「今年の夏は終わった。」
これが7月半ばまでのマドリーにおける移籍市場に対する認識であった。
心もとなかったセントラルの層を厚くするリュディガーと、中盤の世代交代を狙うチュアメニの2手で、早々に新チームの構築に取り組む…はずだった。
しかし、プレシーズン最初のわずか2試合で時計は巻き戻されたかもしれない。
理由はもちろん、ベンゼマがいなかったバルセロナ戦で枠内シュートなしに終わり、次のクラブ・アメリカ戦で復帰したベンゼマがバロンドーラー(予定)の実力を示すゴラッソを決めたからだ。
この対照的な結果は、フォワード補強問題に再び火をつけることになった。
昨シーズン、ベンゼマが長い離脱をせずに済んだことは幸運だった。
コンディショニングのうまさはあったのだろうが、試合で大きな負傷をせずに済んだのは正に運の良さ。
今シーズンは冬にはW杯もあり、昨シーズンよりも負担が増えることも明らかであるから、同じように無事息災に今シーズンを終えられることを前提とするのは怖い。
しかも、控えは脆弱だ。
信頼はほとんどなかったものの一応の2番手だったヨビッチは既にフィオレンティーナへ去り、マリアーノはそんな彼よりも下の序列。
できることならマリアーノを売ってレンタルから復帰してきたマジョラルは残したいが、実績を積んできたマジョラルの方に引き合いがあってヘタフェへ移籍となりそうで、一番信頼されていない(しかもその度合いをバルセロナ戦で更に深くした)マリアーノが残る可能性が今一番高くなっている。
「大きすぎるベンゼマと控えとの落差を埋め、いざという時の保険となる戦力を加えるべき」との考えは理に適っている。
では、誰と契約すれば良いのか?
前提となる条件は、概ね次のようなものになるだろう。
- ベンゼマが健康なら、重要な場面での出番はほぼない。
- 最低限マジョラル程度の実績は欲しい。
- かかるコストは低いほど良い。
ポストベンゼマに向けて若手有力株が欲しいのはやまやまだが、1と3のために不可能だ。
ヨビッチの失敗が良い例で、出番が少ないために期待したラインに近づくどころか、どんどん遠ざかってしまった。
今は誰がやってきても、9番の位置でのポジション争いは事実上発生しない。
ベンゼマの現行契約が残る2年間は、例えるなら安い掛け捨ての保険に入って出費を抑え、2年後に今後10年に渡って頼れる商品を探そうとするのが妥当なところではなかろうか。
そう考えると、これら3つの条件を満たせるのは移籍金が非常に安いかフリーのベテランのうち、数年にわたり実績を残しており、ベンゼマに最適化されているチームでもそれなりに点数を取れて、出番が少なくても文句を言ってチームに悪影響を与えないプレーヤーということになる。
が、どう考えてもこれは虫が良すぎる。
ロナウドがマンチェスターユナイテッドとの契約を解除した上で、マリアーノ程度の年俸で契約してくれ、2年間ベンゼマの控えでもチームのモラルを低下させないというような、およそ現実味のない話だ。
最近ジェコの可能性が報道されているものの、「補強が必要だ!」と報じられつつも彼以外に具体的な名前がたくさん出てくるわけではないあたりに、条件の厳しさが表れているように思われる。
さらに言うと、素敵な候補がいたとしても、今契約してしまうと8月に大セールをしなければならなくなってしまう。そうなれば、今売れそうなアセンシオやマジョラルの値段も下がることになる。
マドリーは幸いにしてサラリーキャップなどの懸念はないようであるが、ペレス会長が先日述べていた通り今は売却を優先するタイミング。一通り整理が済んでから控えを探す手順とするのが定石だ。
ただ、そうこうしていると皆契約先が決まっていってしまう。
マドリーが必要とするような実績あるベテランであればあるほど、出番が確約できる中堅どころからも声がかかるだろうし、イングランドであれば中堅~下位クラブであってもそれなりの年俸を提示できるので、市場からいなくなる可能性が高い。
売却を先に済ませ、その時に市場に残っているプレーヤーにとても厳しいフィルターをかけて該当者を探してくる。
この作業を経て、望ましいプレーヤーと契約するのは非常に難しいことのように思える。
バルセロナ戦ではアザールの偽9番起用があり、アンチェロッティは今後の選択肢として考える旨の発言をしている。
問題の難しさを踏まえると、クラブとしてもベンゼマの控え問題の解決策を市場に求めることはほぼ諦めており、現有戦力でお茶を濁そうと考えているのではないかとも思われるが、どうだろうか。