ユーロ、オリンピックと代表戦が続いたので、休みはごくわずか。
それでも容赦なく新たなシーズンは始まった。
今シーズンも疲労や負傷との付き合い方が重要になるのではなかろうかと、最初から心配だ。
初戦の振り返りメニューはこのようなもので。
■マドリーの先発メンバー
GK:クルトワ
DF:ルーカス・バスケス、ミリタン、ナチョ、アラバ
66分:アザール→ビニシウス、68分:ベイル→ロドリゴ、88分:バルベルデ→イスコ、モドリッチ→アセンシオ、89分:ベンゼマ→ヨビッチ
20歳代前半はミリタンとバルベルデのみという、ベテランが主体のメンバー。
マルセロ、メンディとも負傷で欠いている左サイドバックに新加入のアラバが。
前線ではトッテナムから復帰したベイルが先発。
■アラベスの先発メンバー
GK:パチェコ
DF:アグレガビリア、レジュネ、ラグアルディア、ドゥアルテ
MF:ペレ・ポンス、ピナ;エドガル・メンデス、マヌ・ガルシア、リオハ
FW:ホセル
59分:マヌ・ガルシア→グイデッティ、ペレ・ポンス→ルム、68分:エドガル・メンデス→イバン・マルティン、リオハ→ペリストリ、82分:ピナ→モヤ
昨シーズンは残留を勝ち取ったアラベス。今シーズンもまずは残留が目標だろうか。
ベイルとアザールによる変化
ベイルが帰ってきてアザールも入った3トップは名前だけなら迫力があるが、ベンゼマ以外の2人が非常に苦しい時期を過ごしているのは周知の通り。
この2人がどう起用されるか、起用されるとして良い方に出るかが、序盤戦の大きなポイントと言えよう。
まず今節は先発起用という形で、アンチェロッティは彼らの経験に敬意を示した。
その上で、プレーはどうだったかという点を見ていきたい。
まず、ベイルがベンゼマがサイドに流れた時に中央へ移動する動きが見られた。
昨シーズンまでのジダン期に、ビニシウスやロドリゴが中央に入らなかったのとは対照的である。
ベイルが自然にこうしたポジショニングをすることで、「ベンゼマが出ていった後の中央で誰がフィニッシュするのか」問題は、ひとまず解決されていた。
また、アザールもサイドに開きっぱなしなのではなく、ポジションを変えながら自由にプレーしていた。
アセンシオもそうであったように、彼らのようなプレーヤーがサイドの一番外を受け持って、アイデアを出さないシンプルなプレーをするのは非常にもったいなかった。
周囲との関係を作りながらボールを動かせていたアザールのプレーぶりは、そこからの変化を感じさせるに十分なものであった。
得点力不足が課題である今、前線で違いを作るべきプレーヤーがその役割を果たす必要がある。
抜擢と言っても良い起用をされたベイルとアザールは、ジダン期との変化を明確にし、その課題を克服できるきっかけを作ったと評価できるプレーだった。
付け加えるならば、試合後ここまでメディカルレポートが出ていないことも、彼らにとっては非常に大きなニュースである。
アラベスの出方
初戦ということもあるのだろう。アラベスは積極的な守備でマドリーの組み立ての寸断を狙っていた。
マドリーの3トップがアタッキングサードで威力を発揮する前に引っかけられることもしばしばあり、セルヒオ・ラモスが去った最終ラインからのボール供給がどうなのか、今後しばらくは試されそうに感じられた。
今節はクロースも欠いていたことから、サイドチェンジや前線へのロングボールでプレスを回避する能力は低い。
そうした弱点を突かれる形となって、低い位置ではリスクを避けるボールが増えることに。
アラベスとしては、マドリーが長いボールをあまり使ってこず後方から繋ごうとすることを逆手にとって、守備から良い試合の入りとなった。
アラバ、順調に適応
そうした中でも、左サイドバックに入ったアラバが落ち着いていたのは印象的だった。
組み立て段階でのミスはほとんどなく、上がってのクロス精度も高かったので、左サイドの幅広い仕事を任せられた。
左サイドの一番外のエリアを彼に任せることができたことで、アザールはそこにとらわれずに動けたのである。
メンディが中に入り、ビニシウスが一番外に張りだしていたジダン期との違いはこうしたところにも見られたのであった。
アラバが中に入って行くこともあって、その時はモドリッチが外側をケア。
アラバの後ろモドリッチが組み立てを仕切る形は、以前のアンチェロッティ時代に見られたサイドバック後方でのインテリオールのプレーに通じるものがある。
今節のアラバとモドリッチのプレーは計算してのものというより即興に感じられたが、アラバの加入によって、組み立てにもジダン期とは違うニュアンスが付け加えられそうだ。
20分で決着
マドリーの良いところも見えつつ、アラベスの守備の頑張りによって我慢比べとなった前半から一転、後半はマドリーが先制してペースを握った。
48分、クロスが流れたところをバスケスが拾って折り返し。アザールがヒールでベンゼマへとつなぎ、ボレーで決め切った。
56分にはショートコーナーの流れからモドリッチのクロスにナチョが合わせ2点目。
更に63分、バルベルデが自陣から一気に持ち上がり、ベンゼマへ。一度は防がれたが落ち着いてセカンドチャンスをものにした。
1点目はアザールが中央に入っていたことによる関係とアイデアが光った。
3点目はバルベルデの能力がいかんなく発揮されたことによるもの。彼はアンチェロッティにとっての新たなディマリアとなることだろう。
アンチェロッティの選択の良いところが多く出たこの20分に満たない時間で、マドリーは3得点を挙げて試合の行方をほぼ決めたのだった。
二つの顔
ミリタンによる不用意なバックパスでペナルティを与え1失点を喫したものの、ここから乱れることはなく、アンチェロッティは若手に出番を与える交代のカードを切っていった。
66分にビニシウス、68分にロドリゴが入り、アザール、ベイルが下がったことでここからは昨シーズンまでのマドリーに。
縦に速いが中央のフィニッシャーが不在になる悪癖がやはり現れ、ここまでのベイルとアザールのプレーは約束事ではなく、彼ら個人によるものであることが判明した。
4点目こそビニシウスが挙げたが、時間が逆戻りしたかのような内容となって、若手の改善にはまだ時間がかかるのだと感じてしまう。
守備に心配はあるものの、前線が自由に動いて関わり中央に迫力を持たせることができる60分過ぎまでのチームと、それ以降のこうしたチームは全く別で、今のマドリーには二つの顔があるのだ。
方向性としては、ベテラン勢が息切れしてジダン期の悪癖を改善できないままとなるよりは、若手がベテラン勢のアイデアをくみ取って、アンチェロッティのチームらしい攻撃ができる組織となっていくよう、統一されていけばよい。
そのためには、前半のチームの攻撃が機能し続けて結果を出していくことが不可欠だ。大敵である負傷によってこの流れがくじかれないよう、コンディションに注意しつつ変化が進むことに期待しよう。
おわりに
新体制の船出としては上々の試合となった。
今のところアラバだけが新加入で、血の入れ替えのなさも不安材料ではあったが、ベイルとアザールのプレーが「補強」として機能し、ポジティブな雰囲気で進めそうなのは安心だ。
ベイル、アザールとも表情が良く、今のところメンタリティの問題も出てきていないのもありがたい。
ベイルなど、レンタル前は心ここにあらずといった様子だったものだ。彼がマドリーでモチベーションを持ってプレーしてくれそうなのが、何より嬉しい。
次節はアウェイでレバンテと対戦。