出て行っていた。高い位置でボールを奪いに行くプレーも粘り強く、底での起用を経たことで、守備が出来るトップ下といったようなスタイルになった。以前よりずっと高い位置で守備を行い、しかもそれがこなれていっているということだと言える。
また、攻撃の場面でも役割を大きく変えている。
低い位置まで組み立てを助けに行くこともしばしばあるが、カゼミロのパス自体は問題ないレベルであり、彼がボールを展開できるので、クロースは低い位置を維持しなくても良くなっており、より高い位置で攻撃にアイデアをもたらす役割を担っている。
本来であればイスコが入るべきポジションであろうが、ハメス、ベイルの負傷でイスコが前線のサイドに回っている今、クロースがこの役割を肩代わりしている形。
パスの精度は高いし、シュートも長い距離から狙えるので、相手にとっては厄介。底でサイドチェンジを担っていた頃とは全く違う形で攻撃を動かしている。
元々はバイエルンで攻撃的なプレーヤーだったのをマドリーが底で起用したのだから、ポジションは元に戻ったとも言える。様々な経験を積んで、クロースは高い位置でより攻守に幅広い貢献ができるプレーヤーとなった。
負傷者が戻ってきて、この変化が元に戻るのか、そのまま維持されるのかはわからない。しかしながら、彼の役割の変化は、底で固定されていたアンチェロッティ期との違いを浮き彫りにしている。
■負傷で試合が動く
序盤は、PSGがボールを持ちながらも拮抗した形。決定的な場面はPSGの方が多く、マドリーはベルナベウでの試合にもかかわらず守勢に回る時間が長かったが、最後はやらせていなかった。
カバーニのシュートミスなど、相手のミスに助けられたところも多いが、エリア付近での守りは人数をかけてそれなりに固められていた。
流れが変わったのは両チームの負傷から。PSGは16分にベラッティに代えてラビオ、マドリーは32分にマルセロに代えてナチョとなった。
PSGは組み立ての要であるベラッティを失った。しかし、入ったラビオが落ち着いた良いプレーを見せて、穴を埋めた。ベラッティと同じように低い位置で攻撃を作ることはできないが、より高い位置でシンプルにプレー。ボールを持てる状況で出場となったことで、あれこれやろうとしがちな展開だったが、余計なことをせずにプレーしてリズムを作っていたことでPSGの攻撃が安定していたし、ベラッティと同じことをせずに色を出していたことも印象がよかった。
一方のマドリーはサイドバックでありながら組み立てで大きな役割を担っているマルセロを失った。
ラビオのプレーによってPSGが大きく崩れなかったのに対し、マドリーは代わりが攻撃より守備のナチョなので、やり方を大きく変えざるを得なくなった。
30分過ぎまで、マルセロが特別優れたプレーをしていたわけではなかったが、彼がいるのといないのとでは左サイドを中心とした攻撃の圧力が違う。左でボールを持ってディフェンスを寄せて右に展開する形も使えなくなり、守備の安定を代償に攻撃の強みを失った。
守る側にしてみれば、マルセロのようなプレーヤーがいていろいろと対処を考えながらプレーするのと、ある程度余裕を持って予測を立ててプレーするのとでは負担感が全く違う。マドリーは最も失いたくないプレーヤーを欠くこととなり、こと攻撃に限ってはその穴埋めもできない状況となった。
ところが、その攻撃で期待しづらいナチョがゴールを挙げるのだから試合というものはわからない。
34分、クロースのミドルシュートがブロックされ、高く浮いたボールがエリア内右へ。トラップがゴールを空け、ゴールラインに近い位置で処理しようとしたところ、思ったよりも左サイド手前に軌道が逸れて、裏へ抜けようと走っていたナチョが届く位置へ。ナチョは枠に入るコースで、触っても良いというボールを中央へ入れたところ、これがそのままゴール。
思わぬ形、思わぬプレーヤーのゴールで試合が動くこととなった。
■押し込まれてそのままに
前半、トップのロナウドは、PSGがボールを持ち普段よりずっと押し込まれた展開の中、ポストプレーでパス回しのリズムを作ろうと苦心していた。彼自身の得点に繋がるプレーではもちろんなく、本来やりたい仕事とは程遠いはずだが、チームのために地味な仕事も背負おうとしていた姿勢は評価できる。
しかし、リードを得たことで、チーム全体として守ってカウンターの意識が強くなり、ロナウドも特に後半は裏へ一発のボールを求めて高い位置に残ることが多くなった。それにより、PSGがボールを持って攻勢を強める展開がより顕著になってしまった。このあたりはベンゼマの不在を感じさせる。
マドリーがマルセロを欠いて攻撃面で困難を抱えたのと対照的に、ラビオがシンプルな良いプレーを続けていたPSGはさほどレベルを落とすことなく攻撃を作れていた。
そうした状況の中マドリーは後半良く凌いだといえる。試合展開としてはPSGペースだったため、ベルナベウはマドリーに対してブーイングしていたが、CLベスト8のあたりでこうした試合となるかもしれないことを考えれば、アウェイゴールに当たる失点をせず、良く持ちこたえたとポジティブに考えても良い。
ただ、セビージャ戦後に考えてみると、1点取った後流れは悪くとも追加点を取ってしまうような理不尽なまでのカウンターが鳴りを潜め、ただただ相手の攻撃を凌ぐことに汲々としている試合が続いているともいえる。
本来のマドリーならば、先制しその後追いかける相手がリスクを負って攻めてきたら、前線の能力を生かしてカウンターで1、2点追加してダメを押すことが可能なはず。それができず、一旦流れを失うと凌ぎきることしか出来ていないのは残念。
凌ぎきって結果を出すのは大事なのだが、マドリーはそんな緊張感のある試合にしないこともできるチーム。最近は先制すると「一丁上がり」といった雰囲気になって、早い時間から省エネモードに入ることが多いが、例えば2点差で1人多い状況でも、相手が1点取れば試合は一気にあわただしくなることはセルタ戦で既に見ている。
もちろんコンディション維持のためには楽をする時間も必要出があるが、かえって慌てる展開にならないためにも、取るべきところで点を取ることを放棄するような展開を作るべきではない。
まして、ここまでの失点の少なさは、守備組織というよりもナバス個人のプレーによるところが大きく、数字だけを見て守れているから大丈夫と安心するのはまずい。
カウンター狙いになるのは良いが、守備を過信してしまうと攻守に出足も悪くなるし、苦しい時間帯が長くなるのは避けられない。ナバスのプレーの恩恵は受けつつ、それに寄りかからなくてもいいよう点を取る意識を、チームとして持って欲しい。
■今後に向けて
PSGが勝ち点を得てもおかしくない試合だったが、マドリーが逃げ切って勝利。これによりグループステージ突破が決まった。直接対決を1勝1分としたことから、残り2戦を問題なく戦えば首位通過は間違いない。最終戦は消化試合にするくらいのつもりで、次節も勝利を期待したい。
セビージャ戦は敗戦(レビューは明日の予定です)。今週末は代表戦がありリーガはお休みで、次節はバルセロナとの直接対決となる。互いに負傷者が多く、万全とは言えない状況での対戦なのは残念だが、良い結果が出れば。