レアルマドリードのある生活

レアルマドリードの応援日記。試合中心にお送りします。

プレシーズンで見えてきたベニテスの形

ベニテス体制として最初のプレシーズンは、ここまで7試合を戦って9得点2失点という結果で終わりを迎えようとしている。(サンチャゴ・ベルナベウ杯でのガラタサライ戦が最後)

様々な議論がありながらもアンチェロッティからバトンを引き継いだベニテスが、マドリーでどういった形を作ろうとしているのかや、プレシーズンで目に付いたプレーヤーについて、このタイミングでまとめておきたい。

ベニテスの形

プレシーズン前に予想されたのは、4-2-3-1のシステム。

ナポリでは良くも悪くも自分の形にこだわり、ハムシクを半ば干すなど、チームを型にはめ込むタイプと評されていた。そのため、1トップにはロナウドが入りベンゼマが控えになるのではないかといったような、形に今のメンバーを当てはめた予想が多くされていた。

しかし、これまでのところ、ベニテスはそのような事前予想ほど4-2-3-1に強く固執している様子には見えない。

低い位置でボールを持ち攻撃をスタートする時の形は4-2-3-1ながら、どの試合でも攻撃時は相変わらず流動的。前の4人のポジションは固定化されておらず、がっちりポジションを固めた攻撃ではない。

守備時は更にはっきりしており、4-4-2でブロックを作っている。ベストのメンバーで言えば、ロナウドやベイルなど前残りしがちなプレーヤーをベンゼマとともにトップの位置に並べ、それ以外で4-4を作ることでバランスの取れた守備を作ろうとしている。

4-4-2で守り攻撃である程度の自由を与える形は、アンチェロッティが作り上げたものに近く、マドリーにおいては、自分の形にこだわらず、前任者の遺産を生かしながらチームを構築しようとしているように見える。

その点では、チームの固定化やそれに伴うプレーヤーの不満増加という不安は、今のところ杞憂に終わりそうである。自分のやり方にがらりと変えるのではなく、緩やかに引き継ごうとしている点は評価したい。

そんな中でも、アンチェロッティ期にはなかったものがいくつか見えてきている。

一つ目はサイド攻撃。

プレシーズンではイスコやハメス、チェリシェフ、ルーカス・バスケスといった面々がサイドに入ることが多かったが、彼らとトップ下、サイドバックによるサイドの崩しにはかなり手数をかけて繰り返しており、サイドからチャンスを作りたいという意図が見える。

実際、チャンスになりかけの場面はサイドから多く作れていて、中央がきちんと詰めていればということが何度もあった。ベンゼマを負傷でしばらく欠くので、サイドで作ったチャンスからどうゴールにボールを入れるのかは大きな課題となり得るが、チャンスの作り方としてはまずまず。

チェリシェフ、ルーカス・バスケスの頑張り次第では、サイドは面白いことになるかもしれない。

2つ目は前線からの守備。

ボールを失った後、アンチェロッティは深追いせず、低い位置でブロックを作ることに切り替えて相手の攻撃に対応していた。プレスをがんばれとは言っても、その通りに追い回してくれるプレーヤーは少ないことから、現実的な判断だった。

ベニテスは、そこを頑張らせようとしており、失った後のプレスにかける人数は多い。また、プレシーズンで若いプレーヤーが多いということもあるだろうが、皆忠実にボールを追い、パスコースを消しに走るので、試合を重ねるにつれて高い位置でボールを奪ったりクリアに近いボールを蹴らせたりする回数は増えてきている。

主力が揃った時に、プレシーズンの若手と同じように走らせることができるかどうかはわからない(率直に言えば、ベニテスの経歴から考えて、アンチェロッティとは違いそうした人身掌握に苦労するのではないかと思ってはいるが)奪われた後に奪い返すプレスが定着すれば、前線の攻撃力を大いに生かせることになる。

3つ目はピボーテの攻撃参加。

前線からの守備に注力するためチームの重心は高くなり、ピボーテも高い位置に進出する機会が増えている。そして、カゼミロが加わったことで、実質的にクロースとモドリッチの組み合わせしかなかった昨シーズンから比べると選択肢が増えたといえる。

そのため、モドリッチだけでなく、クロースもエリア付近に顔を出せるようになった。クロースが組み立ての際の捌きだけでなく、高い位置でも攻撃にアイデアを出せるようになると、モドリッチの負担を減らせるかもしれない。

4つ目はマイボールの時のGKの使い方。

カシージャスの時はキック精度が低く、下げると相手ボールになる確率が非常に高かった。敵も分かっているので、ロングボールを蹴らせてボールを回収しようとすることが多かった。特にCLのようなレベルの高い試合では、こうして高い確率でボールを失う形があるのは明らかなマイナス。

確かに、マドリーも万全であれば多少のプレスはかいくぐるだけの技術はある。特にモドリッチが問題なければ、彼だけで2、3人を外すことも珍しくはない。

だが、一時期のバルセロナのようにきちんと追ってこられると、カシージャスに下げてロングボールを蹴る他なくなり、攻撃が繋がらなくなって自陣に逼塞してしまうことがあったのも事実だった。

