ついにカンプノウを静まらせることに成功したマドリー。簡単に振り返る。
■マドリーの先発メンバー
GK:カシージャス
MF:ケディラ、シャビ・アロンソ;ディマリア、エジル、ロナウド
FW:ベンゼマ
73分:ディマリア→グラネロ、88分:エジル→カジェホン、89分:ベンゼマ→イグアイン
並びはいつも通り。コエントランは名誉挽回の機会を与えられた。
■バルセロナの先発メンバー
GK:ビクトール・バルデス
FW:アウベス、メッシ、テージョ
69分:シャビ→アレクシス・サンチェス、73分:アドリアーノ→ペドロ、8分:テージョ→セスク・ファブレガス
3-4-3でスタート。メッシは中盤に降りて、両方のウイングが張り出す形。
■アウベス中心のバルセロナ、コエントランが頑張れたわけ
最初にバルセロナのやり方から。
3バックの前にいるのはブスケツ。低い位置のときは、ここにシャビとチアゴが近づく。高い位置の時は、シャビはもっと前でパスを捌き、チアゴはブスケツと前線を繋ぐような感じ。
イニエスタは左に開いていた。若いテージョの側にいて、パスを下げるところを作ってあげたり、逆に縦へスルーパスを出してあげたり。
バルセロナの攻撃は、この右サイドから。右にプジョルがいるということも理由だろうし、イニエスタが左にいるということも理由だろう。だが、一番の狙いはアウベスに広いスペースを与えてコエントランと勝負させることにあった。
バルセロナの3バックの強みはここだし、マドリーのバイエルン戦を見れば、ここを狙いどころとするのは当然。だから、左に寄せて、大きくサイドを変えてアウベス、そしてメッシの絡みを狙っていた。
それに対するマドリー。
バイエルン戦と同じであり、いつも通りの形である4-2-3-1だったが、守備に対する意識は全く別物だった。
バイエルン戦ではロッベンを相手して終始劣勢だったコエントランだが、アウベスに対しては落ち着いて対応。簡単にクロスをあげさせず、出されてもしっかり反応して体に当てていた。
この出来の違いの訳は非常に気になるところ。考えられる理由はいくつかある。
1つめは、相手がロッベンではなかったから。
この位置で仕掛けさせたら世界で最高の選手の1人であるロッベンと、アウベスでは単純に差があったということは考えられる。
2つめは、バイエルン戦後のモチベーション。
ああいう決定的な失敗をした後に継続して使ってくれることに対して何も思わないわけはない。挽回したいと思っているところで、すぐにそのチャンスを大きな試合で与えるモウリーニョの起用に対して、コエントランに期するものがあったのではないだろうか。
3つめは、チームの約束があることの安心感。
バイエルン戦では1対1の場面が多かったが、この試合ではシャビ・アロンソは寄ってきてくれるし、その後ろにはケアできる距離にセルヒオ・ラモスもいた。さらに、遅らせれば前線が必ず帰ってきてくれるという安心感もあって、コエントランは、自分の役割を限定してその中で頑張ることができていた。
こうしたことから、コエントランはアウベスにしっかり対処。スペースを作られてボールを動かされても、ここから大きなチャンスを作らせることはなかった。
■メッシへの対応
メッシへの対応のルールは2つ。スピードに乗らせないこと、ワンツーをやらせないこと。
メッシは、バルセロナの型としてセンターフォワードの位置から中盤に降りていくので、特にマドリーが前に出て行きかけた時はスペースがある状態でボールが入りやすい。その時は、カードなしのファールならやむなしという姿勢で対応。
エリア周辺では、基本的にはピボーテが見ていて、ずれた時はセンターバックが寄る。中央に入って来る時は、逆サイドのピボーテも挟みに行って、ドリブルのスペースを消していた。
ワンツーをやらせないのは、その延長線上にあるもの。エリア周辺で前を向かせると誰かに当てて抜け出すプレーが出るので、そういう状態にさせない、つまりドリブルは横方向に仕向け、狭い4-2の間から脱出させないようにさせた。
こうしたやり方はおおむね成功した。エリア周辺で持たれても、メッシがゴール方向に向けず、結果としてマドリーの守備陣形の中に楔を打ち込むようなパスやドリブルはほとんどなかったといって良い。
スピードに乗られたのは、同点のシーンを含めて数回、エリア周辺での細かいパスは、出されても対処できる範囲。
シャビが抜け出したシーンでは、セルヒオ・ラモスが応対に出てそこにシャビが入った形だったが、ドリブルでずらされて、という決定機はこれくらいだった。
■全体の落ち着き
こうした対応をするためには、チーム全体として守備をできないといけない。だから前線の4人も頑張って戻ってくる必要があるのは、これまでの経験からも明らか。
