ジダンの退任が正式に発表された。
ペレス会長からは慰留されたとも報じられていたが、結局契約期間を1年残しての退任となった。
2回目の監督としての道筋を振り返ってみたい。
軟着陸を目指した再就任
ジダンがCL三連覇を置き土産に退任してから、マドリーは三連覇期のサイクルからの脱却を図っていた。
もちろん、ロナウドの移籍が大きな要因となったことは間違いないが、退任時にジダンが述べたような「勝ち続けるためには変化が必要だ」という考えのもと、次のサイクルを目指したのだった。
その後を引き継いだロペテギはベイルを中心としたチーム作りを模索するも失敗に終わった。
シーズン途中から監督を引き受けてくれたソラーリは、ビニシウスを本格的に戦力として運用し始めた。ロペテギが手を付けたサイクルを変える仕事を、より強い形で押し出したのだ。
ところが、タイトルには手が届かなかったことで、ペレス会長は選択しなければならないこととなった。
タイトルを取れないシーズンがもしかすると続くかもしれないが、世代交代を一気に推し進めるのか。
世代交代の進みは遅くなってもタイトルは目指せる可能性は残す軟着陸をするのか。
ペレス会長はジダンに再就任を依頼し、後者を選んだのだった。
ロペテギ、ソラーリと監督が代わる状況で、世代交代が想定より急進的に進んでしまいそうだとの認識だったのだろうか。
当時の状況は想像するしかないが、急激な世代交代が行われる雰囲気となっていたら、三連覇期の主力でありかつベテランとなったベンゼマ、セルヒオ・ラモス、マルセロ、モドリッチといった面々が不満を溜めていてもおかしくはない。
主力は移籍してしまい、経験のない若いプレーヤーが後ろ盾もなくプレーするという恐ろしい事態になる可能性はあっただろう。
そうした事態を回避するためには、ジダンの再就任が最適だった。
温厚でプレーヤーからの信任があり、何より三連覇期のメンバーとの関わりが深い彼なら空中分解のリスクは低く抑えられると思われたからだ。
実際に、2シーズンにわたり三連覇期のメンバーを主力として維持し、昨シーズンはリーガを制することができた。
しかも、マルセロからメンディへの世代交代や、ビニシウスを変わらず使うといった世代交代も意識しての用兵であったから、ジダンは再就任時の当初目標を達したといっていい。
ジダンの限界
一方で、今シーズンはジダンの限界も明らかになってきた。
次世代を担ってほしいビニシウス、アセンシオ、ロドリゴといったエストレーモが一番外のスペースを担うことで、得点やアシストができるポジションから遠くなってしまう形を採っていたことが、まず挙げられる。
彼らを脇役とすることで、ベンゼマが輝き、サイドバックは自由と責任を担った。これによりバスケスがここにきて不可欠な存在になるという思わぬ成果も得たのだが、得点力不足は解決には程遠い状況となってしまった。
若い戦力に少しずつ重要な役割を担ってもらい、ロナウド以降の課題をクリアしようとする観点から見れば、ジダンのやり方は合っていなかったのである。
また、中盤の三人衆モドリッチ、クロース、カゼミロがここにきて全盛を迎えた反面、彼らに挑戦した若手を戦力化することもできなかった。
今シーズン、満を持して帰ってきたエーデゴーアも出場機会が少なくアーセナルへレンタル移籍している。
実力が届かないという厳然たる事実はあるにせよ、控えとしても戦力化できなかったことで厳しいやりくりを強いられることとなり、将来に向けても不安を残すこととなった。
もともと若手を生かすために再就任したのではないから、これらのことはある程度予想されていたことではある。
タイトルを取れていれば違った雰囲気になっていたのだろうが、今シーズンは無冠に終わったことで、これらの点がより強く印象付けられることになった。
結果的に、ベテランを生かすジダン路線の継続からの脱却を望む論調が醸成されることになったのだ。
いよいよ「ポスト三連覇時代」へ
それぞれの監督の特性があり、ロペテギやソラーリが三連覇期の主力から離れてチームを運用しようとしたのと同様にクラブからの要請もあってのことだろうから、どちらのやり方の方が正しいというものではない。
一定の能力があるのなら、あとは時と場合により、合う・合わないという相性があるというだけのことだ。
ただ確かなことは、三連覇期は今回の退任によって本当に終わりを告げるということだ。
ジダンが続投していたとしても、ベテラン勢を今シーズン同様に起用することはコンディション的に難しいことが想定されていた。
しかも監督も代わるのだから、ここからいよいよ「ポスト三連覇時代」が始まることになる。
今思えば、三連覇直後の変化は急過ぎたのだろう。そのために起こった悪影響をジダンは鎮める役割を担い、タイトルを取った。
そして、意図的ではないにせよ、今シーズンの無冠によってサイクルを変えることに正当性を与えることにもなった。
ジダンは、良いことも悪いことも全てを引き受けてサイクルを回したのだ。
今こそ、彼が言った「勝ち続けるためには変化が必要」という言葉と、その実践が必要とされる時である。