感染など色々あり、しばらく間が空いてしまった。
この間、ラ・リーガで優勝を決め、最後の数節はCL決勝に向けてコンディション調整しつつ終えることができた。
CL決勝までの時間に、今シーズンの歩みを振り返ってみることとしたい。
実績あるプレーヤーの再登用とビニシウス
第1節はアラベスとの対戦。
マドリーに再びやってきてどのようにチームを率いていくのかが注目されたアンチェロッティは、ベイルとアザールを先発起用した。
昨シーズンまでは、将来性によって使われてきたビニシウスと、モチベーションとコンディションの問題から蚊帳の外となっていたベイルとアザールがコントラストを作り出していた。
アンチェロッティは、実績は確かな後者2人を改めて戦力化しようと試みたものと思われ、2節レバンテ戦でも同時に先発起用。ベイルは第3節ベティス戦まで連続して先発している。
元来アンチェロッティは序列を重視する人物である。
過去の人になりかけていた2人とはいえ、経験のあるベイルとアザールの状態が良ければ結果は出ると踏んだのではないか。
そして、ビニシウスら若手に過度の期待をかけずに済む状況を作って、どこかでポジション争いが生まれれば。そんな目論見だったように思える。
実際、アザールはアラベス戦でアシストを、ベイルはレバンテ戦でゴールを記録。
信頼して使えばまだやれるのではという印象ではあった。
こうした印象を超えていったのが、ビニシウスの急成長である。
昨シーズンまではドリブルは良いものの、特にシュート精度に大きな課題があった。「タッチ数が多いとゴールを決めるのは難しい」とアンチェロッティも早々に発言している。
しかし、レバンテ戦では引き分けで勝ち点1を拾うドブレーテ、第4節セルタ戦ではベンゼマとアシストをし合う活躍を見せ、数字に残るプレーを続けられるようになった。
ベイルとアザールが活躍してくれれば、精神的なもろさも見えていたビニシウスを大事に伸ばすことができるだろうという計画は、当のビニシウスが余裕を持ってプレーできるようになったことによって不要となった。
以降、ビニシウスは新型コロナウイルス感染症のために欠場した第19節ヘタフェ戦まで連続して先発。
ここまでで10ゴール5アシストを記録し、昨シーズンまでの自分と決別したのだった。
カウンター主体へ
時間が少し戻るが、アンチェロッティがカウンターをメインとするようになったきっかけとして述べていたのは、第8節エスパニョール戦の敗北であった。
序盤こそ攻撃的にプレーして大量点を実現していたが、出ていった裏を効果的に狙われ2点を先行されて敗れたエスパニョール戦を契機に、アンチェロッティは守備を整えてカウンターを狙う形へとシフトし、手堅く勝利を積み重ねていった。
ヘタフェ戦で敗れるまで、リーガにおいて3点以上奪っての勝利は第14節グラナダ戦の4-1のみ。
それ以外の2点差以上の勝利も第16節ラ・レアル戦、第17節アトレティコ戦のみであったから、しぶとく戦っていたことが見て取れる。
振り返ってみると、この形でもビニシウスを主たる攻撃手段として用いたことによって、ベイルやアザールが主役となる道は絶たれたように思われる。
ベイルに至っては、練習には参加するものの、シーズンが進むにつれてチームへの関与さえ拒んでいるかのように週末は行方知れずとなることが恒例となってしまい、マドリーで復活する可能性は完全に閉ざされることとなった。
こうして、当初想定していたと思われるベテラン組の戦力化を諦めることと引き換えにビニシウスを主力として開花させ、手堅いカウンター勝負で結果を積み上げていたマドリーだったが、2022年に入って暗雲が立ち込め始める。
件のヘタフェ戦で敗北。その後のサウジアラビア開催のスーペルコパでは優勝を成し遂げたものの、帰って来てからの第22節エルチェ戦は2-2で引き分け。
コパデルレイではアスレティックに0-1で敗れ、顕著なペースダウンを印象付けてしまうこととなった。
年明けの停滞
カウンターを主とする流れにとどめを刺したのは、CL決勝トーナメントの初戦であるPSG戦だった。
