負傷者だらけでアウェイゴールを得ての勝利。
アタランタが一人少なくなったことで、互いに準備してきたであろうことが見えないままに終わったが、大量失点もあるかと思っていたので、結果としてはまずまず。
今回はイスコの起用というサプライズがあったので、この点を中心にこんなメニューで。
■マドリーの先発メンバー
GK:クルトワ
DF:ルーカス・バスケス、バラン、ナチョ、メンディ
MF:カゼミロ;モドリッチ、クロース
FW:アセンシオ、イスコ、ビニシウス
57分:ビニシウス→マリアーノ、76分:アセンシオ→アリーバス、イスコ→ウーゴ・デューロ
週末はマリアーノが先発したが、CLではイスコが先発となった。
■アタランタの先発メンバー
GK:ゴッリーニ
DF:トロイ、ジムシティ、ロメロ
MF:メーレ、デ・ローン、フロイラー、ゴセンス;ペッシーナ
FW:サパタ、ムリエル
30分:サパタ→パシャリッチ、56分:ムリエル→イリチッチ、85分:メーレ→パロミノ、イリチッチ→マリノフスキー
セリエAで23試合53得点。首位のインテルに次ぐゴールを挙げている。パプ・ゴメスの移籍があったが、大きく揺れてはいないように見える。
ゼロトップのメリットとデメリット
ジダンは週末先発したマリアーノを継続起用せず、イスコのゼロトップを選択。
イスコの先発起用は昨年11月8日のリーガ第8節バレンシア戦以来のこと。
この試合は1-4と大敗しており、イスコやマルセロの退潮ぶりが話題となっている。
その後途中交代ばかりで、プレー時間の少なさに不満があると報じられているなか、この重要な試合で使う大胆さは特筆に値する。
折に触れてジダンが述べる「全員が戦力」という言葉は、普段はほとんど証明されない。
第一次政権の時から少数精鋭の起用が基本であるが、その言葉が建前でないことが突然このような形で示されるのだから、驚いてしまう。
さて、このゼロトップ、メリットとしては次のような点が挙げられる。
一方、デメリットとしては次のような点が挙げられる。
- フィニッシャーの不在
- 守備組織の不安定化
これらの材料をもとに、試合を振り返ってみたい。
メリットー左サイドを中心にー
流動性の点で中心となったのは左サイド。
ビニシウス、メンディのほか、イスコが顔を出し、モドリッチもクロースも参加する。時にはアセンシオも流れてくることもあった。
誰かが大外のポジションを取ることくらいが決まっていて、その他はぐちゃぐちゃ。誰がどうという決まりはないようで、出席者が入れ替わるパーティのようであった。
こうしてポジションを外して動き回ることで、アタランタのマンマークをずらす意図があったのだろう。
ベンゼマなら似たようなプレーにはなっていただろうが、マリアーノではこうはならない。
週末のバジャドリー戦では、中央で縦に勝負したいマリアーノを意識してボールを出していた。そのような形では厳しいという判断もあったのかもしれない。
プレーしてみると、モドリッチとクロースのところでアタランタのプレスをはがせることが多かった。普段通りのやり方でも、思ったよりリスクは少なく済んだ印象ではあったのは確かである。
ただ。同数でのプレーは20分に満たなかったから、同数で最後までやっていたらどうなっていたか、後半アタランタがどう対応していたかはわからない。
プレスへの対応をまず考える必要があると捉えた、準備の方向性としては理解できる。
ちなみに、左サイドの大外はほとんどの場合ビニシウスが担当。
ドリブルで進めていたので調子はまずまずといった印象だったが、内側のスペースでプレーする意識がないので、重要な役割を担えないままだったのが残念。
その分内側をよく使ったメンディが主役となったのは、ある意味で当然のことだ。
フロイラー退場の場面では、イスコが下りてできたスペースへ走り、大外のビニシウスのパスを受けたことで、ファールを誘った。
彼も当初は走力とフィジカルを生かし、外側のスペースを縦に行くスタイルだった。そのためビニシウスとしばしば被っていたものだが、ビニシウスより先に内側を使う動きを身につけたことで、差別化に成功している。
場所にとらわれずスペースを使って出ていくプレーができるようになって、存在感を増した。ボールタッチこそ違うが、動き方はマルセロのようになってきている。
デメリットー退場による変化ー
退場者を出したアタランタが前からの守備をやめたことで、マドリーはリスクが少なくなった。
ただ逆に、プレス対策で準備してきた形で得られていたメリットが少なくなったともいえる。ポゼッションで押し込めるようになったことで、フィニッシャーがいないデメリットが顕在化することとなったのだった。
アセンシオでもイスコでも良いのだが、ゴールに向かって走る動きがないと、動き回りはするが、結局は守備組織の外側に追い出されてしまうことになる。
いろいろ動いても最後のところはやらせなければ良いという守備に対し、急所を突いてくるイメージを与えられないと、守備は時間とともに慣れてくるもの。この形でプレーしていないので練度の問題もあり、大きなチャンスを作るまでにはなかなか至らなかった。
詰まった時の解決策であるクロスの選択肢もとりづらかった。
まず高さがないし、中央に人がいないこともしばしば。これでは継続的にボールを送り込むことはできない。さらに、エストレーモが逆足サイドにいることもあって、仮に中央に人がいたとしても、クロスを多用して圧迫し続けることは困難であっただろう。
アタランタは高い位置で奪うことはほとんど諦めていたものの、マイボールにできる可能性があるクロスがあれば人数をかけて出ていくことを準備していた節がある。
ずれを作るためにナチョが持ち上がったり、流れの中でメンディが右サイドまで出て行ったりしていることもあって、一気に走られた時に受け止められるかどうか怪しかった。
こうしたリスクを考えると、相手ボールになる可能性が高いプレーを選択することは難しかったと言わざるを得ない。
アタランタが一人少なくなったことで、ショートカウンターを受ける恒常的なリスクは減ったものの、得点を取るために相手の出方を利用することはできなくなった.