その点、ケイラー・ナバスとカシージャはどちらもパス精度はまずまず。ハーフライン手前くらいの味方にはきちんと届けることができる。そのため、味方が以前より積極的にGKを使ってボールを繋ごうとするプレーが多く見られた。

まだまだ連携の面で不慣れなことも多く、11人目のフィールドプレーヤーとして万全の形とはなっていないが、GKからボールを失う確率が下がりそうな状況。監督の指示があるかどうかはともかく、カシージャスの退団により必要に迫られつつも変化を見せていると言える。

■課題

プレシーズンで見えた最も大きな課題は、誰がゴールするのか、ということ。

上でも少し触れたように、ベンゼマロナウドを欠いた状態では、サイドからの崩しでチャンスを作っても、それをゴールに決められる位置に入れるプレーヤーがいなかった。

もちろん、ベンゼマロナウドが入ってくれば彼らが解決する部分もあるだろう。だが、これまでとは違い、ローテーションを積極的にしていくと言われている今シーズンは、彼らを温存して臨む試合があるかもしれない。その時に、彼らの代わりにゴールを決める役割を担えるプレーヤーは、このプレシーズンでは出てこなかった。

ベンゼマに次ぐフォワードの補強如何では解決するかもしれないが、デヘア問題の解決に時間を要しており、残り時間はあまり多くない。ギリギリのタイミングになると、タイプなどを考慮せずにとにかく契約しなければならなくなるので、チチャリートのように結局うまく使えないままになる恐れも高まる。

このプレシーズンの状況を考えれば、点を取るプレーヤーはそれなりに時間をかけて選ぶ必要があると言える。

前線からの守備に関しても、完成はまだまだ先。

現段階ではそれなりにうまくいっているが、同じことを主力の面々にやらせることができるかどうかはわからないし、それをシーズンを通して続けられるか、ということになると、不安は尽きない。サボるプレーヤーが出てくれば、程度力のあるクラブならかされてしまうだろう。

マドリーの前線は守備に関しては勤勉とはとても言えない。彼らをチームのために走らせることができなければ、中途半端なプレスで裏を取られてばかり、ということになりかねない。

主力を含めて、こうした守備を浸透させていかなければならない。

最後に、ベイルの取り扱い方も早めにはっきりさせなければならない。

本人に右サイドでのプレーに不満があったこともあり、今シーズンここまでは中央で多く試されているが、たまに挙げるゴラッソのほかは存在感が薄い。昨シーズン半ばから、チームの調子の低下とともに彼のパフォーマンスは低空飛行を続けており、トンネルの出口は未だに見えていない。

スペースのある状態でボールを預ければスピードを生かせるだろうが、今のマドリーは彼のチームではない。加えて、個人的には、ポジションの問題というより、精神面がプレーに与えている影響が大きいと考えている。

加入当初のシーズンは、もっと思い切りがあり、自分のためのチームだったトッテナムから入ってきていろいろと変化があり、不都合なことも多かっただろう中で何とかしようというプレーが見られた。右サイドでえぐって右足でクロスを入れることも努力しているように見受けられたものだ。

ところが、昨シーズンに入ってからは、そういう選択が少なくなり、左足で得意な形に持ち込もうすることが増えた。それで結果が出れば良いが、簡単な場面でのミスが目立ち叩かれるようになってしまい、思い切りがないプレーヤーになってしまっている。

そうした状況にも拘らず、ペレス会長の肝いりで契約したプレーヤーであるがゆえに半ば先発は確約されてしまっている。それは彼自身にとってもチームにとっても不幸なことだ。

プレシーズンを見ると、この厄介な問題は継続している。ベニテスは、何とかして早くベイルをチームに組み込まなければならない。出さざるを得ないのであれば、ポジションも精神面も、クリアにしてピッチに送り出さなければならない。

■まとめ

こうしてみると、ベニテスのやろうとしている形は比較的オーソドックスなスタイルであり、彼独自の強いカラーが出ているというよりは、現代的で効率的なチームを作り上げようとしているように見える。プレシーズンで見えてきたこの形は、私は好意的に捉えている。

また、新加入の面々のうち、ダニーロは先発の座を奪える素晴らしい出来だし、カゼミロはモドリッチとクロースに次ぐ立場を作れそう、チェリシェフ、ルーカス・バスケスも両サイドのポジションである程度できることを示した。

今後の移籍もありうるが、チーム全体の底上げが図られており、実質的に13,4人しか計算できなかった昨シーズンから比べれば層は厚くなっていることは明らかだ。

そこに、マドリーらしい問題が立ちはだかっている。

オフの補強や守備が計算できない前線といったことは、歴代の監督が悩まされてきた問題であり、ベニテスも目指す形を作り上げるためにはこうした課題を解決していかなければならない。

目指す方向は良く、うまくいけばマドリーにはまる形を提示しているが、そこに至るための問題解決能力があるかどうかが問われているといったところで、ここからベニテスのビッグクラブでのチーム運営手腕が問われることになるだろう。