下がって受けようとしたマドリーだったが、メッシを巧妙に隠したパリのプレスに四苦八苦。
雑なロングボールが増え、ビニシウスはダニーロらに消されて、チャンスなどないまま0-1で敗戦となった。
この試合での教訓は、メッシを入れたPSGであってもうまくやればマドリーの組み立てを寸断できてしまう(メッシなしならもっとできる)という点が一つ。
もう一つは、こうしたレベルではビニシウスだけに任せても容易に消されるという点。
エンバペが一人で何度もやり切っていたのと好対照をなしていたことで、ビニシウスが発展途上であることは余計に目立つこととなった。
打開策とバルベルデ、カマビンガの活躍
そこでアンチェロッティは、インテリオールがアタッキングサードのプレーに関与し、そのまま最初の守備にも参加する形を積極的に採用しだした。
奪えればショートカウンターとなるし、ダメでもスコアレスで粘られる展開にはなりづらい。
ヘタフェ戦までの形は、ピンチを減らすことに寄与していたがチャンスも同様に少ない。こうした試合が続くとリーガでは取りこぼしが増えるし、CLでは個の質で上回られてしまう恐れが強くなる。
また、ビニシウスに数少ないチャンスで責任を負わせないという元々のアイデアにも反する。
これらの問題からの脱却を図るために、積極的なプレーを模索しだしたのだった。
こうした変化によって、バルベルデやカマビンガの序列は上がった。
攻守両面で運動量が多い彼らを組み込むことによって、動きのある試合を徐々に取り戻し、CLでも生き残りを果たすことができた。
こうした展開を志向するのにバルベルデが適しているのはマドリディスタにとっては周知の通りなのだが、昨夏契約したカマビンガがこれほどすぐに重要な役割を担うことになると思っていた方は少ないのではなかろうか。
カードをもらいがちではあるものの守備で頑張れ、ボールは運びはもちろん、エリア内に入ることもできるしパス精度も期待できる。
先発の機会はまだ多くないが、序盤のCLインテル戦から始まりシティ戦に至るまで、良いところで活躍の場を得ている。
後半戦のマドリーにとって重要なピースとなったことは間違いないだろう。
誤解を避けなければならないのは、こうしたマドリーのやり方が相手を完璧に抑え込むものかというとそうではないという点だ。
今のマドリーは、往年のバルセロナやドルトムントのような相手を逼塞させるハイプレスというよりは、程々にかわされるが、その分相手が出てきてくれるのでマドリーも攻めるスペースを得られるというものと捉えられる。
だから、得点もできるが失点も相応の数覚悟しなければならない。
実際、勝ち点差が空いていたこともあって、負傷者の穴埋めを本職でせず、バルセロナ戦でモドリッチのトップ起用という選択をし、大敗を喫している。脆さがはっきりと表れた例と言えよう。
リーガは、第32節セビージャ戦で勝利したことでほぼタイトルを確実に。
第34節エスパニョール戦に4-0と勝利し、早々と優勝を勝ち取った。
その間、チェルシーと3-1,2-3。マンチェスターシティと3-4の点の取り合いを演じており、脆さはあるが爆発もする強みがCLレベルであっても発揮できている。
まとめ
アンチェロッティの特徴として、少数精鋭で戦う点が挙げられる。
しかし今回は、そもそも計算できる人数が少ないチームでの戦いであった。
ベイル、アザールが稼働できなくても問題ないほどにビニシウス、ロドリゴが頭角を現し、カウンターが頓挫しだした頃にバルベルデやカマビンガが輝かなかったら、ここまでの成果は間違いなく得られていなかった。
ベイルやアザールにしばらく頑張ってもらう形が成功していたら、これほどうまく世代交代が進むことはなかったはずで、なんとも幸運というほかない。
結果として今シーズンのマドリーは、生きのいい若手とまだまだ超一流のベテランが引っ張る良いチームとなった。
今シーズンを肯定する一番の成果となるCLのタイトルも手に入れられるか。
不安もあるが、盤石なマドリーというのもらしくない。
色々あっても、最後にはなぜか勝ってしまうマドリーらしさの発揮を、最後も期待してみたい。