レアルマドリードのある生活

レアルマドリードの応援日記。試合中心にお送りします。

CL決勝 vアトレティコ

2年前の決勝は、ロスタイムの同点ゴール、延長後半の素晴らしいディマリアの突破からのゴールと、劇的な展開でアトレティコを破った。今シーズンは、また違った形で劇的な結末を迎えることとなった。

■マドリーの先発メンバー

GK:ケイラー・ナバス

DF:カルバハル、ペペ、セルヒオ・ラモス、マルセロ

MF:カゼミロ;モドリッチ、クロース

FW:ベイル、ベンゼマロナウド

52分:カルバハル→ダニーロ、72分:クロース→イスコ、77分:ベンゼマルーカス・バスケス

先発組に出場できなくなったプレーヤーはおらず、今シーズンのベストメンバーを並べることができた。

アトレティコの先発メンバー

GK:オブラク

DF:フアンフラン、ゴディン、サビッチ、フィリペ・ルイス

MF:サウール、ガビ、アウグスト、コケ

FW:トーレス、グリースマン

46分:アウグスト→カラスコ、109分:フィリペ・ルイス→ルーカス・エルナンデス、117分:コケ→トーマス

アトレティコもほぼ変化なし。ただ、ゴディンの隣はヒメネスではなくサビッチとなった。

■いかにしてアトレティコを打ち破るか

アトレティコの4-4-2を崩すのが非常に難しいのは最早世界中が知るところ。ボールを持ってこれにまともにぶつかるのは、かなり分が悪い。バルセロナのようにポゼッションに特化しているチームでようやく何とかなるかといったところで、マドリーがいかに個人の能力に優れていようと、遅攻の面では組織的な錬度も技術も足りないのは明らか。

そのマドリーがいかにアトレティコの守備を打ち破るかという課題に対し、ジダンが出した回答は「必要以上にボールを持たない」というものだった。

ボールを持ったら前に蹴りまくる、かつてのモウリーニョによるバルセロナ対策ほどではないにせよ、プレスがかかって落ち着かなくなりそうな場面では無理せず前線へ出す。また、中盤でも前線を狙える時は手数をかけずに狙う。

これらのボールが通ればいいし、ダメでもアトレティコの攻撃のスタート位置は低くなる。逆にマドリーはアトレティコの攻撃を受け止めてカウンターに出るチャンスを得られるようになる。

プレスが執拗で引っかかると危なく、また下がられると崩すのが非常に困難になるアトレティコの守備の良さを出させず、逆に得意な攻撃パターンに持ち込むチャンスが増えるこのやり方は、今のマドリーがアトレティコを上回るためには最適な答えだったと言えるだろう。

だが、問題もいくつか。

まず、どうしてもボールを持ちたくなってしまうチームであるという根本的な矛盾がある。マドリーが簡単にポゼッションを放棄するには、それ相応の条件が必要で、そうでなければボールを持って主導権を取ろうとすることになる。ジダンもポゼッションを重視すると述べており、チームとしての目指すところはそういう形。とはいえ、先程触れたようにそのための錬度は全く足りない。そうした状態でやりたいプレーだけを目指すことは、アトレティコ相手には良い手とはいえない。

元来の持ちたがりをどう抑制するかが1つ目のポイント。

2つ目に、守備の不安がある。

速攻ほど危険性はなくとも、アトレティコの攻撃をきちんと受けて攻撃に繋げるためには相応の守備の強さが求められる。前線に人を残している余裕はなく、特にサイドのスペースを丁寧に埋めないと、サイドから崩されてクロス、大きく跳ね返せず波状攻撃を受ける、という形が容易に生まれてしまう。

きちんと人を割いて守備を続けることができるかが次のポイントである。

1つ目の問題については、ジダンはかなりうまくチームをまとめていた。

彼自身の理想とするスタイルではないし、プレーヤーもやりたいプレーではない。一歩間違えば機能せずばらばらになりかねないところを、この大一番で実行させることができたのは、彼の求心力の賜物。

もちろん決勝だからという点もあるが、それを差し引いても、こうしたスタイルで臨むことを実現できたのは彼の力による。彼の監督としての長所、現役時代の栄光から来るカリスマ、信頼感といったものが強く作用した。

守備面では、カゼミロの起用によって中盤の安定感を得た。

彼は今シーズンポルトから帰還、トップチーム登録となって、ベニテス期の重用、ジダンとなって一旦控え、そこから再び不動の地位を得るというジェットコースターのようなシーズンを送ってきたが、そうした経過とは裏腹に、プレーは波がなく堅実。

