レアルマドリードのある生活

レアルマドリードの応援日記。試合中心にお送りします。

ジダンの責任はどこにあるか

初めてシーズンスタートからトップチームを指揮するジダン。序盤こそ勝利を重ねてきたが、ここにきてビジャレアル(1-1)、ラスパルマス(2-2)、CLドルトムント(2-2)、エイバル(1-1)と4試合連続の引き分けと、苦しんでいる。

ドルトムント戦は苦しい中でも勝ち点を拾ったと言える一方、エイバル戦は結果も出せず内容も悪いままと何の光もなかった。引き分けといっても一様ではなく、様々な変化があるもの。そうは言っても、4試合で1つも勝てないということ自体、マドリーというクラブは受け入れがたい。案の定、ジダンの監督としての立場に言及されることが増えてきた。

チームのプレーについては各試合の記事においてそれぞれ書いているので、今回はジダンに的を絞って、これまでの経過と現状に触れつつ課題をまとめてみたい。

■ないものねだり

しばしば見られるのは、ジダンに戦術的な改善が見られないという言説。

カゼミロの離脱以降、守備の強さが落ちたのはもちろん、中盤より前が無秩序になっており、攻撃的なプレーヤーが並ぶもののチームの攻撃の質は返って下がるという状況になっていて、なかなか解決策が見出せずにいることは確かである。

ただ、ジダンに戦術的な引き出しが多くないことは就任当初から分かっていたことだ。

就任時に書いたように、経験が浅く、監督としてのキャリアはまだまだこれからだし、現役時代の栄光による求心力があり、プレーヤーと良い関係を築いて良いプレーを引き出すタイプであることは明らかで、当時のチーム状況から言っても求められていたのはその点に他ならない。

当時の惨状からチームを立て直し、CL優勝に至る過程で戦術的な飛躍があったわけでもない。能力の高いプレーヤーたちに気持ちよくプレーしてもらうことに集中することで頂点に立ったと言っていいだろう。

だから、そもそも戦術家タイプではなく、チームの雰囲気を維持して力を発揮させる調整型に特化しているジダンに、いきなり戦術的な引き出しを求めることに無理がある。

もちろん、就任以降の時間があったのだからその中で少しでも進歩があるべきだとは言えるが、不調になって急に戦術がないと騒いでも、もともとそういうタイプではないとしか言いようがなく、ないものねだりだ。

それほど戦術を大事にするのならば、ベニテス期に戻るべきとでも言うのだろうか。

プレーヤーの人心掌握ができず、チームが破綻したために今ジダンが監督に就いている経緯は忘れるべきではない。また、CL優勝時などは、デルボスケアンチェロッティといった監督のように、マドリーにはプレーヤーの調整役ができる人物が望ましかったのだと言われ、ジダンのやり方がマドリーに合っていると言われていた。

それを、不調に陥ってから「やはり戦術がない」と言うのは節操がない。

ベニテスに代表されるように、生真面目に戦術を整備しようとしても、切ないことに取り合ってもらえないことがしばしばあるチームなので、この点においては、扱いが難しいプレーヤーを黙らせられ、チームのために走らせることが(どんな試合でもではないにせよ)できることを評価すべきだ。

■戦力整備なしのジダンは苦しい

では、ジダンのどこに問題を見出すべきか。

最も大きなポイントは今夏の移籍市場での振舞いにあると私は考えている。

今夏はモラタの買い戻し、レンタルから帰ってきたコエントラン、アセンシオの残留があり、ヘセ、アルベロアが退団。大きな移籍は加入、退団ともになかった。

CL優勝後というと、現有戦力の維持が望まれながら最も重要だったディマリアを失ったオフが思い出され、フロントも含めそういった暴挙に出なかったことはマドリーとしては稀有のことであり、戦力を位置から整備するようなことにならなかったことについて一定の評価はできる。

だが、カゼミロの控えを結局獲得しなかったことは現在の厳しい状況に直接繋がっていると言え、その点についてはジダンの責任を指摘せざるを得ない。

補強は監督だけでなく、フロント全体の仕事ではあるし、ことマドリーではペレス会長の意向が強く反映されるので、監督が全ての責任を負うものではない。

それでも、ジダンは夏の会見で何度も補強に消極的な発言を繰り返していた。「今のチームに満足している」というのは会見での常套句と受け止めるにしても、「中盤にプレーヤーを加えるのは人員過多になるため難しい」といった趣旨の発言は何度もあった。これは彼自身が現状維持を志向していたことを示している。

