いよいよモドリッチの移籍が正式に決まりそうな状況。
時期的には、第1節に間に合うかどうか、というところであり、8月中旬に開幕するシーズンとはいえ、モラタのような昇格選手ではなく、外部からの最初の獲得選手としては、契約は非常に遅くなっている。
もちろん、移籍金について、言い値をそのまま飲む必要などない。
カルデロン時代などは、大枚を叩いて相手クラブの言い値を払うような交渉をしており、そうした取引は長期的な視点でもクラブのためにならない。マドリーなら高くても払ってくれるという印象を多くのクラブに与えてしまうからだ。
その点で、数百万ユーロをめぐってやり取りが続いているモドリッチの移籍に対するマドリーの態度は、我慢強く見守るべきものだ。
一方で、仮に合流できたとしても、非常に遅い時期、すでにプレシーズンは終わり、公式戦が始まった状態で合流しなければいけないというリスクはある。
後に怪我があったとはいえ、シャヒンはそれで今苦しい立場にいるのだし、世界で認められるような選手であったとしても、このリスクは過小評価するべきものではない。まして、今オフのように、他の獲得候補についての交渉にも影響してしまうような状況ではなおさらだ。
その意味では、マドリーの交渉は忍耐強いものではあったが、賢いものではなかったとも言える。
特に指摘しておきたいのは、説得力のあるプランBがなかったということだ。
代替案の存在は、交渉相手のクラブに、移籍金が手に入らないかもしれないリスクや、モチベーションの上がらない選手を抱え込むリスクを負わせるもので、交渉においては脅しとして重要な意味を持つ。
マドリーが求めていたのは、シャビ・アロンソだけではできないショートパスの攻撃の形を作れる選手だが、報じられてきた選手の中では、モドリッチの能力や実績は余りにも図抜けていた。
そのため、モドリッチの移籍交渉においてのプランBとして、トッテナムにプレッシャーがかかることは、余りなかったのではないかと想像している。
実績的にモドリッチを上回っていたのはシルバくらいのものだし、シルバはシティに売却の意向はさらさらなかった。
そのほかには、一時期ブラジル期待の新生であるルーカスが騒がれていたが、彼もヨーロッパでの実績はなかった。彼は結果としてPSGに移籍し、こうした若い選手の移籍金としては破格の金額が動いているが、マドリーがルーカスについてそこまで払うかは疑わしかった。
それに、そもそも彼ら2人はトップ下の選手であり、マドリーが求めている、もう一列下がったところでゲームを作れる選手とはタイプの異なる選手だった。
最近はデンベレの名前も取り沙汰されているが、とってつけた感が否めない。
結局のところ、マドリーはトッテナムに対し、「そんなに高いなら別に良いよ」というジェスチャーを最後まで出来なかったのだ。
ちらほらと交渉からの撤退を仄めかす記事があったことは事実だが、今オフにこうしたタイプの選手と契約するとしたらモドリッチしかないだろうと、ダニエル・レヴィを含む誰もが思っていただろう。
モドリッチの能力に疑問はないが、最初に書いたように、合流の遅れが今シーズンのモドリッチ、そしてマドリーに良い影響を与えることはない。
モドリッチは、ボールを持った時に攻めが難しくなりがちだった作シーズンのマドリーに、新しい解決策を持ち込んでくれるはずの選手だ。自身の得点能力はそれほど高くはないが、短いパスで攻撃を形作れ、しかも守備も頑張れる貴重な選手と言える。
そうした選手の合流が遅れ、昨シーズンと同様にリトリートした相手に苦しむようでは、そしてそれで勝ち点を落とすようであれば、マドリーにとっての今オフの交渉は、仮に支出が少なかったとしても、大きな失敗となってしまう。
他のポジション、具体的には右サイドバックの選手の獲得にも影響を与えており、モドリッチに関してプランBがなかったことは、マドリーの今オフに大きな問題を与えている。