アウェイゴールはほしい。けれど、もともと点が多く取れるチームでない。
相手に合わせるのではなく、自分たちがリスクの負い方を選択して点を取りに行かなければならない状況は、今のチームにとって荷が重かった。
目標を示す交代
それでも、57分にマリアーノを入れたのは、点を取りに行こうという姿勢の表れだろう。
アリーバス、ウーゴ・デュロとカンテラーノスも使い、変化を意図した。
リーガでのジダンなら、特別良くはなくても悪くないなら、先発を信頼して無理に交代しない選択になりそうなところだ。
個人能力としてはレベルダウンしてしまうカンテラーノスを入れて、余計な不安定要素を抱える判断は、普段のジダンであればあまりしない。
イスコの先発起用もそうだが、ジダンはここで勝負する手が打てる。重いアウェイゴールがあるCLの勝負所を理解して、チームに示すことができるのだ。
その一方で、イスコとマリアーノをそのまま入れ替える交代にしなかった点は、面白い。
ターゲットになるプレーヤーは使いつつ、これまでの試合の流れを断ち切らないリスク管理も含んでの交代のように思われる。
アタランタは56分からイリチッチを使い、カウンターの糸口を探る。
70分を過ぎると、アタランタはスコアレスでもOKというようにより守備に寄った形となっていたが、リトリートしっぱなしではなかった。
マドリーが全員敵陣に入ってボールを回す中でも、何かあれば出ていくよという意図が見える交代だったし、フレッシュなプレーヤーを中心に、チャンスがあれば奪って前へ行こうとしていた。
ここでただ守るだけにならないのが、アタランタのらしいところなのだろう。
意外と準備していたセットプレー
唯一の得点はコーナーから。
ショートコーナーからパスを繋ぎ、前述の通りサイドバックにとらわれないポジションで活躍していたメンディが右足でコースを突くうまいシュートを決めた。
ジダンは、メンディが蹴る形ではなかったと笑いつつ、セットプレーの準備はしてきたことを認めている。
イスコの起用など工夫はしつつも、流れの中で点を取ることは難しいことを認識して準備していたことをうかがわせるコメントだ。
しばしば見られるショートコーナーは、ピッチ上のアドリブなのかと思っていた。
ところが、少なくともこの試合に向けてはセットプレーの準備があったわけで、これまでの印象とは違う、意外な面が見えたゴールであった。
週末のバジャドリー戦でもセットプレーで得点しているし、この試合で見られたコーナー以外のフリーキックでも、ファーに高さのあるプレーヤーを集めてクロースが蹴りこむ形は意識しているように見えた。
ニアに飛び込んで勝負するタイプのプレーヤーがいないこともあるが、高くて強いプレーヤーを単純に生かす形を徹底しているようだ。
カゼミロがベンゼマに次ぐ得点源となっているのも頷ける。
最後に
第2戦ではカゼミロを累積警告で欠く。
消極的なポゼッションで試合を終わらせるような姿勢では、アタランタの積極的な守備でやられるリスクを負うことになる。のらりくらりでスコアレスなど望むべきではない。
この試合でアタランタの攻撃に繋げる守備はほとんど体感できなかった。第2戦でいきなりは対応できない恐れは十分にある。
危ない失い方はしないよう管理はしつつ、重心が下がりすぎないようプレーしたいところだ。
あとは負傷者がどれだけ帰ってこられるか。
カゼミロがいない中盤にバルベルデが使えるかや、ベンゼマが帰ってこられるかによって、選択肢もプレーの質もかなり変わってくる。
第1戦をせっかくうまく乗り越えたのだから、これを無駄にしないよう準備してほしい。