ベンゼマ、ビニシウス、カゼミロを欠いて、どうやっても攻守苦しい組み合わせとなってしまうことがわかっていた試合。
それでも勝ってセビージャとの差を広げ、リーガタイトルに向けて大きな節となった。
■マドリーの先発メンバー
GK:クルトワ
DF:カルバハル、ミリタン、アラバ、マルセロ
MF:カマビンガ;モドリッチ、クロース
FW:アセンシオ、イスコ、ロドリゴ
46分:カマビンガ→バルベルデ、65分:ロドリゴ→アザール、イスコ→ヨビッチ、84分:マルセロ→ナチョ、87分:モドリッチ→セバージョス
左ラテラルはマルセロ。カゼミロの代役にはそのままカマビンガが。ベンゼマのところも配置を変えずイスコ。
■グラナダの先発メンバー
GK:マクシミリアーノ
DF:キニ、ヘルマン・サンチェス、トレンテ、ネバ
MF:プエルタス、ミジャ、ゴナロン、ウズニ
FW:コジャド、ルイス・スアレス
63分:ルイス・スアレス→ホルヘ・モリーナ、71分:コジャド→ペトロビッチ、プエルタス→ラバ、81分:ウズニ→アレソ、ミジャ→ロチーナ
ヘタフェ、マジョルカといったクラブと近い位置。降格圏までは少し差があるが油断できない。
アンチェロッティの志向、改めて明確に
重要なプレーヤーを複数欠いている状況であったから、4-4-2や4-2-3-1の並びにして普段とは違うやり方を志向することも考えられた。
具体的には、ヨビッチとアザールを前線に並べてバルベルデとカマビンガのドブレピボーテにするとか、アザールやイスコをメディアプンタにするとかといったことである。
しかし、これまでのマドリーでのアンチェロッティを見てきた方はご存じの通り、彼はそういう変化を好まない。台所事情が苦しくても、チームとしてのプレーの仕方を維持しようとするし、また序列も尊重しようとするのである。
その考え方は監督の弟子筋にあたるジダンにも受け継がれており、途中交代であってもそのまま置き換えることが多かったのは記憶に新しい。
近年のマドリーは基本的にそのように運用されてきたのだ。
それは厳しい陣容の今節も同じであった。
ビニシウスの代わりはロドリゴ、カゼミロの代わりはカマビンガであり、ライン間に降りてボールを受けるのが得意なベンゼマの代わりは、フォワードのプレーヤーではなく本来中盤であるイスコが務める。
それぞれのポジションに置ける役割はできるだけ変えずに、プレーヤーを入れ替えることを意図していたと考えられる入れ替えだ。
「現有戦力でどう戦うか」という問いに対するアンチェロッティの答えは、このやり方でほぼ固まっているのだろう。
逆に言えば、この仕組みから外れているタイプのプレーヤーが割って入る望みは薄い。
ベンゼマのところはボックスストライカーではダメだし、ビニシウスのところは幅を取れるプレーヤーでなければならない。
右エストレーモやインテリオールはミドルシュートがあるプレーヤーで、ピボーテは一人で広い範囲をカバーできる守備力…
序列の低いプレーヤーがどうして今その扱いになっているのか。このように必要とされる条件を考えていくと、それとのギャップが見えてきはしないだろうか。
普段との違い
もちろん、チームの狙いは同じでも、ピッチに立つ個々人の違いによってプレーに差は生まれることになる。
今節の大きな違いは両サイドバックで、マルセロとカルバハルのボールを扱う技術はさすがであった。メンディやバスケスを見慣れた昨今、スピードはないが狭いところではがせる技術は見ていて楽しいものだった。
また、役割はベンゼマと同じとはいえ、イスコもやはり中盤のプレーヤーといったプレーぶりで、より低い位置にいることが多い。
こうしたことから、ライン間は人が多数。
エリア内で待つターゲットがいないので、クロスの選択肢がほぼないことはすぐ明らかに。
よって、地上戦で狭いところを崩せるかどうかに焦点が集まることになった。