きちんと相手に寄せてボールを奪えるし、流れを読んでスペースを埋める仕事をきちんとこなし、その後は無理をせず周囲の味方にボールを預けてリズムを作っていた。

サイドは、ベイルが右に戻り、クロースが左に出て4-4-2となるのが基本。位置によってはロナウドが低い位置に入ることも。ただ、これは曖昧。サイドのスペースは放置され、アトレティコに付け入る隙を与えていくことになる。

■先制するも、徐々に・・・

立ち上がり、アトレティコは思うように守備がはまっていなかった。また、マドリーがファールが欲しいところで主審が笛を吹いてくれていたのもあって、マドリーのペースというほどではないが、アトレティコにやりやすさを感じさせない入り方となった。

そんな中、セットプレーでマドリーが先制に成功。

15分、低い位置ながら得たフリーキック。クロースがエリアにボールを入れると、ニアでベイルがそらし、最後は混戦の中セルヒオ・ラモスが押し込んだ。ビデオでようやく分かるといったレベルではあるものの、ラモスの位置はオフサイドで、幸運なゴール。

流れの中で得点するのが難しい相手に対し、セットプレーによる理想的な形で、早い時間に先制点を挙げた。

こうなると、ボールを持たないマドリーのやり方が生きてくる。得点のために無理をする必要がなくなり、マドリーは当初のやり方を徹底できる展開に。

だが、前半の時点で既にサイドの守備の不安定さを露呈。前線の3人の戻りが遅くなり、4-3でアトレティコの攻撃を受けることが多くなった。

こうなると、サイドを出発点に守備がずれていくことになる。中盤が3人で何とか凌いでいたが、これで最後まで持つとは信じられなかった。

また、想定外だったのは、守備後の攻撃で前線が存在感を出せなかったこと。

戻らないならば攻撃で力を発揮して欲しかったのだが、ベイルはまずまずだったが、ロナウドベンゼマは何もできず。少人数で高い位置までボールを運び、うまく行けばシュートして終わりたいところ、ずっと早く奪い返されてしまって、セットプレーを得るなどして攻撃に転じる機会を逸することになった。

アトレティコの攻勢

アトレティコはマドリーのサイドをつくべく、後半頭からアウグストを下げ、カラスコを投入。このあたりのシメオネの判断はさすが。

48分、トーレスがペペのファールを受けペナルティ。

ここはグリースマンのキックがバーを叩く幸運。マドリーは事なきを得る。

しかし、マドリーのサイドに不運が襲い掛かる。52分、カルバハルが負傷で涙ながらの交代。ダニーロを緊急出場させることになった。ダニーロは今シーズン前半にスケープゴートにされ、そのために積極的なプレーが鳴りを潜め、もともと特長ではない守備で問題となってしまうという悪循環に陥った。そうした流れから来る評判よりもっとやれると個人的には思っているのだが、この試合では守備での欠陥が大きすぎた。

カラスコに良いようにあしらわれ、危険な場面を増やすことになってしまった。

マドリーがボールを手放すことでアトレティコの長所を消し、逆にマドリーが速攻のチャンスを得ようとする形は、当初はうまくいっていたし、幸運な先制点でよりうまく運ぶはずだったが、攻撃の鈍化と守備の不安の増大で、攻撃に繋げるのではなく単にアトレティコの攻撃を受け続けるだけに変化して、後半は完全にアトレティコのペースとなってしまった。

このように、早い時間にリードを得て、その後ペースを落とすのは、リーガでも年に何試合か見られるマドリーの悪癖。勢いを生かすのではなく、何となく大丈夫と錯覚してギアを落としてしまう過信が、自分達を苦境へと追い込むことになる。

立て直しを図るジダンは、72分にクロースに代えてイスコ、77分にベンゼマに代えてルーカス・バスケスを投入。前者は中盤の運動量の回復、後者は明らかにサイドに蓋をすることを意図。逃げ切りのために、早めに手を打った。

交代策を施したすぐ後の79分、左サイドを崩され、フアンフランのクロスをファーに走りこんだカラスコが押し込んで、アトレティコが同点に追いつく。

やはりサイドからの失点。せっかく対応したはずが、早々に懸念どおりの得点を許した。交代枠を使ってしまったということもあり、一気に窮地に追いやられることに。

交代が早すぎたという結果論はあるだろう。確かに、イスコの投入はメリットが少なく、後に取っておいても良かったのではないかとも思う。

思えば、ジダンの監督としての師アンチェロッティは交代のタイミングを待ちに待った。その結果遅すぎて機を失うこともあった。そこから、ジダンは逆に打てる手は早めに打つという考え方を作ったのかもしれない。実際、彼は終了間際にバタバタとやり繰りすることは少ない。

