8月いっぱい盛り上がったエンバペの移籍騒ぎだが、結局移籍は成立せずに終わった。
ただ、現行契約は来年6月末までだから、年末が近づくにつれて契約延長かボスマン移籍かと盛り上がることは目に見えている。
僅か3、4か月先のことであるから、現状のおさらいをしつつ、今後の展望について予想してみたい。
前提
カタール投資庁の子会社QSIがPSGのオーナーとなったのは2011年のことである。
前年の2010年には、カタールでの2022年ワールドカップ開催が決定しており、カタールはPSGを窓口として、このW杯、ひいてはカタールのPRを行えるようになったのだった。
クラブの会長はケライフィ氏で彼が形式上の最終決定権者なのだが、こうしたことから、投資庁を通じ国家としてのカタールの意思が働く形となっていると考えられる。
これまで多くのプレーヤーと契約してきたが、ネイマールとエンバペはカタールにとって特に重要な位置を占めていて、PRの中核をなしてきた。
その彼らに、W杯開催を翌年に控えた今抜けられるとなれば、カタールのイメージ戦略に多いな狂いが生じることになっていたのだ。
このことを前提として話を進めようと思う。
問題は金額にあらず
先述の通り、PSGにはカタールの意思が強く反映される。
エンバペを移籍させるかどうかは、スポーツ面でPSGが受ける影響以上にW杯に向けた戦略への影響が大きいから、マドリーは最終的にはカタールを納得させる必要があった。
さて、カタールは産油国であり、世界で最も裕福な国の一つである。そうでなくても、単なるフットボールクラブと国家では扱う予算額の桁が違うのは当然だ。
だから、報じられていたように、1億5000万ユーロの移籍金が1億8000万ユーロになろうが、彼らにとって大きな差にはならない。
カタールに納得してもらい、移籍の合意を得るためには、彼らにとっての端金を増やしても仕方がないのである。
その意味で、メディアによる圧力は意味がないとしたマルカの記事は的を射ていた。
カタールにとってのポイントは、このタイミングでエンバペを手放すことによるイメージ戦略へのダメージがどの程度か、他の誰かで代替可能かということだった。
今オフ、たまたまメッシやセルヒオ・ラモスをフリーで獲得できたので、スポーツ面では彼らも主役のうちの一人になるだろうが、イメージ戦略はそう簡単にはいかない。
これまでエンバペとネイマールで何年も積み重ねてきたものをリセットすることになるのだから。
こう考えると、少し噂になったリシャルリソンでは動かせなかったことが良く分かるだろう。
ペレス会長が、カタールにとっての代替要員として提案できるよう代理人に声をかけたともいわれているが、W杯に向けた顔とするには弱い。少なくとも現状において、エンバペを失うダメージを彼でカバーできるということは想像しづらいのだ。
カタールが納得するプランが見つかったら、マドリーは可能な範囲で移籍金は用意しただろう。
しかし、スポーツ面ではなく、イメージ戦略における代替要員をカタールは見つけられなかった。マドリーとしても良い提案ができなかったことから、金銭以前の問題として移籍が成立しなかったと思われる。
今後の展望を予想
W杯が無事に終われば、カタールとしてはエンバペをとどめておく強い動機はなくなる。
だから、ボスマン移籍になるだろうという説には、それなりに説得力がある。
ただ、クラブであるPSGにはPSGの意向があり、当然ながら彼らはエンバペと契約延長したい。
また、カタールがW杯後速やかにPSGへの投資や関与から手を引くかというところについても、個人的には疑問を持っている。
「重要なイベントが済んだので後は知りません、さっさと引き上げます」という態度と一般に見られると、それはそれで評判に傷をつけることになるだろうからだ。
さらに言えば、エンバペの思いもある。
報道通り契約延長を断っているとすれば移籍願望はあるのだろうが、一方でそれを公言はしておらず、事を荒立てようとするそぶりは見られない。
ここまで遇してくれたクラブに悪い感情は持っていないように見受けられる。
移籍を認める条項がつくのなら、延長して移籍金が残る形でPSGと後腐れなく道を分かつのではないだろうか。
こうしたことを考えると、年末あたりで移籍を認める条項をつけて契約延長する道筋が一番あり得そうに思える。
そうなればフリーでの契約とはならないが、マドリーとしては来年夏に無理のない金額で交渉の席に着くことができる可能性が残ることになる。
ちなみにレオナルドがマドリーはフリーでの獲得をもくろんでいると述べていたが、マドリーは節約することだけを考えているわけではない。
フリーになるならそれでもいいし、移籍金を使ってPSGから主力を獲得することの宣伝効果も大きい。
どちらの選択肢でもメリットを得られるから、どちらでも問題ないように準備して立ち回るだろうし、適正な範囲であれば必要な金額を用意するだろう。
もうチクタクはいりません
こんな風に考えているので、年末に向けてのスペイン側の盛り上がりにはこの夏ほどついていけそうもない。
今夏に可能性がなかったわけではないが、大した進展もないのに毎日引っ張るメディアがあったことは確かだ。
ツイッターでは毎日のように思わせぶりにチクタクチクタク書かれていて、「衝撃の事実はCMの後で!」みたいな引っ張り方は世界共通なのだなと思わされた。
それが多くの人に見えるようになったことには意義がある。こうして少しずつリテラシーは上がっていくのだろう。