個人能力として守備に不安があり、かつポジションを中に移すことがしばしばあるマルセロ、前述の通り9番の位置にいることはないイスコと、攻撃時のポジションは非常に流動的。
守備ではボールを奪われた直後が大事で、最初の守備で引っかけるか最低でも遅らせないと、グラナダの狙い通り速攻でやられることになってしまう。
開始直後の形はグラナダが理想とするもの。これを何度も作られていたら、試合の展開は全く違うものになっていたはずだ。
その点、カゼミロの代役としてカマビンガはまずまず頑張ってバランスを取っていて良かった。
開始直後の場面のあと、速攻の形を作られなかったのは彼の地味なプレーのおかげである。
また、カルバハルの存在感が守備でも大きかった。
危険を察知した時にポジションを捨てて寄せてくれる彼のおかげで、グラナダの攻撃の組み立てにプレッシャーをかけることができていた。
バスケスは単なる穴埋め以上にやってくれていると思うが、それでもカルバハルのボールを扱う技術や気の利き方はその上を行く。カルバハルの負傷が再発しないことを祈るのみである。
バルベルデの狙いと最終手段としての2人
後半に入ってカマビンガをバルベルデに代えたのは、ファーストディフェンスを強化するため。
後ろでスペースを潰しバランスを取る力は弱まるが、それよりも出所を潰す方を優先したい意図が伺える。
攻撃面では、守備ブロックをセットされてしまう前にショートカウンターを狙う格好に。
良い形を作りながらもゴールに繋がらないので、アザールとヨビッチを投入。
分かりやすくアンチェロッティの求める条件から外れている彼ら。そんな2人を入れるのは手段としては最後に近い。
もともとのコンセプトからは遠ざかり混乱していくが、その中で事故が起きればラッキーという程度の使い方という印象。
彼らの能力と条件が合う場所がないので、今のところは混乱の中で個人能力が生きることを願う以上のものは見いだせない。
いわゆる「ラッキーボーイ」や「スーパーサブ」から脱することは難しそうである。
これこそアセンシオ
74分、ミリタンの速い守備でボールを奪い、回収したアセンシオがミドルシュートを決め、先制に成功。
関与したのはミリタンだったが、バルベルデを入れたことによって得られていた守備のメリットを生かしたとも言えるプレー。
アセンシオは前半からシュートを狙える持ち方ができていた。右サイドで切り返すばかりでなかったことから期待できそうと思っていたら、ものすごい弾道のゴラッソを決めた。
アンチェロッティからもシュートを狙うよう言われていると述べていたが、まさにこれがアセンシオの魅力であり、彼を右で使う理由である。
ミドルシュートについては、以前クロースやモドリッチもアンチェロッティからの指示があることを述べていたから、全体にそうした指示がなされているのだろう。
引いて守る相手に対し、かつてはロナウドを狙ったクロスの多用でこじ開けた。
今は2列目が決める形を狙っているように見える。
スピードがあるビニシウスがいれば、これまで何度か見られたように、彼がえぐりマイナスのボールを供給することができるし、守備への切り替えでショートカウンターを成立させることも考えられる。
下位クラブに苦労させられるシーズンではあるものの、現有戦力の強みを生かす形を作っているのは確かで、この試合はそれが奏功した。
最後に
セビージャがオサスナと引き分けたため勝ち点差は6に。久しぶりに勝ち点差を広げることができた。
このメンバーで結果を出せたのだから、まずはそのことを喜びたい。
来週はいよいよCL。パリとの試合が控えている。
主力のコンディションが戻ってくれることを願いつつ、大きな試合でどこまでやれるかを楽しみにしてみたい。
今週末のリーガはビジャレアルとの対戦。
CL圏内を目指しており、こちらもタフな試合になりそう。