現状維持が基本となった背景には、今冬と来夏に課される予定の補強禁止処分の影響もあるだろう。

明らかに多すぎた攻撃的な中盤でハメス、イスコが残留したことを見ても、まずはできるだけ放出したくないという考えが見て取れる。そこにスタープレーヤーを出したくないペレス会長の意図がなかったわけではないだろうが、先程の発言通りジダンも放出がないことを事実上追認していた。

また、第3CBのバランのみならず第4CBとしてはもったいない実力のナチョも説得し残留となった経緯もあり、ジダンにも先を見据えて現状維持が優先との判断があったことは間違いない。

彼は上で述べたように調整型に特化した監督であるので、良いメンバーによるチームを作っておいて、彼らに気分良くプレーしてもらうことに力量を発揮する。逆に言えば、戦力的に劣っていたりバランスを欠いたりした状態を改善するのは不得手で、そもそも良いチームがなければ、ちょっと離脱があっただけで苦境に陥りがちになるということだ。

そうであるのに、昨シーズンを経て明らかに重要と分かっていたカゼミロのポジションに戦力を加えなかったことに、大きな問題がある(左サイドバックも同様だが、マルセロと同じ役割を果たせる左サイドバックはほぼいないので、同列に扱うことは避けたい)。攻撃的なクロースのアンカーでの起用や、攻撃的なメンバーによる組み合わせを変えてのバランス調整は、戦術家タイプでも頭を悩ませる大きな課題で、ジダンのような監督で解決することは難しい。

ジダンはそうなるリスクを避ける機会があったにも関わらず、チームに余りにも手を加えなさ過ぎた。

彼は、ペレス会長に補強を依頼することもできたはずだった。

近年のマドリーの監督の中でジダンが異色なのは、クラブのスタープレーヤーだったということ。ジダンが好成績を挙げられない場合でも、やり方を間違うとマドリディスタから強い擁護論が出る可能性は高く、そうなるとペレス会長にまで飛び火する恐れがある。そのため、ペレス会長はジダンを他の監督と同様に扱うわけにはいかない面がある。

にも関わらず、ジダンもまた現状維持を繰り返し表明したことで、方向性が極端なまでに現状維持に偏ったオフを過ごすことになり、今のような苦しい状況を招くことになってしまったと言える。

将来の制裁を考えて現状維持するのは良いとしても、それが強い原則となり過ぎ、2列目より前のプレーヤーが多く、守備的な仕事ができるプレーヤーが非常に少ない戦力の偏りの修正さえも行わなかったことは、ジダンとしては痛恨の失敗だった。

■今を凌いで危機を回避できるか

夏の補強策をやり直すわけには行かないので、層は厚いがバランスの悪い戦力で何とか立て直していかなければならない。

救いは、負傷者が帰ってくるまで凌ぐという時間制限がついている点だ。カゼミロ、マルセロ、モドリッチといった面々が復帰してくれば状況は変わるだろう。

依存という言い方もされるが、これまで述べてきたようにジダンは良いプレーヤーを存分に働かせるのが強み。彼らが特別なプレーヤーであることはもちろんだが、彼らに依存しているというよりは、ジダンの真価は、そもそも良いチームがあってこそ見られる。

その意味で、今回のように負傷者が相次がないよう、コンディションは適性に管理していくべきだし、オフの戦力整備をきちんと行っていくべきだ。

ジダンが本当の危機に陥るとすれば、負傷者が帰って来ても内容に改善が見られない場合だ。

主力が万全でも結果を出せないならば、ジダンが指揮を取ることの価値は低くなる。そうなると、補強できないオフを控えていながら監督を変えることを検討するという酷い状況に陥ってしまう。

いきなり魔法のように素晴らしい戦術が生み出されることはなく、プレーヤーが動いてくれることを祈るしかない。そこにジダンの強みがまた生かされることがあれば良いのだが。