ついにこの日がやってきた。
12年間待ちわびた1つの勝利をようやく掴んだこの夜を振り返る。
■マドリーの先発メンバー
GK:カシージャス
DF:カルバハル、バラン、セルヒオ・ラモス、コエントラン
59分:コエントラン→マルセロ、ケディラ→イスコ、79分:ベンゼマ→モラタ
結局ペペは間に合わず。左サイドバックはコエントランを選択し、ピボーテは予想されたイジャラメンディではなく、ケディラ。
■アトレティコの先発メンバー
GK:クルトワ
FW:ジエゴ・コスタ、ビジャ
10分:ジエゴ・コスタ→アドリアン、66分:ラウール・ガルシア→ホセ・ソサ、83分:フィリペ・ルイス→アルデルワイレルト
ジエゴ・コスタは先発。当初はどちらかと言えば軽傷と思われたアルダが間に合わず、ベンチにも入らなかった。
シャビ・アロンソが出場停止だったマドリー。後継者となり得るパサーであるイジャラメンディが先発するものと思われたが、負傷から帰って来てそれほど多くの出場時間があったわけではないケディラが先発。
この起用の意図は、まず守備をしっかりしたいというところ。
マドリーがアトレティコの状況をどこまで逐一把握していたのかはわからないが、ジエゴ・コスタが間に合うかもしれないという話は試合前まで報道されており、出場する可能性を考えていたのかもしれない。
彼やラウール・ガルシアに入るハイボールに対しての対応が甘いと、落としたボールをコケやビジャに拾われ、乱れた守備陣で守らざるを得ない形を作られる。
それを防ぐためにケディラというのは、彼のコンディションの不安を除いては理に適っている。
ただ、シャビ・アロンソにはまだまだ及ばないイジャラメンディよりもさらに攻撃面で制約がかかってしまう起用であるのは明らか。
彼が縦に効果的なパスを入れることは期待できない。安全なパスが多くなるので、モドリッチの負担が増える。そして、そうして時間をかけている間にアトレティコは速やかに守備ブロックを整えることになる。
マドリーがシーズン後半に勢いを得たのはシャビ・アロンソの復帰によるところが大きく、彼のようなプレーヤーが底にいることがマドリーの前提だったのだが、それに拘らずケディラを使ったことは一つの大きな賭け。大きな試合で攻撃よりもまずは安定した守備を考える慎重な決断だった。
全くの結果論だが、失点の場面でゴディンに競り負けたのはケディラ。ああいうところで頼みにしたいプレーヤーが失敗してしまったのは、アンチェロッティにとっては大きな誤算だっただろう。ジエゴ・コスタが早々に下がってしまったこともあって、彼の役割は早い時間で終わった。
アンチェロッティの決断は理解するべきだろう。相手の強いところを消して試合に入りたいという考え、安定を追求した発想でマドリーはトーナメントを勝ち抜いてきたと言っても良い。結果としてはうまく行かなかったが、考え方は支持したい。
9分に下がったジエゴ・コスタについては、未だにハムストリングが治っていないとアスが報道している。シメオネが彼のコンディションを把握した上で出場を認めたことは明らかで、交代の際の淀みなさを振り返っても、この程度が限度とわかって送り出したように思われる。
特別痛めるような接触があったとか、違和感を訴えたというような場面はテレビでは確認できなかったが、満足に走れないし飛べないというのは見て取れた。一週間チームを見てきた監督がそうであることを理解していないはずがなく、あわよくば前半一杯などという希望だけで、今後もキャリアの続くプレーヤーを出すことはしないだろう。
彼のプレーではなく、交代枠を1つ使うことを厭わず彼の姿をピッチに出すことで得られるチームの精神的な高揚を期待したものだったと私は考えている。
もちろん、彼をベンチに置いたうえで言葉でチームの気持ちを動かすというのも選択肢ではあるが、交代枠という明らかな損を出してまでというところに、シメオネのチームへの思いと、監督としての現実的な姿、チームの気持ちを高めるにはどうしたら効果的かを常に考える姿の両方を見る。
■攻撃を作れない前半と交代策で流れを変えた後半
ケディラを起用したマドリーは、上でも触れたように攻撃面での強みをいくらか捨てている。そのため、ボールを前に運ぶために手数がかかることになり、アトレティコは守備陣形を余裕を持って整えることができていた。
相変わらず高い位置でも追ってきていたが、奪う守備と遅らせる守備の使い分けがしっかりしており、マドリーは速攻でゴールに迫ることができない。
一度8人か9人が形を作ってしまうと、中央でアイデアを出せるのがモドリッチしかいないマドリーの攻撃はサイドのみ。アーリークロスは入るもののそれ以外の選択肢がないことから、アトレティコは守りやすく、前半は何も起こせなかった。
ゴディンのゴール以降、アトレティコは当然ながらやりやすくなった。まずはしっかり守れば良く、考えがはっきりしたことで動きも良くなった。マドリーはそれほど焦っていたわけではないが、奪われた後のプレスはバラバラ。アトレティコのパス回しの良い鬼になるばかりで、高い位置で奪えそうなことはなく、ロナウドとベイルが輝く場面がないままに前半が終わった。
マドリーの最初の手は、59分のマルセロとイスコの投入。
コエントランは悪くなかったが、より攻撃的に振舞えるマルセロの投入で左サイドの活性化を図った。ケディラの役割が終わっていたことは先程触れたとおり。追いかける展開では彼がいる意味は薄く、ボールを持てるモドリッチとイスコの2人で中盤のボールを支配することを選択した。