その点では、今日のマドリーは非常に勤勉だった。今までもそうだったかもしれないが、今回は特に、守備に戻ることに納得してプレーしていたように感じた。
精神的な落ち着きは、その他のプレーにも現れていた。
明確なクリアで守備をやり直せていたこと、球際での冷静な競り合いなどは、これまでとは全く違うものだ。
確かにファールは多かったが、これまでとの違いは、攻めに出なければいけないと焦り、相手の前で取ろうとして激しく行ってしまうようなプレーがなかったこと。
バルセロナの中盤は上手いので、足が届きそうで届かないような位置にパスを出してくる。これまではそれに乗ってファールを重ね、カードもかさんでいたが、今日はギリギリの所では無理をせず待ち構えるやり方を徹底できていた。
布陣をいじらなかったこともあるのだろうし、勝ち点差が4あったこともあるのだろうが、普段のやり方に近いものを高める形でプレーできたことで、マドリーは90分を通して落ち着いた試合運びが出来ていた。
■試合展開をざっと
試合は17分にマドリーが先制。
コーナーをペペが落とし、プジョルのクリアに時間がかかったところをケディラが押し込んだ。ペペとアドリアーノのマッチアップになっていたところに良いボールを届けられた。バルデスはファーへのボールに出かかって失敗。
前半、マドリーは良く凌いで1-0。後半になっても打開できなかったバルセロナはシャビを下げ、アレクシス・サンチェスを投入。
メッシははっきりと中盤になり、サンチェスがセンターフォワードの位置。シャビを下げたのは、CLを睨んでのことでもあるだろう。
そして同点の場面。メッシを自由にさせて、スピードに乗らせてしまった数少ない場面の一つ。カード覚悟でのタックルも届かず、テージョのシュートのこぼれ球をサンチェスに押し込まれた。
低い位置に動いたメッシを、巧手の切り替えの中で捕まえ損ねた。ハーフラインに近いような位置から一気に持ち上がれるメッシの能力はさすが。
テージョはフリーの場面で若さを露呈していたが、ここでは抑えたシュートを放てた。アルベロアとの1対1はアルベロアの完勝だったが。
その直後に勝ち越し。
ディマリアが奪った後、サイドでフリーになっていたエジルへ。エジルは、駆け上がったディマリアの一つ前で走っていたロナウドへスルーパス。ロナウドは落ち着いてバルデスをかわし、ゴールを決めた。
バルセロナがようやく報われて、攻められると思ったところだっただろうが、スペースができていた。奪ってからの速い攻め、ディマリアは何度かチャンスをつぶしていたが守備で頑張り、サイドのスペースで待っていたエジルはしっかりロナウドへパスを通した。
その後、メッシ対策として、守備的な選手ではないながらも中盤にグラネロを入れて人数を確保し(カード覚悟のファールで一度メッシをとめた)、守備に頑張ったエジルを下げ、最後は時間稼ぎでイグアインを入れる磐石の交代策で逃げ切り。
バルセロナはアドリアーノをペドロと替え、より慣れた4-3-3に変更し、テージョをセスクに替えて攻撃的に出るも、今日のマドリーの集中力はバルセロナを上回った。
終盤は危ない場面を作られるよりも、得点を取っておきたかったと思わせるほどの数的優位なカウンターを出すほどのプレーを見せ、2-1で勝利した。
■もろもろ
バルセロナの出来は良くなかった。簡単なパスのずれはしばしば見られたし、CLも見据えたチアゴやテージョの起用はマドリーにとって幸運だった。
しかしながら、相手の事情はともかく、奇策を用いることなく、今までのやり方を昇華させる形で勝利したことは、マドリーにとって非常に大きな出来事と言っていい。
これまでのシーズンにやってきたことが間違っていなかったと実感できることは、大きく、長くチームに良い影響をもたらすだろう。
そして、ロナウド。
ここぞという試合で結果を残せず、サポーターは悲しんだし、本人は悔しい思いを持ち続けてきただろう。だが、ここに来て、アトレティコ戦、バルセロナ戦と、試合を決める場面でゴールをあげてくれた。
いろいろなものを背負って苦労してきただろう彼だが、これで少し楽に慣れただろう。
この試合での彼は、間違いなく信頼を寄せるに足る男だった。
■まだまだ続く
残り4試合で勝ち点7差となり、リーガは非常に有利な情勢となったが、セビージャ戦、サンマメスでのビルバオ戦もあり、油断は禁物。ミッドウィークにはCLも控えているため、この勝利を一つのステップとして、シーズンの最後を戦ってもらいたい。
バイエルン戦には、今日と同じ集中力をもって臨む必要があるが、きっと問題ない。今日の勝利を受けて、ベルナベウはチームをきっと後押ししてくれるだろう。