交代はいずれにしても結果論で語ってしまいがちなもの。1-0の展開で、逃げ切りのために素早く手を打つことを選択したジダンのやり方と決断を尊重したいと思う。

さて、残り10分あまりとなり、アトレティコとしては完全に受身に回ったマドリーから決勝点を奪いたかったところ。

前回の決勝とは逆に、マドリーが出て行けず、そこにアトレティコが攻撃を続けるという展開になり、しかも前回とは違い既に同点。一気にしとめられても何の不思議もなかった。

マドリーは、ここで何とか粘ったことが大きかった。延長に持ち込めたことで、少し流れを持ち直すことができた。

■疲労との戦い、PKへ

延長に入り、互いに足が攣るプレーヤーが続出。

マドリーはベイル、ロナウドが明らかにダメージを負い、前線が完全に停滞。交代もできず、何とかプレーを続けるという状況に。

アトレティコもさすがにペースダウン。2枚残していた交代も、フィリペ・ルイス、コケと、負傷がらみで使用することになってしまった。

この状態で、どちらも決め手を欠いたことを責めることはできないだろう。試合としては互いに耐えるのみといった様相となったが、ここまでのプレーならば致し方なし。

ただ、マドリーに関して言えば、同様の状態だった前回、延長後半にアトレティコの守備を切り裂いたディマリアの代わりは、結局いないままなのだなと感じるのも事実。何しろ彼は途中出場ではなかった。先発して疲労困憊している中でも、ここぞという場面で得点に繋がる力を発揮できるプレーヤーは今のチームにはいなかった。その事実を見て、ディマリアへのノスタルジーと相まって、少し寂しい思いになった。

試合は120分で決着がつかずPKへ。

マドリーはルーカス・バスケス、マルセロ、ベイル、セルヒオ・ラモスと続けてゴール。皆オブラクをきちんと外し、冷静に蹴り込んでいた。途中出場のルーカス・バスケスは精神的に、それ以外の面々は肉体的に非常に困難なペナルティキックだったが、ここで落ち着いてやれたのは素晴らしい。

アトレティコは後半に失敗したグリースマン、ガビ、サウールが決めた。グリースマンは失敗をものともせず。どちらかと言えばナバスの方が慌てていて先に動いてしまっており、止めるチャンスはなかったような状態。

アトレティコの4人目、フアンフランの場面。ここまでキッカーから見て右にとりあえず飛んでいたというようなナバスが、この対戦で左に動くことを選択。フアンフランはそのリーチの外を狙ったが、ポストに当たり、このPK戦唯一の失敗となってしまった。

マドリーは5人目のロナウドが右にきっちり。

厳しい試合をものにし、11回目のCL制覇を成し遂げた。

■最後に

マドリーは当初の目論見どおり行っていた流れ、セットプレーでの先制の幸運もあったにも関わらず、その流れを半ば自ら失った。サイドの守備の欠陥も修正されず、ビハインドながら前半途中からはずっとアトレティコのペース。

彼らからすれば、これで勝ちきれなかったのは残念だろう。終盤、マドリーを完全に押し込んでいたにもかかわらず、結局ゴールを奪えず、結局PKに持ち込まれてしまったという印象。

逆にマドリーとしては、よく1失点で凌いだ。

やりたい形でなくとも実践し、その後悪いなりに試合を運んで最後に結果を得る。トーナメントらしい割り切りだったし、とにかく勝利を目指すというマドリディスモに根ざしたプレーだったとも言える。

正直に言って、これほど早く11度目の優勝をすることができるとは思っていなかった。まして混沌としていた今シーズンにこのように栄光あるラストシーンが待っているなどと、誰が想像しただろうか。

頻繁にCL優勝を祝えるという経験がないので、個人的にも実感が湧かない。前回優勝のような待ちに待ったという感覚もなく、思ったよりもすぐに、しかもそんなことはないだろうと思っていたシーズンに唐突にやってきてしまったな、というような思いだ。

3年で2度のCL制覇というと黄金期のようだが、実際のところ全く安定していない不思議な状況は何と言えばいいのだろう。

来シーズンもまたドタバタするのだろうとも思うし、落ち着いて名実ともに黄金期を築ける予感もないけれど、今は、いろいろなことが起こりすぎたシーズンを乗り越えてきたチームを称え、この優勝を祝いたい。