アトレティコはリードしているものの、モドリッチとイスコからボールを奪うのは非常に難しく、そこから両サイドに振られ続けるとさすがに疲れてくる。彼らと相対した時の守備の徒労感は想像できないほどだ。前半から頑張っていたこともあり、アトレティコはじわじわとラインを下げて守りに専念するようになっていく。
66分にラウール・ガルシアを下げホセ・ソサを入れたことには、中盤の運動量を回復する意図があっただろうが、前線でターゲットになり得る彼を下げたことで、この流れは決定的に。
アトレティコは両サイドのコケとホセ・ソサ、そしてガビあたりが独力で持ち上がり、陣地を回復するしか手段がなくなっていき、70分以降はマドリーが1点を求めて攻めまくる展開になっていった。
アトレティコがすばらしかったのは、この難しい時間帯をギリギリまで耐え抜いたこと。並のクラブならばもっと早い時間に同点ゴールを許していてもおかしくない。あの状況で20分以上も凌いだことは、アトレティコがリーガの優勝、そしてCL決勝にふさわしいクラブだったことを証明している。
マドリーの同点ゴールはアディショナルタイム2分台。
モドリッチのコーナーにセルヒオ・ラモスが一瞬フリーになって合わせた。ニアでロナウドとベイルがつぶれ、その後ろからセルヒオ・ラモスが飛び込んだ。ティアゴのマークをわずかに外して、クルトワの守るゴールの隅に決め、猛攻を実らせた。
残された時間は僅かで、互いに無理することなく90分を終え、延長へ。
■走り勝って
延長のポイントは、どちらが走れるか。
互いにギリギリの状態で、走るべき時に走れる方がチャンスを得るし守りきれるという、ある意味で単純な戦いに。
ここで先にダウンしたのがアトレティコ。追いつかれたダメージはもちろん、シーズンをプレーヤーを固定しつつここまで戦ってきたこと、先週末にバルセロナとの最後の試合を戦ったことも影響しただろう。足が動かなくなったプレーヤーはアトレティコの方が多かった。
マドリーには追いついた勢いがあり、先週末を捨てられたというコンディションの差があった。延長に入ってからは、前半あれだけ苦しめられたルーズボールの出足でマドリーが完全に勝るようになり、攻撃する時間をたっぷりと得ることができていた。
追いついたマドリーはここで一気に勝ち越さなければならなかった。
追いつかれた側が凌いでPK戦に何とか持ち込めば、流れがまた逆になるのは、しばしばある話。凌ぎきった達成感と、勢いで押し切れなかった疲労感が作用する。
そうなる前になんとしてもゴールが欲しかったが、延長前半はゴール前での場面をものにできなかった。
待望の2点目は後半の110分。
カシージャスのロングキックはティアゴの元へ飛んだが、フリーだったティアゴが考えられないようなコントロールミス。こぼれたボールをモラタが拾って左サイドのディマリアへ。
ディマリアはサイドラインギリギリでティアゴとフアンフランに囲まれながらボールを運び、中へ切り込む。フアンフランの出した足をダブルタッチでかわし、左のアウトでシュート。これはクルトワが弾くがボールはファーポストにふらふらと上がり、ベイルが頭で押し込んだ。
この時間でこのドリブルができるディマリアのスタミナは本当に素晴らしいが、マドリディスタにとっては、彼のこの働きはもはや驚きではない。
’10~’11シーズンのバルセロナとのコパデルレイ決勝で見せたロナウドへのアシストをはじめ、誰も走れないはずの時間に普段どおりのようなプレーを見せてくれるのがディマリアだ。彼の貢献はどれだけ評価しても評価し足りない。
そんな彼のドリブルを見捨てず、きちんと中で走っていたベイルも偉い。最後はアルデルワイレルトから消えて、難しいヘディングを枠に入れ、ここまで外してきたシュートの数々を帳消しにした。
そもそもこの得点シーンは、深い位置まで戻ったロナウドが繋いだところから始まっている。彼が守備に走り、ディマリアとベイルもゴールに向かって走った、この運動量が、2点目を生んだ。
119分にはマルセロが持ち込んでエリアに入ったあたりからシュートを決め3-1とし勝負あり。前半からしっかり走り、70分頃からは守備に奔走して何とか頑張ってきたアトレティコだが、最後は厳しかった。
120分には、これまでの判定からすれば非常に緩いペナルティをもらい、ロナウドがきちんと決めて4-1。
後半アディショナルタイムからの劇的な展開で、マドリーがヨーロッパの頂点に立った。
■最後に
アトレティコの戦いぶりは本当に素晴らしかった。セットプレーからゴールを許したが、70分頃からの厳しい時間帯を凌いでいたこと、延長前半も耐えて望みを繋いでいたことはものすごいこと。
最後の最後に陥落したが、走りぬいて動けなくなる様は、全く無様ではなく、マドリディスタから見ても美しかった。
さて、先に触れたように、チームとしてのコンディションとしてはマドリーの方に分がある状態であり、マドリーが最後には走り勝ったのはある意味で当然の結果とも言える。
だが、これまでスターの寄せ集めのような言われ方をし、現に走らないチームだったことが多かったマドリーが、これほどまでになったことは、クラブの長年の試行錯誤と、今のチームの努力の賜物であり、簡単にこの姿になったわけではない。12年の苦闘を経て、ようやくこの試合に勝つに値するチームになったのだ。
本当に素晴らしい!
10回目で満足するのではなく、11回目、12回目を目指すのがマドリーというクラブ。歩みを止めることはできない。W杯のある夏を経て、来シーズンにすぐ目を向けていかなければいけない。
それでも、しばらくは喜びに浸ることもいいだろう。しばしこの歓喜を味わって、そうしたらまた次の勝利へ向けて進み始めてもらいたい。
その歩みを、私は見続けていきたい。